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【ヤマト2202創作小説】新訳・土星沖海戦 第7話

西暦2203年5月8日 1時02分
<冥王星・カロン駐留基地上空>

ー第12航空隊、敵前衛部隊と接敵。続けて第36、24航空隊、交戦開始。
ー未確認小型艦、撃沈。周囲に同艦影なし。我が方の損害軽微。
ー波動防壁の損耗を抑えろ!決戦に備えて貯めておけよ!

 無線越しに聞こえる戦いの様子。土星に現れたガトランティス艦隊に主隊(山南艦隊)が善戦しているようだ。異星文明相手に対等に戦うことが出来る現実に胸がすくのと同じく、体が震える。

 武者震いだ。あと幾分としないうちに、あの激火のど真ん中に突っ込む。
敵が主隊に釘付けになっている間に、艦隊直上にワープアウト。虚を突く一撃を加え、艦隊と交錯した後に反転、そのまま主隊と合流する。

”伊弉冉”か・・・俺にそんな価値があったとはな。

 司令官はそう言い、ほくそ笑む。一撃離脱、といえば聞こえは良いが、タイミングを間違えば敵の砲火に曝される。操舵を誤れば味方艦同士で衝突しかねない。特異な艦隊行動故の危険極まる作戦だ。

ようやく仇を討てる。もうすぐだからな。

 執念、時としてその感情は死線を潜る潤滑油となる。約半年前、冥王星軌道防衛隊に単身勤務中だった彼に、急報が告げられた。ガトランティスによる第十一番惑星襲撃。彼は直ちに基地司令官に部隊派遣を具申するも、中央司令部からの待機命令で足止めを喰らった。後に知ったことだが、当該宙域には250万隻以上のガトランティス艦艇が集結しており、司令部は火星で停泊していた第二空間機動隊群と第三艦隊の派兵を政府に要請している最中であった。

ー波動砲、最終点検終了。担当員は速やかに砲雷長に報告。

 ようやく彼が十一番惑星に派遣されたのは、第一報から3日後。敵艦隊はヤマトの活躍で無効化されたが、地表には倒壊した建造物の瓦礫と死体が転がる。人工太陽が破壊され、光を失った地獄の大地を歩いていると、地上部隊と交戦して破壊された敵の機械人形たちの残骸が散らばっていた。どうやらガミラスの機械化兵(ガミロイド)の技術を模した自律兵器らしい。脚部の履帯が捲れ、盾を兼ねた腕部には黒い弾痕が残る。

 そして、残骸の先にある小さな丘には、無数の針が人間を突き刺している。頭部、腕、腹部、足。至る所に迷いなく突き刺さる巨大な針が、さながら墓標の様に佇む。中世の時代、反逆者の処刑に串刺しを好み、領民と周辺諸侯に絶対的権威をみせていた東欧の君主がいたというが、それが23世紀、しかも地球の歴史を知る由もない異星文明が、同様の手段で無差別殺戮をこの地でやっていたのだ。

ーEKBO661、402の誘導完了。牽引ビームの接続準備に入る。

 あまりに筆舌し難い凄惨な現場に目を伏せる者、嘔吐する者がいる中、彼はある二人の亡骸をみていた。娘を守ろうと庇う母親の背中に赤色の針が打ち込まれ、母娘ともに地面に刺さっている。目と口が大きく開き、凝固した血の跡と腹部からはみ出した内臓が生々しく残っている。在りし日の姿でなくても、その二人が彼の妻と愛娘である事を理解するのに、彼は時間を必要としなかった。

痛かったよなぁ・・・頑張ったなぁ・・・ごめんなぁ・・・

 膝を地面に付け、冷たくなった妻子の手を摩る。嗚咽することなく涙を流し、二人の安らかな眠りをその温かい手で祈りながら瞼を閉ざすと、遙か頭上のデブリを見上げる。波動共鳴を起こされ、行動不能になった大量のガトランティス艦艇だ。

う…うぅぉぁあ!あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!!

 怨みの咆哮が辺りにこだまする。お前たちが奪った、愛する者たちの命を奪った!殺してやる!殺してやる!!災厄の元凶たちに向かい、彼は部下に宥められるまでずっと泣き叫び続けた。

ーアンドロメダより暗号入電。”黄泉比良坂(よもつひらさか)開く”。

 時は満ちた。復讐の鬼となり、一日千秋の機会を待ち望んでいた彼は、コンソール下部に収納された船外服を手に取り、着用する。艦橋要員も着替える中、彼は左腕のスマートウォッチを触り、ARフォトを展開する。地下都市の一室で撮った家族写真。ガミラス大戦が終わり、明日への希望を抱いた3人の笑顔は眩しい。

全艦、第一種戦闘配置のままワープ準備。

 過去に戻れぬのならば進むしかない。復讐と死に場所を求める司令官に率いられ、70隻の特別遊撃隊は抜錨する。凍てつく星に春は来ず、冥王は彼等をどこへ導くのだろうか。

艦隊総旗艦へ暗号打電。”0105、葦原中国(あしはらのなかつくに)へ参上す”。

イザナミ隊奇襲30分前
<土星沖・B環上空>

 ガトランティス艦隊と格闘する360余機の航宙機。その編成も、新型のコスモタイガーⅡと前主力戦闘機コスモファルコン、僅かに試作されたコスモタイガーⅠと、まさに総力戦と言わんばかりの混在具合である、エンケラドゥス基地航空隊が敵空母を撃沈し、奥に控える敵超大型空母からも艦上機が発艦しないことから、展開した航空隊は、全て対艦武装を施していた。

 これら航宙機の母艦となるアンドロメダ空母型(アポロノーム・アンタレス>は、1艦で180機(10個航空隊160機+予備20機)の空間戦闘機を格納する。艦橋左右に拡張された発艦口と両舷中央部バルジからリニアレールを用いて正面方向に発艦される為、機体数に反して従来の発艦シークエンスよりも航空隊の展開時間が短縮される。このほか、アンドロメダなどの戦艦型と同じく100空偵と輸送機コスモシーガル、内火艇を2機ずつ搭載する。今作戦では、空母型の2艦がそれぞれ航空甲板にコスモタイガーⅡを42機(通常型×32、雷撃型×8、重爆撃型×2)、コスモタイガーⅠを3機、コスモシーガルを2機追加で繋留している。波動防壁で機体を守りつつ、ワープアウトと同時に繋留ロープを解除、そのまま発艦する算段となっている。

 とはいえ、極度に密接な艦隊陣形と速射輪胴砲塔を備えたガトランティス艦隊の対空弾幕は濃密であった。正面戦闘は主隊に任せ、各航空隊は比較的対空砲火の薄い外側から、敵艦隊を攻撃することに専念した。

土手っ腹に喰らいやがれ!!

 雷撃型コスモタイガーから空間魚雷が発射される。隊列をなして撃ち込まれた魚雷は、カラクルム級の舷側装甲にめり込み、その衝撃で信管が作動し、起爆する。まるで水柱のように水蒸気と氷塊が立ち上がり、その合間を縫って、第2波の魚雷が突き進む。500mの大型艦といえど、2発目を被弾すると爆発で船体を支える竜骨が折れる。

 氷塊に沈みゆく大戦艦。燃え朽ちる船体からは、大型輪胴砲塔がまだ砲撃を続けている。駆け行く雷撃型コスモタイガーの後部動力銃座が艦橋を狙い、悶える巨人に機銃を掃射する。非常灯が照らす艦橋正面のフロントガラスが割れ、内部の乗員が一気に真空の世界に流される。

正面に捉えた。ガル7、FOX-2!

 空対艦ミサイルを発射するコスモタイガー。目標のミサイル戦艦に接近すると、瞬間、ミサイルの外殻が分解され、内部から4つの子弾が飛び出す。拡散波動砲と同じく、面制圧能力を高めた02式空対艦多弾頭誘導弾は、外装された大型ミサイルやミサイル砲塔に次々と着弾する。密集隊形が仇となり、爆発が他艦に飛び火し、誘爆する。

 その時、24隻のミサイル戦艦が急発進する。コスモタイガーの攻撃から辛くも生き残ったが各所から火の手が上がっている。誘爆を防ぐためか、装備したミサイルをあらぬ方向にばらまき、主隊に向かって煙の尾を引きながら一直線に進む。流れ弾を避けたコスモタイガーは、主隊に状況を報告する。

トラックナンバー1782から1806。急速接近。

SSG発射用意。続けて、主砲再装填。弾種、三式弾。

 捨て身の攻撃を察知し、伊口は対艦攻撃を指示する。アンドロメダ、アキレスと周囲のD級は、前部甲板のSSG(艦対艦グレネード)発射筒が上部に指向し、給弾室から三式融合弾を装填する。ヤマト同様、機関や艦載機が搭載される船体後部のダメージコントロールの観点から、実体弾は前部1・2番主砲塔のみ発射が可能である。

SSG、諸元入力完了。三式弾、装填まで10!

SSG発射!

 伊口の号令で、まずSSGが垂直に打ち上げられた。一定高度に達すると、SSGは自動的に90度傾き、艦首方向から目標の敵艦艇に直進する。10余隻の地球艦艇から発射されたSSGに、ミサイル戦艦たちは、これまた輪胴砲塔からビームを高速でばらまく。低い命中精度も、速射による弾幕で火力を担保するというのが、ガトランティスの戦闘スタイルだ。ただ、あくまでミサイルが主兵装のこの艦艇に、両舷8セルのSSGが10隻分迫る戦闘は荷が重い。「空飛ぶ火薬庫」と地球側から揶揄されていたとおり、残置されたミサイル砲塔にSSGが直撃すると誘爆を起こし、たちまち船体は崩壊する。

主砲、撃ち方始め!

撃てぇ!!

 ドドドゥン!23世紀の最新鋭宇宙戦艦が、300年前の洋上戦艦と同じく燃料薬莢方式で実体弾を撃つ。無重力の空間を慣性の法則に従い飛び続ける3発の三式融合弾は、時限信管が作動し、火球へと変わる。砲弾口径こそヤマト型より小ぶりなアンドロメダ級であっても、威力は引け劣らない。火球とともに無数の砲弾破片が周辺に飛び出し、迷走するミサイル群を迎撃する。

迎撃成功。砲身内、冷却システム作動します。

敵艦隊後方に敵特殊砲艦。メインパネルに出します!

 コスモレーダーが示した異常に、船務長は即座に反応した。拡大投影されたメインパネル映像が出されると、艦橋要員の表情は厳しくなる。戦闘宙域から遙か離れた衛星軌道上に、5隻のメダルーサ級殲滅型重戦艦が鶴翼の陣形で展開している。衛星の影から現れた特殊砲艦たちの艦首下部が2つに割け、艦底部に格納されていた火焰直撃砲のエネルギー充填を始める。

外大衛星群軌道エリア6、タイタンより7万2000キロの空間点に確認。

ガ軍偵察機より入電。”高エネルギーの増幅を確認。警戒されたし”。

 通信長の報告に小さく頷く山南。頃合いだと悟り、作戦の第2段階への移行指示を出す。

全艦へ通達。第2防衛ラインまで後進微速。航空隊は直ちに現宙域より離脱。空母へ帰投せよ。

 命令を受けた通信長が慌ただしくインカムから全艦に通達する。航海長はスロットルを引き、船務長と副長の伊口は後退する艦隊と航空隊の状況を逐一報告する。その間、山南は艦長席のタッチデバイスに触れ、”隠し球たち”の投入機会を図っていた。

”黄泉比良坂(よもつひらさか)開く”

”拳を突き上げよ”

 それぞれ別の暗号をキーボードに入力し、送信する。純粋な物量戦では、仮に時間断層がある地球であっても、「人命」という避けられない制限がある。ならば地の利を生かした邀撃で敵の継戦意識を挫き、最後は切り札たる波動砲で仕留める。それが山南の考えであった。

さて、奴さんはどう動くかな。

イザナミ隊奇襲5分前
<ガトランティス地球侵攻総隊・旗艦メギド>

「よもや、私の出る幕はないと思っておりました。バルゼー閣下。」

なに、簡単に潰してはうぬを召還した意味がなかろう。ガミロンの技術を応用せしその大砲。仇を討つには絶好の機会ではないか。

「天佑神助、ですな。必ずやテロンの首を取って参ります。」

 映像通信が終わり、満足げなバルゼー。その隣で、参謀のガリツェはやや不満げな語気でバルゼーに問う。

あのような失敗作に任せて良いものでしょうか。

案ずるな。大帝より許可を賜っておる。それに、確かに我ら純粋無垢なガトランティスとは違える異物であるが、こうした盤面では案外使えるモノだぞ。感情を備えた失敗作どもは。

 その頃、衛星タイタン近海に展開するメダルーサ級艦内では、儀式が独りでに執り行われていた。炎の様な演出で立ち上がった立体画像には、かつてヤマトとガミラスが交戦したグタバ方面軍の面々が映る。当然、中央は「雷鳴」の異名を持つ大都督ゴラン・ダガームが不遜の笑みを浮かべている。

我が長兄ダガーム!ヤマッテを奉奠(ほうてん)できぬことを許せ。
これより悪逆なるテロンの艦を滅し、あなたの死に報いることを誓う!!

 両手を広げた巨躯の男、グーズ・ダガームが儀式を仕切る。立体画像が消え、艦内に光が戻ると、床に突き刺した大剣を手に取り、艦橋モニターに映るアンドロメダにその刃を向ける。

火焰直撃砲、発射準備!!

イザナミ隊奇襲1分前
<土星・B環沖第二防衛ライン>

エネルギー転送波の余震を検知。敵砲艦の射撃時期近い!!

 船務長が焦る表情で報告する。伊口も回避行動を航海長に指示しようとするが、山南が待ったをかけた。

重力子スプレット弾、発射用意。各艦隊旗艦を残して、後進を維持。敵が5隻ならば、我々も5隻で食い止める!!

第8話へ続く

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