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選手からコーチへ ―西谷亮一に見えたもの―(1)

Bリーグも6年目が終わり、選手もコーチも非常にレベルが上がってきた。その中でトップレベルで活躍した選手が次のキャリアとしてコーチを選択するケースも増えてきた。彼らにとって選手としての経験がどのようにコーチングに活き、コーチをする中でどんなことを感じたのだろうか。今回は昨シーズンまで選手として活躍し、2021-22シーズンから横浜ビー・コルセアーズでアシスタントコーチとしてキャリアをスタートさせた西谷亮一氏に話を聞いた。(取材日:6月14日)

仕事をやりながらもやっぱりバスケは続けたいと思いました。

宮本 まずは西谷さんのバスケキャリアを簡単に伺いたいのですが、いつからバスケを始められたんですか?
西谷 バスケは小学校1年生から始めました。姉が地域のミニバスチームに所属していて、見に行ったのがきっかけです。わけもわからず入団して、最初は遊びの延長みたいな感じでした。3年生のときに初めて試合に出て、シュートを決めたところからはまっていきましたね。
宮本 地元の岡山では小中高とトップ選手としてキャリアを歩まれますが、大学は決して強豪とは言えない国立の金沢大学に進学されました。どのような考えがあったんでしょうか?
西谷 小学校の6年生ぐらいの時に、岡山国体の開催が決まって強化が始まったんです。選抜チームとか強化試合とか色々経験させてもらって、高2の時に選手として地元国体に出場させてもらいました。ただ高校は進学校だったので、バスケで大学に進学する考えはあまりなくて将来は教員になりたいと考えていて、教員免許をとるために広島大学か金沢大学で迷ったんですけど、広島だと岡山と近いのですぐ帰れるじゃないですか(笑)。
宮本 確かに。その気になれば、ちょっと週末に帰れちゃうくらいの距離感ですもんね。
西谷 そう。甘えが出ると思って、ちょっとやそっとじゃ帰れない金沢大学にしました。
宮本 大学卒業後はクラブチームの強豪・横浜ギガスピリッツでプレーをして、その後当時bjリーグに所属していた横浜ビー・コルセアーズの練習生になられます。そのあたりはどういうきっかけがあったんですか?
西谷 そもそも教員になるために大学に入学したんですけど、教育実習を経験して「教員は違うな……」と思ったんです。
宮本 それはどのあたりが?
西谷 中学校に行ったんですけど、教壇で僕が喋ると子供たちが真面目に聞いてくれて、どこか僕の言っていることが全てになってしまっている気がしたんです。それがすごく怖いというか…… 当時の僕はまだ大学生で22年しか生きてないのに教壇に立っていて、僕がもし中学生とか高校生の立場だったら、「別に何も経験してないただの学生上がりじゃん」としか思えない。それなら一度社会に出て、色んな経験をしてから先生になる方がいいんじゃないかなと思って就職することにしたんです。
宮本 それで就職を機に東京に出てこられたんですね。
西谷 はい。それまでが岡山と金沢という田舎だったので、すごくゆっくりと時間が流れていました。東京の目まぐるしく変化する中で社会人としてやっていけるかと思って、就職は東京に絞って探しました。
宮本 それで東京に来て、横浜ギガスピリッツに入るわけですね。
西谷 仕事(外資系医療機器メーカーの営業)をやりながらもやっぱりバスケは続けたいと思いました。やるならしっかりしたところでやりたいと思って、関東のクラブチームの大会とか結果を全部調べたんです。その中で毎回ベスト4とかに残っているチームを当たってみようと思って、横浜ギガスピリッツが選手トライアウトをしていたので飛び込みました。クラブチームの大会で全国3位になったりして、「もしかしたらプロでもいけるんじゃないか」と思ったことがプロにチャレンジするきっかけになりました。

シュートに関しては負けないと思っていました。

宮本 プロのキャリアは横浜ビー・コルセアーズの練習生からスタートして、Bリーグ発足時にアースフレンズ東京Z、その後金沢武士団やトライフープ岡山、熊本ヴォルターズで活躍されました。キャリアを歩むについて見えてきたことや通用するなと感じたことはありましたか?
西谷 僕の武器はシュートです。横浜で練習生をやっていたときも蒲谷正之さん(2018-19シーズンで引退)など色んなタイプのシューターがいましたけど、シュートに関しては負けないと思っていました。ただ、シュートを打つためにどういう準備や動きが必要なのかは色んな選手から勉強させてもらいました。
宮本 シュートをポイントにコーチとして少しお話を伺いたいのですが、今はNBAからもトレンドが流れてきて、期待値(※1)から見て、3Pの確率が35%を超えることが1つの基準として求められていると思います(NBAの2021-22シーズン平均3P%は35.4% 期待値=1.06)。ただ、実際にBリーグの日本人選手で35%を安定的に上回る選手は多くない(※2)のが現状です(B1とB2の2021-22シーズン平均3P%は34.0% 期待値=1.02)。選手の経験や今シーズン、コーチとして過ごした中でバスケの進化と変化にどんな考えをお持ちですか?
西谷 期待値に関しては「言われてみればそうか」くらいの感覚なのが正直なところです。僕の性格の問題だと思いますけど、要領の悪いことがあまり好きじゃないんですよね。
宮本 なるほど。
西谷 僕は小学校の時から背が大きかったので、「インサイドをやれ」と言われることが多かったんですが、あれだけ人が密集しているエリアで必死になってゴールしても2点じゃないですか。もちろんそれができることは素晴らしいですが、同じ労力を使うのであれば、3点を取った方がいいですよね(笑)。
宮本 確かに(笑)。
西谷 ずっと効率を求めながらバスケをやってきて、たまたまそれが期待値などの数字に裏打ちされた感じです。3ポイントの期待値をNBAの水準まで近づけたいというのはわかるんですけど、おっしゃるようにシューターらしいシューターが一握りしかいないので、そこを戦術に落とし込むのが本当にいいのかと疑問に思うことはあります。今シーズンの横浜も「ロング2よりは3ポイントを狙おう」としていましたけど、チームとして3ポイントの成功率が高いかと言われればそうでもないですし(2021‒22シーズン平均3P%は34.4%)、試合によっては作り上げたノーマークの3ポイントがコンテストされた(=プレッシャーがかかった)ミドルシュートより確率が悪かったりもするから、現場として難しさも感じています。本当にこれを取り入れていくのであれば、まずはちゃんとシューターを育てるノウハウであったりシステムを作っていく必要があると思います。シューターとして活躍できる選手を育てていかないとその場しのぎではないですけど、シュートの確率がよければその戦術は効果的、という風になってしまうのではないかと僕は思います。

2015-16シーズン 横浜ビー・コルセアーズ選手時代の西谷亮一AC

(2)以降につづく

(※1)期待値とはその選手が1本シュートを打った時に、何点入るかという指標を表す数字
(※2)Bリーグ2021−22シーズンにおいて3ポイントのアテンプト(試投数)が100本以上で成功率が35%以上の選手は日本人選手が37人、外国籍選手が25人だった

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