宝探しとハロウィン
世間では10月31日がハロウィンであるが、我が家は10月の後半、みなの体調が良い時かつ土日のどちらかと決まっている。
少し話はそれるが、この時期になると、家族のうち必ず誰かしらが、風邪を引きダウンしている。
何事にも体調は第一優先だ。
ただし、それは大黒柱の妻と子供に限る。
小柱の僕は対象外だ。
うちの家族は4人家族だ。
一度4人のうち誰かが風邪を引くと、その風邪を家族の中で、僕を除いた2人が取り合いをする。
そしてその2人の体調が整ってきたと同時に僕にバトンが回ってくる。
だから、この時間はハロウィンに限らず、僕が体調不良で皆は元気と言うことはざらだ。
何なら僕だけが重症化している。
その姿を、子供達は楽しそうに眺めている。
ああ、何て幸せなんだろう。
と感じる。そう僕はドMだ。
また悪い癖が出た。
僕は話がすぐ横道にそれる。
雑談好きにありがちな脱線症候群だ。
これも持病なのだろう。
話を元に戻す。
ハロウィンと言っても、テレビなどで仮装してパーティする様なイベントはやらない。
100円均一で買ったマントや帽子を帽子を娘達が被って、1日限定の魔法少女になる程度だ。
あとは、イベントをやって、夜ご飯に娘たちの好きなパンを食べる。
これが我が家のハロウィンの大体の1日の流れだ。
そして、そのイベントだが「お菓子をくれないと、イタズラしちゃうぞ!」がハロウィンの定型文であるが、我が家ではお菓子を自分たちで捜索する儀式を執り行う。
パック売りのお菓子などを購入し詰め合わせセットを複数作る。
これを部屋の見つけやすいところに配置して捜索を開始してもらう。
この「見つけやすい」がミソだ。
娘たちはとにかく飽きやすい。
どの程度飽きやすいか例えてみる。
大人が知育菓子を子供と一緒に、懐かしさに心打たれ、味覚をそっちのけで夢中になって作って食べる。
しかし、独特な風味と味に舌が反応し始める。
そのうちに大人になって肥えてきた味覚が顔を出し、お菓子を口に運ぶ速度は鈍化する。
最終的には手を止め、子供達の食べる姿を眺めて楽しむ。この時点で食べることは放棄している。
明らかに飽きた大人の末路だ。
ちなみにこの行動に対するエビデンスは僕だけである。
と言うわけで、とにかく飽きさせない仕組みが必要だった。
物探しについては見つからない事が最もイライラする。
これは大人子供関係なく、イライラポイントは同じだと思う。
探しているファイルが見つからないのは、不毛な時間で最もイライラする。それと同じだ。
あえて、「僕はここにいるよ!」とお菓子自信が主張するかの様にお菓子を置いておく。
すると早速それを見つけた娘たちのテンションはもう一気に「その気」になる。
そこからは大人の手の内でコロコロである。
娘たちはこれだから可愛い。
今回は8セットと特別お菓子を準備した。
一つは必ず見つけられない様、僕のポケットに忍ばせた。
いわゆる嫌がらせである。
この様なことでしか、娘たちと戯れられない。
そう、僕は悪い大人代表の自覚はある。
しかし、背に腹はかえられぬ、というやつだ。
あとは、引き出しの中、大型のものの裏側、掛け布団の中など、わかりづらいところに隠し、ある程度のレベル分けをした。
もう6年ほどこのイベントを開催しているから、準備から難易度設定まで含めて慣れたものである。
「それでは宝探しゲームをはじめます」
の掛け声と共に宝探しが開始された。
ちなみにこな掛け声は、バトルロワイヤルを少し意識したものだ。
特に意味はない。何かを始めるきっかけにはこの渾身のギャグを使う時が多々ある。
が、誰にも反応されたことはない。
そう言う時はいくらMな僕でもドキドキしてしまうから、生粋のドMに自分を昇格させることにした。
また脱線した。
話を元に戻す。
予定通り、チラ見しているセットはすぐに見つけて大はしゃぎだ。
計画通りに事が進み、天から愚民を眺める様な感覚に浸っていた。
実に気分がいい。
探せ、そこに家のお菓子を全て置いてきた!
そんな気分だ。
しかし、その時間は長くなかった。
と言うより、今天空にいた?と錯覚だったか、仕方ない、と言う気がするくらいの僅かな時間であった。
おおよそ、開始から2分半ほどすぎた。
余裕を見せつけながら、娘たちの様子を近くで観察してやろうと近づいた。
その時、僕は失態を犯した。
「シャカ」
僕の左ポケットから音がなった。
「おい!止まれ!」
普段丁寧な言葉遣いに定評がある長女だ。
学校の作文でも授業の姿勢でも、先生に褒められる事が多い。
子供の言うことは話半分で聞け、と言う言葉もあるが、授業参観の時も長女の言う通り、褒め殺しだったのだから我々親は鼻が高かった。
しかし、この時ばかりは「巡査」であった。
僕はぴくりともできず、その場で止まり調査を受けた。人生初の職質である。
ポケット左側を真っ先にあさられた。
一瞬だった。
「これはなんだ」
最難関と仕込んだお菓子セットが開始から2分半で見つかった。
これには妻の視線から殺意のようなものを感じ取り、直視できなかった。
そこからは殆ど記憶がない。
薬物所持をしていた犯罪者の様に打ちひしがれた。
全てのお菓子が見つかり楽しかったと言う娘たち。
子供や妻は結果しか評価しない、典型的な経営層向きな考えの人間だ。
一方の僕は、結果だけで評価するのはあまりにもかわいそうだから、と、プロセスも結果の一部と考える、お人好し凡人かつ出来ない男の典型である。
僕の犯した失態について問いただす彼女達の前で僕は1人落ち込んでいた。
いや、今も落ち込んでいる。
何なら、ミルクティーをやけ飲みしている。
おかげで腹痛になった。
そして、幻聴だろうか。
調子に乗るな。天罰だ。
と誰かに言われた気がした。
よし。
恒例行事について来年からはゲーム形式に見直そう。輪投げやくじ引きが平等で良いかもしれない。ジャンケンも良いな。僕の手をなるべく介さない方法を現在も模索しているが、とにかく宝探しだけはやめよう。
そう決心した夜だった。
僕は手先やエネルギーのかけ方について、誰よりも不器用なことを自覚している。
しかし、演技や立ち振る舞い、そして表面的なコミュニケーションには絶対の自信があった。
何ならこれだけで生き抜いてきた。
そこも含めて僕と言う人間が不器用だと知った今夜はきっと眠れないだろう。
妻よ、本当にすまない。
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