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ECOFF台湾 視察報告(4)これぞECOFF!雲林視察で最も印象に残った「吉祥農園」

「午後ならいつでも。夜ならもっと都合がいいね。」

農園を訪ねるなら何時ごろが良いのかを聞いたところ、そうおっしゃったのは「吉祥農園」の施さんです。

農園の視察なのに、なぜ夜の方がいいのだろうか? と思っていると、夜に仲間を呼ぶからとのこと。それは好都合だと思い、夕方に施さんの農園を訪れることにしました。

吉祥農園さんは、街の中心部からバイクでわずか15分ほどの場所にありました。

とはいえ田舎町の15分です。バイクを走らせると、それまで立ち並んでいた建物は、あっという間に見えなくなって代わりに田畑が姿を見せ始めました。

幹線道路を離れると街灯がなくなり、森のような雰囲気になります。だんだんと暮れていく陽のなかに突如家屋が現れました。どうやら、ここが吉祥農園さんのようです。

施さんに電話をすると、電動車椅子を走らせてスウッと姿を現しました。直前まで畑で作業をしていたようです。

体が不自由にも関わらず、そんな素振りは一切見せずに自然農法を実践しているとは、恐れ入ります。

まずは、お茶でも飲んで話しましょうと勧められ、ぼくたちは農園がある集落の話や、施さんの考えを聞いたり、ECOFFの理念を語ったりしました。

施さんとぼくの考え方には共通点が多く驚きました。また、多品種で自然農法をされていることや、パーマカルチャーを応用した家屋など、学べることもたくさんありました。

作業は年間を通じてあり、自然農法のことだけでなく、集落の歴史を学んだり、伝統行事にも関われそうで、ECOFFの活動場所としてはうってつけです。

1時間ばかりお話をしていたところに、施さんの農家仲間がやってきました。

こだわりのお茶を栽培する農家さんからは、とっておきのお茶をご馳走になり、自然農法の推進団体「中華MOA協進會」の認定第1号農家さんとも知り合うことができました。

施さんのこうした仲間の農園でも、ボランティア活動ができそうなことから、ここで活動をすれば幅広く農業と地域のことを学べるのは間違いなさそうです。

日がとっぷりと暮れ、お酒も振る舞われ始めた頃、施さんがお寺の様子を見に行こうと言いました。

実は今日は、お寺で神がかりが起こる日だったのです。

台湾には「ジートン」という神がかりがあります。神様が人間の体に乗り移って預言をするのです。

都会ではなかなか見かけることができませんが、田舎だと頻繁に目にする機会があり、ぼくも澎湖(ポンフー)で何度も見学したことがあります。

話を聞くだけだと、ほとんどの日本人が迷信だと感じますが、実際に見てみると何か自然界を超越する存在を思わせる台湾のトンデモ儀式です。

台湾の神様は寛容なようで、SNSでジートンの儀式を配信している人も多いため、興味がある方は検索してみると良いでしょう。

そんなジートンが、今晩やってくる。

澎湖では何度も見たことがありますが、台湾では一度も見たことがありません。

きっと澎湖とは異なるはずだと思い、徒歩5分ほどの場所にあるお寺へ、施さんと共に向かいました。

この村では毎週金曜日に神様がやってくるそうですが、何時に来るかまでは分からないため、地元の方が4、5名集まって世間話をして待っていました。

日本の閉鎖的な集落ですと、このような神聖な儀式にヨソ者が混じるのを、よく思わない場合があります。

しかし、この村ではそんなことはなく、ぼくが日本人と分かっても歓迎してくれました。

ただ、ぼくらは手持ち無沙汰です。そこで施さんにお寺の説明を受けることにしました。

このお寺も澎湖と同じで道教のお寺ですが、少しだけ違いがあり、その点が興味深かったです。

「ここは公共のお寺だけど、個人のお寺もあるんだよ。」

お寺の周りも一通り案内してくださった後に施さんが言いました。

歩いて1分もかからない場所に個人が建立したお寺があり、軒先ではご家族10名ほどがお茶を飲みながら談笑していました。

こちらも毎週金曜日に神様がやってくるそうですが、残念ながらぼく達が訪れた時はすでに神様は去っていたようでした。

お寺と言うよりは、あくまでも立派な仏間といった感じですが、50体はあるのではないかと思われる神像がズラリと安置されており、大変神聖な雰囲気です。

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そこに1人の男性がやってきて、道教の神様の説明をしてくださいました。後で知ったのですが、この男性こそが、このお寺のジートンでした。どおりで詳しいわけです。

道教にはたくさんの神様がいること。その神様のほとんどは誰かの祖先であること。戦争が起きると亡くなる方が多いため戦後に多くの神様が現れたことなど、ていねいにご説明いただきました。

その後は、ぼく達も家族団らんに加わり、お茶やお酒を飲み交わしながら様々なお話をしました。

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さっきまでは見ず知らずだった人と、こうして話をして様々な文化を学ぶ。これぞECOFFの活動そのものです。

だんだんとお酒を飲むスピードが早くなり、ふと気付きました。

あれ、最初のお寺のジートンはどうなったんだ?

毎週金曜日に来るのが恒例とはいえ、場合によっては来ないこともあるのだとか。もしかしたら今日は来なかったのだろうか。だとしたら、ぼく達という異物が原因だったら気まずいなあ、と思いを巡らせました。

しかし、肝心の施さんが一向に動かないので、まあもうどうでもいいかと思い、談笑を続けているとあっという間に23時過ぎに。

さすがに明日の予定もあるので、ぼく達は吉祥農園のある集落を離れました。

宿泊しているホテルまではバイクでわずか15分ほど。森の中から急に都会に出てくると、まるで狐に騙されているかのようです。

大都会と田舎。そこには同じ時間が同時に流れていますが、経験できることは正反対です。

全く同じだけの時間を使ったのに、吉祥農園さんにいた時の方が濃く感じるのは何故だったのでしょうか。

それは、自然と関わり、現世を超越した存在を崇める人間本来の暮らしがあったからです。

ゆったりとした人間本来の時間を味わうことに経済的な意義はないかもしれませんが、何か心に残るものがあります。

吉祥農園さんでの長い夜は、ECOFFがするべきことを改めて思い出させ、今回の雲林視察の行程でもっとも印象深い時間となりました。

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