一枚の羽の話(採集番号013)
むかし、むかし、男、ニャイノネ、女、イナウがいた。ニャイノネはイナウのアパムー(※1)だった。ニャイノネがイナウを漁に誘った。イナウの母は娘に一枚の鳥の羽を渡して漁にだしてやった。
ふたりが舟で沖合いまで出ると、嵐に出会った。そして、そのまま見たこともない島に流されてしまった。
「イナウ、今晩はこの島におまえとふたりで泊まらなければならない」
とニャイノネがいうと、イナウは答えた。
「わたしは椰子の上で寝ます。おじさんは地面で寝てください」
ニャイノネが椰子の上で寝ていると、下から声が聞こえてきた。
「イナウ、イナウ。波がわたしの膝を洗うよ。椰子の木に登らせておくれ」
「では、椰子の木の中ほどまで登ってもいいですよ」
ニャイノネは椰子の木の中ほどまで登った。しばらくすると、また下から声が聞こえてきた。
「イナウ、イナウ。波がわたしの膝を洗うよ。椰子の上まで登らせておくれ」
「では、椰子の木の上に登ってもいいですよ」
ニャイノネは登ってくるなり、こういった。
「イナウ、いっしょに食事をしよう(※2)」
「いやです、ニャイノネ。あなたはわたしのアパムーじゃないですか」
「ここはもう平らかな波の彼方(※3)だよ。わたしはおまえが欲しいのだ」
「いやです、ニャイノネ。あなたは座っていらっしゃるじゃないですか(※4)」
ニャイノネは立ちあがった拍子に、椰子の木から落ちてしまった。そこでイナウは羽をふるった。すると一羽のアホウドリが飛んできて、彼女を連れさってしまった。それを見たニャイノネも浜辺に落ちていた羽をふるった。すると一羽のグンカンドリがやってきて、かれをつかんだ。ところがグンカンドリは力が弱かったので、空でニャイノネを落としてしまった。それでニャイノネは死んでしまった。
ロプ貝のつぶつぶ、焼けた石。
※1 ラモア島は女系であり、母方の男性の親類はすべてアパムー(おじさん)と呼ばれ(女性はヤムネイ──おばさん──と呼ばれる)近親禁忌の対象である。父方の親戚にはそうした禁忌はないが、双方の合意で兄弟あるいは伯父伯母になることがある。その場合は道徳的に近親禁忌が発生する。訳文では母方を「おじ、おば」。父方を「伯父、伯母」で統一することとした。
※2 男女が共に食事をするという行為は、すなわち婚姻を意味する。
※3 これは意味がよくわからないが、おそらく禁忌のおよばない水平線の果てという意味だろう。
※4 年下の女性(妹など近親)は年上の男性が座っているかぎり、近づくことができない。その場合は声をかけて男性に立ってもらい、近づかねばならない。現在ではこのような風習は失われていて、こういう昔語りにしか出てこない。
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