脳に情報を「書き込む」(前編)
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脳に情報を「書き込む」(前編)

こんにちは。東京大学医学部を卒業し、現在は東京大学の池谷裕二先生の研究室で脳と人工知能をつなぐ研究をしている紺野大地と申します。

私は現在"脳と人工知能をつなぐ研究"をしていますが、これを本当に実現しようと考えたとき、2つの重要なポイントがあります。

一つは"脳情報の読み取り(read-out)"、もう一つは"脳への情報の書き込み(wtite-in)"です。

脳情報の読み取り・書き込み

脳への情報の読み書き

そこで今回は2日間にわたって、
"脳への情報の書き込み(write-in)"についての新しいテクノロジーや最新の研究を紹介していきたいと思います。

(もともと1つのnoteとして書き始めたのですが、書くのが楽しくなり予想以上に長くなってしまったため2つのnoteに分割しました。年末年始にのんびり読んでいただければ幸いです。)

さて、"脳情報の読み取り(read-out)"とは、
「記録した脳活動から、その人の考えていることや気分を読み取ること」
であり、例としては
「脳活動を人工知能で読み取り、考えていることを文章に翻訳する」などが挙げられます。

一方、"脳への情報の書き込み(write-in)"とは、
「脳を適切に刺激することで、狙った運動や感覚を生じさせること」
であり、例としては
「視覚野を刺激し、実際には存在しないリンゴが"見える"ようにする」などが挙げられます。

"脳と人工知能の融合"とは、人工知能を用いてこれら2つを高精度で行うことだと言っても過言ではありません。

なぜなら、私たちが体験する世界は究極的にはすべて脳が作り出したものだからです。
たとえば、「リンゴが見える」という感覚も「ラーメンがおいしい」という感覚も、すべては脳の活動から生み出されています。

ですから、脳情報の読み取りと書き込みが完璧にできれば、
「そこにリンゴがなくてもリンゴが"見える"」
「実際にラーメンを食べていなくても"美味しいと感じる"」
という感覚を人為的に生み出すことができるはずです。

他にも、医療に応用すれば、失明した人の視力を取り戻すことや末期癌の痛みを消すこともできるでしょう。
このように、脳への情報の読み書きには無限とも言える可能性が秘められています。

このうち、前者の"脳情報の読み取り"は近年急速な進歩を見せています。

たとえば、
脳の活動を人工知能で読み取り、考えていることを文章に翻訳する
他人が見ている夢を可視化する
など、人工知能の進歩により"脳情報の読み取り"の精度は加速度的に上昇しています。
この先も、さらなる進歩が続くことは間違いないでしょう。

"脳情報の読み取り"の最新研究

一方で、"脳への情報の書き込み"はまだまだブラックボックスです。
その最大の理由として、
「脳をどう刺激すればどのような感覚が得られるか」の知見がまったく足りないことが挙げられます。

とはいえ、"脳への情報の書き込み"においても近年様々な進歩が見られています。
そこでこのnoteでは、"脳への情報の書き込み"についての新しいテクノロジーや最新の研究を紹介したいと思います。

内容は以下になります。

 1. "脳への情報書き込み"の歴史(本note)
 2. "脳への情報書き込み"の最新研究(本note)
 3. "脳への情報の書き込み"に用いられるツール(次note)
 4. すべては脳が生み出している"仮想現実"(次note)

では、始めましょう。

1. "脳への情報書き込み"の歴史

上で、"脳への情報書き込み"はまだまだ進んでいないと述べましたが、実はすでに活用されているテクノロジーもいくつか存在します。

代表的なものは「人工内耳」です。
人工内耳は、難聴の人にデバイスを埋め込み聴力を取り戻すテクノロジーです。

記録された音はデバイスにより電気信号に変換され、聴覚を支配する内耳神経が刺激されます。

人工内耳は「音という情報を脳に書き込むデバイス」であり、"脳への情報書き込み"の大きな成功例です。

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人工内耳の模式図

他にも、2006年にロンドン大学で発明された「人工網膜 Argus Ⅱ」は、視神経を刺激することで「視覚情報を脳に書き込む」ことが出来ます。
Argus Ⅱは2020年時点で既に350人の患者に埋め込まれ、視力の回復に成功しています。

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人工網膜のイメージ図

このように、現時点でも既に"脳への情報書き込み"に成功している例はいくつか見受けられます。

ですが、これらには大きな問題点があります。
それは、「これらのデバイスは末梢神経を刺激している」点です。
いったいどういうことでしょうか?

医学的には、内耳神経や視神経は「末梢神経」に属します。
(※ 脳神経の中でも、嗅神経と視神経は中枢神経に属するという意見もあります。)
すなわち、これらのデバイスは「脳そのもの」に直接情報を書き込んでいるとは言い切れないのです。
「脳そのものに直接情報を書き込む」とは、大脳皮質や海馬を直接刺激することをイメージしていただければ良いでしょう。

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中枢神経系(ピンク)と末梢神経系(オレンジ).
内耳神経や視神経などの脳神経は末梢神経系に属する.
(※ 嗅神経と視神経は中枢神経に属するという意見もあります.)

そこで次は、「脳そのものに情報を直接書き込む」ことについて一つのブレークスルーとなる研究を紹介します。

2. "脳への情報書き込み"の最新研究

ここで紹介するのは、

「視覚皮質を電気で刺激することで、アルファベットを認識させることに成功した」という研究です。

この研究では、視覚皮質を「まるでペンでなぞるように」電気刺激したところ、被験者は「Z」や「W」といったアルファベットを知覚できたというのです。

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出典:Dynamic Electrical Stimulation of Sites in Visual Cortex Produces Form Vision in Sighted and Blind Humans 
(©2020 Daniel Yoshor et. al., CC-BY 4.0)

これはとんでもない結果であり、
「会話することなく相手に意図を伝える」ことが原理的には可能となります。
この技術を応用すれば「画像を画像のまま」直接伝えることも不可能ではないでしょう。
まさにテレパシーですね。

この研究は、"脳への情報書き込み"における一つのブレークスルーとなるでしょう。
今後の発展がとても楽しみになってきます。

この研究では脳を「電気で」刺激していましたが、脳の刺激には超音波や光といった他のツールも用いることができ、それぞれに長所と短所が存在します。

次のnoteでは、脳を刺激する代表的なツールについて紹介し、それぞれの長所短所について見ていきたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました。続編は以下になります!


P.S. 脳科学を学び始めたい人のための入門ガイドも執筆しています。

また、神経科学や人工知能、老化についての最新研究を月3回深掘りする"BrainTech Review"も連載しています。
興味のある方はぜひご覧いただければ嬉しいです😊(初月無料です!)


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医師・神経科学者. 池谷裕二先生の研究室で脳とAIの研究をしています. 夢はbeyond human. 研究用自己紹介サイト:https://www.daichikonno.jp/