悪神の島(採集番号138)
むかし、むかし、男、ペラカイ、男、ニラカイがいた。ふたりは兄弟だった。ある日、沖に漁に行くと嵐に出会い、ふたりのカヌーは見知らぬ島についてしまった。島にひとつの小屋があったので、そこへ出かけた。
「わたしたちは嵐でここに流されてしまいました。小屋の隅でけっこうですから、一晩、宿を貸してください」
すると、小屋からふたりの女が現れた。
「ここは悪神の島(※1)だよ。早くお帰り」
見ると小屋の奥には人間の骨がうずたかく積まれている。ペラカイとニラカイのふたりは恐くなって、逃げだした。
山から帰ってきた悪神マヌワは、小屋にもどってくるなり鼻を鳴らした。
「ふんふん、人間の匂いがするぞ」
すると、ヤヌニサ(※2)が答えた。
「気のせいですよ。さっき鰹を石焼きにしたから、その匂いでしょう」
「いやいや、気のせいではない。たしかに人の匂いがする」
すると、ナップが答えた。
「気のせいですよ。さっき薬草を煮たから、その匂いでしょう」
「いやいや、気のせいではない。たしかに人の匂いがする」
マヌワはそういって、ペラカイとニラカイのあとを追った。そして、浜辺で追いついた。ペラカイとニラカイは恐かったが、悪神にむかってこういった。
「力くらべをしないか」
「いいだろう」
とマヌワがいった。
「その前に腹ごしらえをしよう。幸い、おれたちには弁当がある」
そういってペラカイはナグー芋を出した。だが、マヌワには白い石を出してやった。マヌワは白い石を食べながら、
「こんな固いものを食べるなんて、すごい人間もいたものだ」
と思った。
つぎにニラカイがヨヌ芋(※3)を出した。だが、マヌワには黒い石を出してやった。マヌワは黒い石を食べながら、
「こんな固いものを食べるなんて、すごい人間もいたものだ」
と思った。
芋で腹をふくらませたペラカイとニラカイは立ちあがっていった。
「さあ、力くらべだ」
マヌワも立ちあがろうとしたが、腹いっぱい食べた石のために立ちあがることができなくなって、そのまま岩になってしまった。そこでペラカイとニラカイのふたりは、ヤヌニサとナップを連れて帰り、それぞれ夫婦になった。
ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。
※1 ラモアや他の諸島群でもそうだが、かれらにとっての異界は、水平線のむこうの他の島である。悪神の島や死人の島にたどりつく話は多数ある。
※2 いきなり出てきたのでとまどうが、ヤヌニサとナップというのは、小屋にいたふたりの女の名前である。昔語りは完成されたものではないので、時おりこういうことがおきる。また、話者であるハイヌーレレはアルコール依存症なので、話しているうちに混乱することがある。
※3 ナグー芋もヨヌ芋もラモア島ではよく食べられる。ナグー芋は皮もも白い。ヨヌ芋は皮も身も黒い。話には出てこないが、ナグヌ芋は皮は黒いが身は白い。
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