オセヌパーレジレジの話(採集番号39)

 むかし、むかし、男、ニサク、女、ネママーイがいた。ふたりは夫婦だった。子どもが生まれたので、オセヌパーレジレジと名前をつけた。そのすぐあとにネママーイは死んでしまった。ニサクはネママーイの妹と結婚した(※1)。ニサクが漁に出ると、新しい母は遊ばせもせずオセヌパーレジレジにナグー芋を掘りにいかせた(※2)。ニサクが漁から帰ってくると、オセヌパーレジレジが家の前で泣いている。

「オセヌパーレジレジ。どうして泣いているんだ」
「遊んでいてトゲをさしたの」
「オセヌパーレジレジ。どうしておまえの爪は真っ黒なのだ」
「みんなでユルの葉(※3)を摘んだから」
 ニサクは納得して家に入った。翌日、ニサクはオセヌパーレジレジを連れて海に出た。新しい母はオセヌパーレジレジを呼んで、こういった。
「これがおまえの弁当、こっちがニサクのだからね。まちがえるんじゃないよ」
 ニサクが海に入っていると(※4)、死んだネママーイが息子の前に現れて歌った。
『「息子、オセヌパーレジレジ。おまえは毎日なにをしているんだい」
「山へ行って爪が真っ黒になるまでナグー芋を掘りに」
「アーイー、かわいそうに。息子、オセヌパーレジレジ。おまえは毎日なにを食べているんだい」
「ナグー芋の皮と椰子の絞り汁をほんの少し」
「アーイー、かわいそうに。息子、オセヌパーレジレジ。わたしといっしょにおいで、ナグー芋もヨヌ芋もお腹いっぱい食べられるよ。毎日、働かされることもなくなるよ」
「いいえ行きません。ニサクが悲しむから」(※5)』
 するとニサクが海からあがってきた。息子は涙を流している。
「オセヌパーレジレジ。どうして泣いているんだ」
「船縁のささくれが手にささったの」
 ニサクは納得し、弁当を食べることにした。オセヌパーレジレジは新しい母にいわれたとおり、ニサクの弁当をさしだすと、ニサクは息子の弁当を食べるといった。
「だめですよ、おとうさん。これはわたしの分だから」
「いいんだよ」
 そういってニサクがオセヌパーレジレジの弁当を開けると、中から出てきたのはナグー芋の皮ばかりだった。ようやくニサクはオセヌパーレジレジがなぜ泣いているのか理解した。そして家に戻るとネママーイの妹を殺してしまった。
 ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。

 ※1 配偶者が死ぬとその実姉、実妹と結婚するというのは、ラモアではごくふつうに行われる。実際のところ、ラモアは女系であるため、こうしないと夫は子どもを置いて他家に婿入りしなければならないのである。夫が死んだ場合でも、妻は夫の兄弟から婿を取るのがふつうである。
 ※2 ナグー芋採りは、かなり深く掘らなければならない。文脈からすれば、新しい母はオセヌパーレジレジに道具も渡さず、素手で掘らせたのであろう。継子いじめの昔話はシンデレラを引き合いにだすまでもなく、世界的にある。
 ※3 ユルの葉の汁は黒く、体につけるとしばらくのあいだ色が落ちない。ラモアの子どもたちはよくこの汁で体にいたずら描きをする。やがてそれは大人たちの刺青のまねごととなり、成人式──ナユルン・パクへの準備となっていた。現在では、ただの子どもの遊びとして残っている。
 ※4 ラモアでは素潜り漁もさかんにおこなわれている。
 ※5 このインファヌカはわかるとおり、ふたりのかけあい形式でおこなわれている。このようなかけあいのインファヌカも多い。なお、ネママーイの霊は息子を死者の島に呼び寄せようとしている。死者の島では毎日、食べ飽きるだけの食べ物があるといわれている。

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