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身元保証とは何か

━ 身元保証とは何か 高齢者の身元保証の現状について考える ━


【はじめに】

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数年ほど前のことです。
普段からお付き合いのある同業者の方から、このような問合せがありました。

「先生の事務所で見守り契約は取り扱っていますか?」
「今のところ取り扱ってませんが、ちなみにどのような内容ですか?」
「実は、とある相談を受けていまして。詳細は不明なんですが、ご自身の死後の納骨などについて誰かにお願いしたいとおっしゃっておられまして。あと、おひとりさまなので身元保証人が見当たらず、将来の入院や施設入居についてもご不安に思われているご様子なんです。」
「なるほど。必ずしもご相談者のニーズにあてはまるかわかりませんが、そのようなサービスに心当たりがあります。よろしければご紹介しましょうか?」


普段、相続業務を数多く取り扱っているためか、度々このようなご相談を頂くことがあります。

今更説明するまでもないことですが、日本は世界の最先端を行く超高齢化社会です。厚生労働省の推計(2021年9月15日現在)によれば、65歳以上の高齢者人口は3640万人、さらに、2020年の国勢調査によれば、単身高齢者は前回調査に比べ13.3%増の671万6806人にのぼります。

上記の相談者のみならず、ご自身の老後あるいは死後にご不安を感じていらっしゃる高齢者の方は多いのかもしれません。

そこで、今回は高齢者の身元保証の現状について、関係するガイドラインや各種調査結果などをもとに考えてみたいと思います。

【身元保証とは?】

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病気による入院や老人ホームなどへの入居の際は、本人以外の身元保証人が必要となる。そのようなイメージを持たれている方は多いかと思います。
しかし、身元保証の意味を正確に把握することは、実は非常に困難です。というのも、上記のようなイメージで使用する身元保証という用語には法律的な定義がありません。

一例ですが、身寄りがない人の入院等に関するとあるガイドラインでは、医療機関が「身元保証・身元引受等」に求める機能や役割を以下のように整理しています。

①緊急の連絡先に関すること
②入院計画書に関すること
③入院中に必要な物品の準備に関すること
④入院費等に関すること
⑤退院支援に関すること
⑥(死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること
※平成30年度厚生労働省行政推進調査事業費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)
「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」班
「身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン」より引用  

これまで、多くの医療機関や介護施設等では、利用者に家族等がいることを前提として、身元保証人を求めてきた現状があります。しかし、冒頭で述べた通り、単身高齢者の増加や頼れる親族がいない高齢者の増加等の要因により、家族等を身元保証人とすることが困難なケースがみられるようになってきています。
また、厚生労働省は、都道府県に対し、身元保証人がいないことのみを理由に入院を拒否することがないように関係機関に周知し、そのような事例に接した際は、当該医療機関を指導するよう求める通知を発出しています。
※平成30年4月27日 医政医発0427第2号
「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」

前記ガイドラインでは、そのような現状を踏まえたうえで、身元保証人がいないことを前提とした対応方法をまとめています。具体的な処方箋として挙げられているのは、成年後見制度の利用、地域包括支援センターや社会福祉協議会への相談、生活保護担当窓口への相談といった公的な制度や地域資源の活用です。

ここでポイントとなるのが、身元保証人がいないことを前提としていること、公的な支援の検討を第一義とし、後述する民間事業者の身元保証等高齢者サービスの利用に慎重な態度を示していることです。

【身元保証等高齢者サービスとは?】

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公的な枠組みとは別に、高齢者に対して身元保証等を行っている民間事業者のサービスがあります。日々の見守りや医療機関・介護施設等への入退去時の身元保証といった生前のサポートの他、利用者が死亡した後の葬儀施行・納骨、役所・年金に関する各種届出などの死後事務について、有料で対応するサービスです。
上記は一例であり、各事業者によって様々なものが存在しています。

例えば、
 ・電話や訪問による生活相談、健康状態の把握
 ・24時間の緊急連絡先としての対応
 ・主治医とのカンファレンス同席
 ・入院時の生活用品の手配
 ・緊急時の病院への駆けつけ
 ・介護事業者との協議
 ・預貯金の管理 などなど

基本契約料、各種サービスに対応する費用が発生する他、利用者死亡後に発生する葬儀等の費用を生前に預託金として事業者に預ける必要があります。

冒頭の事例におけるご紹介先もそのような民間事業者でした。潜在的なニーズは多いであろうと予想され、実際に多くのご相談が寄せられています。


【医療・介護現場の認識は?】

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では、身元保証に関して、医療機関や介護施設等の認識はどうなのでしょうか。

厚生労働省による医療機関に対するアンケート調査の結果では、65%の医療機関が「入院時に身元保証人等を求めている」と回答し、「入院時に身元保証人等を求めない」と回答した医療機関は23.9%にとどまっていました。
また、身元保証人等が得られそうにない場合の対応について、75.5%が「得られなくても入院を認めている」、10.7%が「身元保証等高齢者高齢者サポート事業の検討・活用」と回答する一方、「入院を認めない」と回答する医療機関が8.2%存在していました。
身元保証人等に求める役割としては、「入院費の支払い」(87.8%)、「緊急の連絡先」(84.9%)、「債務の保証」(81.0%)が上位を占めました(複数回答)。
※平成29年度厚生労働科学研究費補助金 厚生労働科学特別研究事業
「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」
平成29年度 総括・分担研究報告書(平成30(2018)年3月)より引用

また、みずほ情報総研による調査研究によれば、介護施設等における入居契約書に本人以外の署名を求めている施設は95.9%存在しました。本人以外の署名欄に記載ができない場合については、「そのまま受け入れる」が13.4%、「条件付きで受け入れる」が33.7%、「受け入れていない」が30.7%という結果でした(複数回答)。
また、「条件付きで受け入れる」と回答した施設のうち、受け入れの条件としては、「成年後見制度を申請していただく」(74.4%)、「市区町村に相談する」(55.0%)、「民間の身元保証会社・身元保証団体と契約していただく」(16.1%)が上位を占めました(複数回答)。
※平成29年度老人保健事業推進費等補助金
「介護施設等における身元保証人等に関する調査研究事業」
報告書(平成30年3月 みずほ情報総研株式会社)より引用

医療機関や介護施設等の現場では、未収金リスク等の不安から身元保証人を求めている施設が多く、身元保証人を求めない建前の国と医療・介護現場との間でギャップが生じているようです。また、入院・入居にあたって、民間事業者の身元保証等高齢者サービス利用を選択肢に入れている医療機関や介護施設等もあり、民間事業者が当該ギャップを埋めている面もあるように思います。

【身元保証等高齢者サービス利用の注意点】

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ここまで、高齢者の身元保証について概観してきました。冒頭の事例のようなご相談が弊所に多く寄せられていることも事実であり、各種データからも民間事業者サービスに一定のニーズが存在することは否定できないと思われます。
しかし、当該サービスを指導監督する行政機関が必ずしも明確ではなく、利用者からの苦情相談についてもほとんど把握されていないといった問題点が指摘されています。トラブルにならないために、事業者選定にあたっては注意が必要です。
希望するサービスによっては契約内容が複雑になることがあるため、サービス内容や各種サービスに対する費用が明確になっていることはもちろんですが、預託金の管理方法についても確認する必要があります。
その他、消費者庁のHPに啓発資料がアップロードされています。


【今後の展望】

note ノート 記事見出し画像 アイキャッチ (1)

その他、地域レベルで国と医療・介護現場のギャップを解決すべく取り組んでいる事例も出てきています。まだ数としては多くないようですが、各地の社会福祉協議会等が、一定の要件を満たした方に対し、死後事務委任契約の受任者となって委任者の死亡時に葬儀の施行や役所・年金に関する各種届出等の死後事務を行うといった取り組みが始まっています。当然ながら、民間事業者のサービスよりも費用が安く抑えられます。

超高齢化社会のさなか、今後こうした取り組みが本格的に拡大していくのか、注目されます。


行政書士法人第一事務所
行政書士 杉山 亮介

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