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スマホも便利だけど、哲学も便利です(『スマホと哲学』著者インタビュー)

『スマホと哲学』という奇妙なタイトルの本がある。スマホについて語られるのはごく一部であるが、哲学というものを知れば知るほど、スマホを手放せない自分が、大事なものを見失ってしまっているのではないかと思えてくる。考えることの大事さについて、著者にインタビューした。

──まず素朴な疑問として「哲学ってなに?」という疑問が多くの人にあると思います。

 哲学にもいろんなジャンルがあって、世界の真実を知ろうとしたり、人間の意識の秘密を知ろうとしたり、正義や法律について考えたりもします。定義も様々あるのですが、根本には「よりよく生きるために考える」という目標があると思います。
 でもそれだけだと、あらゆる学問だけでなく、夕飯の献立を考えることも哲学になってしまうので、私は「なんで?」を3回続ければ哲学になると説明することもあります。ちなみに「なんであなたはインタビュアーをやってるんですか?」

──えっと、そうですね。やはり、人のもっている魅力を引き出したいからですかね。

 では、「なんであなたは人のもっている魅力を引き出したいんですか?」

──う、うーんと、やっぱりその人から学んだり、勇気づけられたりするので、それを記事を通して読者の皆さんにも共有したいということですかね。

 なるほど。では、「なんであなたは他人に学びや勇気を与える仕事がしたいのでしょうか?他の仕事もいっぱいあるのに」

──え、それは、うーん。私はインタビュアーになろうとしてなったわけではないんですけど、読者のみなさんの反響を聞いていくうちに、この仕事にやりがいを覚えたかんじですかね。

 そうですか。3回聞いてしまったのでこのへんにしておきますが、さらに「なんで顔も知らない読者の反応でやりがいを感じるの?」みたいに続けることもできます。

──なるほど。それは説明するのが難しそうですね。

 そうなんです。自分がインタビュアーであるという現実から始めて、「なんで」を続けていくと、話がどんどん抽象的になっていきます。それは自分が何を大切にしているかとか、何を基準に行動しているかという、生き方の根本的な部分に関わっていくからなんです。私はこれを「なんでなんで作戦」と名付けて紹介していますが、3回くらいで内容が「哲学的」になってきますよね。

──たしかに、1つ目の質問はよくされるんですが、その先はあまり意識していないというか、言葉にしたことはなかったかもしれません。言語化することの大事さについても本で語られていますよね。

 哲学って割と当たり前のことばかり言ってるんですけど、当たり前のことでも言語化しないとどんどん間違った方向に進んで、いつの間にか当たり前のことができなくなっていくんですよ。家族のために働いていると言いつつ家族をないがしろにするとかね。

──耳が痛いです(笑)。「言語化しないと本末転倒した生き方になってしまう」という話、ここが哲学がスマホと同じくらい大事だというところの核心部分なのでしょうか。

 哲学っていうと堅く感じちゃいますが、今やっていただいたように「3ターン深めて考えよう」ぐらいでいいんです。ちょっと深めに考えて、言語化して整理する。これができるようになると、道に迷って本末転倒しないどころか、新しい道がいろいろ見えてくるんですよね。現実や自分自身のことを整理するだけでも見えてくることはいっぱいあるのですが、あまりそれをする機会がないから便利さがわかっていない。
 スマホは知らないことをいっぱい教えてくれますけど、膨大な情報のなかで、自分がよりよく生きるために何を選択するべきかまではわからないし、それって他人が決めることではないですよね。本当に大事なことはスマホの画面でなく自分のなかにあるはずです。

──スマホより哲学の方が大事ということですね。

 そこまで言う自信はないです(笑)。誰も信じてくれなさそうですし。
現代ではスマホなしで生きるのはかなりたいへんですが、哲学なんてまったく必要とされてません。それで問題なく生きられます。「本当に大事なこと」だってYouTuberが教えてくれたことに同調すればそれでいいわけです。自分を見ずに、スマホの画面から生きる意味をコピペしても支障はない。
 でも哲学はもっと自分で考えなさいよとおせっかいを言うわけです。自分と向き合わないと、理想を求めても必ずズレてしまう。失敗しなくても、どこか違和感が残ってしまう。それは「よりよい生」とは言えないんじゃないか。だから、哲学は便利だとは言いますが、必要とは言えません。

──向上心とか、意識の高い人には役に立つということでしょうか。

 その通りだと思います。あとは人生がうまくいってないと思っている人にもですかね。私は哲学者なので、既存のいわゆる自己啓発本というものは一面的かつポジティブすぎてあまり好きではないんですが、『スマホと哲学』は自己啓発本のつもりで書きました。自分というものを全面的に知るための本です。現状で満足している人は哲学も自己啓発本も必要ないでしょうし、「もっとうまく生きたい」と思う人でないと哲学の能力を求めることもないと思います。

──『スマホと哲学』というタイトルですが、スマホについてというより、哲学や死生観についての話がメインですよね。

 スマホについて哲学するというより、スマホと哲学は同じくらい便利なので、哲学のやり方を教えるから、どちらも常に携帯しましょうね、ということです。
 ちなみに、スマホとどう関わるかも重要な哲学的問題です。スマホは便利ですが、だからこそ依存のリスクが強い。『スマホ脳』という新書がベストセラーになりましたが、スマホが合法ドラッグなら、やはり一定の距離を保つように工夫しないと、自分を見失ってしまいます。哲学はスマホという道具を使いこなすための能力でもあるんです。

岩崎大(いわさき だい)
哲学者。大学教員。東京都出身。著書に『死生学ー死の隠蔽から自己確信へー』(春風社)、『自然といのちの尊さについて考えるーエコ・フィロソフィとサステイナビリティ学の展開ー』(ノンブル社、共編著)など。​



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