ワセヤイヤイとニキティパの話(採集番号040)

 むかし、むかし、男、ワセヤイヤイと女ニキティパがいた。ふたりは夫婦だった。仲がたいへんよかったが、ニキティパは死んでしまった。ワセヤイヤイは悲しみのあまり、ニキティパの遺体をバナナで編んだ籠にいれて海に流した(※)。

 悲しみに沈んでいるワセヤイヤイを心配した村の男たちは、かれを踊りに誘った。
「ニキティパが悲しむよ」
「そうはいっても、おまえ、ニキティパは死んでしまったのだよ」
 男たちはワセヤイヤイを踊りに連れていった。ワセヤイヤイはそこで妻ニキティパにそっくりの娘と出会った。
「おまえはニキティパじゃないのか?」
「いいえ、ちがいます」
 ワセヤイヤイと娘はその晩いっしょに食事をした。そして、ふたりは夫婦になった。月の障りがなくなり、妻の腹がふくらみはじめた。臨月になったある日のこと、ワセヤイヤイが漁から戻ってみると、家で妻がさめざめと泣いていた。
「どうしたんだい、おまえ。なにを泣いているんだ」
「ああ、夫よ、ワセヤイヤイ。あなたはわたしを好きなのですか」
「もちろんだよ、おまえ」
 しかし、妻はそれを信じず、なおもワセヤイヤイを問いつめた。とうとうワセヤイヤイはこういってしまった。
「ほんとうは死んでしまったニキティパが好きなのだ」
 すると妻はにっこり微笑んだ。
「そう聞いて安心しました。子どもを大切に育ててください」
 いうなり、妻は消えてしまった。ワセヤイヤイが探したが妻の姿はどこにもなかった。
 翌日、バナナで編んだ籠が浜辺に打ちあげられた。中にはまるでいま死んだばかりのようなニキティパの遺体と生まれたばかりの赤ん坊が入っていた。ワセヤイヤイは赤ん坊を引き取り、その子はのちに酋長になったということだ。
 ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。

※ 前述したように、以前はラモア島では水葬が行われていた。通常は舟で漕ぎだして沖合いで流すのだが、ときおりこのように籠にいれるなどして浜辺から流すこともある。そうすると、海流の関係で他の島にたどりついたりする。その逆もよくある。そうした他の島からの死者の話も数多く伝わっている。
 このワセヤイヤイとニキティパはラモア島民が好む恋愛物語である。わたしなどは、ワセヤイヤイは結局、死んだ妻のことは忘れて、新たに結婚したのだと思ってしまうのだが、島民にとってはどうでもいいらしい。

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