マガジンのカバー画像

南方奇譚

21
運営しているクリエイター

2014年7月の記事一覧

南方奇譚

 これは某作品のために書いたものであるが、結局、どこにも発表されないものになってしまった。なので、ここにつらつらと書きだそうと思う。

 

トカゲの話(採集番号142)

 むかし、むかし、男、ナイサモーヌがいた。ナイサモーヌが山へ行くと、娘たちが水浴びをしていた。娘たちの美しさにナイサモーヌが思わず声をかけると、娘たちはあわててナズの木(※1)の下に隠れてしまった。ナイサモーヌは娘たちに歌った。

『「美しい娘さんたち
 美しい娘さんたち
 わたしの胸は、あなたたちの想いで張り裂けそうだよ
 どうかこの胸の苦しみを取りのぞいておくれ」
「口のうまい若者よ
 口のう

もっとみる

女悪神の話(採集番号022)

 男、マグジュがいた。いい男だった。七面鳥(※1)を獲ろうとローイカヌの山に登った。すると女悪神イニチュニクがマグジュを見つけた。イニチュニクはマグジュを自分の小屋に招きいれると、自分の血とフケを混ぜた椰子酒(※2)を呑ませた。するとマグジュはたちまち醜いイニチュニクが好きになってしまって、夫婦になることにした。

 毎日、イニチュニクは空を飛んで遠くの島の人間を食べにいった。出かけるときにはかな

もっとみる

オセヌパーレジレジの話(採集番号39)

 むかし、むかし、男、ニサク、女、ネママーイがいた。ふたりは夫婦だった。子どもが生まれたので、オセヌパーレジレジと名前をつけた。そのすぐあとにネママーイは死んでしまった。ニサクはネママーイの妹と結婚した(※1)。ニサクが漁に出ると、新しい母は遊ばせもせずオセヌパーレジレジにナグー芋を掘りにいかせた(※2)。ニサクが漁から帰ってくると、オセヌパーレジレジが家の前で泣いている。

「オセヌパーレジレジ

もっとみる

サメの話(採集番号051)

 むかし、むかし、女、ユルメマルがいた。ユルメマルはとてもいい女だった。あるとき、男がやってきた。とてもいい男だったので、ユルメマルは一緒に食事をして寝た。すると男はカドゥン(※1)となり、ユルメマルを殺してサメに食わせてしまった。そして、しゃれこうべを波打ち際に捨てた。波が寄せて返すたびに、しゃれこうべは歌った。

『サメよ
 サメよ
 わたしの肉を食べにおいで
 もうおまえに食べられる肉はない

もっとみる

死者の島の話(採集番号027)

 むかし、むかし、男、ニモジュネがいた。ある日、漁に出ると風に流されて見たこともない島についた。浜辺を歩いていると、風が吹いて砂粒が目に入った。目をこすっていると、すぐ近くに人がいるのに気がついた。

「ニモジュネじゃないか」
 見るとそれは子どものころに死んだ友だちのネアブイだった(※1)。
「ここは死者の島だ」
「じゃあ、おれは死んでしまったのか?」
「いや、おまえはまちがって流れついてしまっ

もっとみる

ワセヤイヤイとニキティパの話(採集番号040)

 むかし、むかし、男、ワセヤイヤイと女ニキティパがいた。ふたりは夫婦だった。仲がたいへんよかったが、ニキティパは死んでしまった。ワセヤイヤイは悲しみのあまり、ニキティパの遺体をバナナで編んだ籠にいれて海に流した(※)。

 悲しみに沈んでいるワセヤイヤイを心配した村の男たちは、かれを踊りに誘った。
「ニキティパが悲しむよ」
「そうはいっても、おまえ、ニキティパは死んでしまったのだよ」
 男たちはワ

もっとみる

ナーナーカウとナーニーカウ(※1)の話(採集番号005)

 むかし、むかし、男、ナーナーカウと男、ナーニーカウがいた。ある日ナーナーカウがミーアイ(※2)していると、たまたま大きなロプ貝が獲れた。それをかかえて歩いているとナーニーカウに出会った。

「ナーナーカウよ。そんなに大きなロプ貝をどうやって獲ったんだ」
 とナーニーカウがたずねると、ナーナーカウが答えた。
「なに簡単なことだよ。おまえのりっぱな竿(※3)を巣穴にたらせば、すぐに獲れるさ」
 ナー

もっとみる

アジサシの話(採集番号129)

 むかし、むかし、アジサシがいた。アジサシには娘がひとりあった。娘が水浴びをしているところへ、男、ティキットヌがやってきた。ティキットヌに姿を見られた娘は家に入ってしまった。ティキットヌが家に入ろうとすると、アジサシがとめた。

「アジサシよ。おまえには娘がいるはずだ」
「いないよ。わたしはひとりさ」
「では、この水がふたつあるのはなんだ」
「これはふたつともわたしが飲むのさ」
「では、鰹が二尾あ

もっとみる

一枚の羽の話(採集番号013)

 むかし、むかし、男、ニャイノネ、女、イナウがいた。ニャイノネはイナウのアパムー(※1)だった。ニャイノネがイナウを漁に誘った。イナウの母は娘に一枚の鳥の羽を渡して漁にだしてやった。

 ふたりが舟で沖合いまで出ると、嵐に出会った。そして、そのまま見たこともない島に流されてしまった。
「イナウ、今晩はこの島におまえとふたりで泊まらなければならない」
 とニャイノネがいうと、イナウは答えた。
「わた

もっとみる

ニタニーキーの話(採集番号073)

 むかし、むかし、女、ニタニーキーがいた。ニタニーキーの家には毎晩ヤリウェイ(※1)がささり、求婚する男はひきもきらなかった。ニタニーキーは男にこういった。

「西の風を連れてきておくれ」
 男は西へ行って風に巻かれて死んでしまった。
 次の男にはこういった。
「東の海の真珠を取ってきておくれ」
 次の男は東に行って真珠貝に手をはさまれて死んでしまった。
 次の男にはこういった。
「北のプラケイ鳥

もっとみる

三兄弟の話(採集番号043)

 むかし、むかし、男、アネッヅ、男、ナカル、男、ガマゾッツがいた(※1)。三人は兄弟だったが、仲はよくなかった。

 三人は漁に出て、沖で網を打った。アネッヅの網には鰹がかかった。ナカルの網には海鰻がかかった。ガマゾッツの網にはなにもかからなかった。怒ったガマゾッツはいった。
「兄よ、アネッヅ。おまえがまじない(※2)をかけたのだろう」
「弟よ、ガマゾッツ。まじないなどかけていない」
 それでも怒

もっとみる

悪神の島(採集番号138)

 むかし、むかし、男、ペラカイ、男、ニラカイがいた。ふたりは兄弟だった。ある日、沖に漁に行くと嵐に出会い、ふたりのカヌーは見知らぬ島についてしまった。島にひとつの小屋があったので、そこへ出かけた。

「わたしたちは嵐でここに流されてしまいました。小屋の隅でけっこうですから、一晩、宿を貸してください」
 すると、小屋からふたりの女が現れた。
「ここは悪神の島(※1)だよ。早くお帰り」
 見ると小屋の

もっとみる

イルカの話(採集番号027)

 むかし、むかし、男、ファキランがいた。ファキランは漁にいったが、魚が一尾も獲れなかった。そのつぎの日も、そのまたつぎの日も獲れなかった。ファキランはさめざめと泣いた。

「アーイー、きょうも漁がなければ、娘たち三人をどうやって食べさせればいいんだ」
 すると、一頭のイルカが顔をだした。
「ファキランよ。おまえの娘のうちのひとりを嫁にくれるなら(※1)、きょうから一生おまえが漁で困ることはないだろ

もっとみる