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『ダブドリ Vol.13』インタビュー02 菊地祥平(アルバルク東京)

2022年2月16日刊行の『ダブドリ Vol.13』(株式会社ダブドリ)より、菊地祥平選手のインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。インタビュアーは、バスケレポーター&いかめし阿部商店3代目社長の二足の草鞋で活躍する今井麻椰氏。

黄金世代。彼らの世代はそう呼ばれ、長く日本バスケを牽引した。ベテランとなり「引退」を選ぶ者もいる中で、今も名門クラブの絶対的存在である菊地祥平。今回はそんな菊地祥平に迫る。(取材日:11月22日)

僕はこの世代で有難かったです。

今井 お忙しい中ありがとうございます。菊地選手は山形出身ですよね? 私、昨日の夜、山形にいました。山形めちゃくちゃ寒かったです。
菊地 まじで何もないですよね(笑)。
今井 確かに何もないですけど、街中から山が見えてすごくいいですよね。お兄さんがいらっしゃるんですよね?
菊地 はい。4つ上と2つ上にいます。
今井 バスケを始めたきっかけもお兄さん2人の影響ですか?
菊地 そうですね。兄のバスケに付いて行ったのがきっかけですね。
今井 お兄さん2人は今もバスケに関わっているんですか?
菊地 1番上の兄が地元の高校の指導者をやっていて、真ん中は関わってないですね。真ん中は新潟にいるので、新潟でやるときは必ず応援に来てくれます。
今井 すごくいい関係ですね。お兄さんの高校に教えに行かれたりしますか?
菊地 そうですね。兄の高校には、帰省した際に顔を出して、練習を見たりしています。
今井 大スターが来たみたいになりますよね。
菊地 いやいやいや(笑)。それこそ山形でバスケと言ったら、大神雄子さん(トヨタ自動車アンテロープスAC)ですよ。僕なんか全然ですね。
今井 あー、確かに。大学でも続けようと思ったきっかけはあったんですか?
菊地 基本的に東北でバスケを続ける人は、東北の大学に行くことが多いんですよ。僕は日大山形だったのもあって、日大から推薦のお話をもらいました。お金のこともあるので、その辺は全て親に任せようと思っていて、そうしたら親がバスケも含めて大学の監督と話して、関東に行きなさいと言ってくれました。
大柴 ご両親はバスケをやられてたんですか?
菊地 やってないです。2人ともバレーをやってました。両親は兄がバスケを始めた頃から、バスケを相当勉強してくれてて、僕はそういう姿も見てきたので、お金を出してくれたり、バスケをさせてもらう環境を与えてくれていた親が納得するところに行こうと思って、任せました。
今井・大柴 へー。
今井 高校でバスケは最後にしようかなとか思わなかったですか?
菊地 中学から高校に進んだのもバスケ推薦で、その頃は普通クラスとスポーツ特別クラスみたいなのがあって、僕はスポーツ特別クラスに行ったんですけど、もう本当に……当時はお二人が想像する以上に勉強しないんですよ(笑)。
一同 ハハハ。
今井 本当にバスケだけってやつですよね(笑)?
菊地 はい(笑)! 寝てるか、遊んでるかみたいな感じでした(笑)。本当にスポーツに特化した人しか来ないようなところだったので、そこに進んだ時点で、勉強は無理だと思いましたね(笑)。
今井 日大山形は中村(紀男)監督ですよね。高校進学の際は、どう声をかけられたんですか?
菊地 当時の山形は、山形南と日大山形が強くて、2人の兄は山形南に行ったんです。僕も有難いことにその2校から推薦をいただいて、山形南の先生は僕をセンターとして使いたい。日大山形の中村監督は将来を考えたら、必ずアウトサイドでのプレーが必要になるから、フォワードで使いたいと言ってくれました。僕も親もそれを聞いた時に、日大山形に行った方が、将来的に道が広がると思って、日大山形を選びました。その選択は正しかったと思います。
大柴 中学時代はインサイドだったんですか?
菊地 4番をやりつつ、5番をやる感じでした。外ができるプレーヤーではなかったので、中村監督との出会いは、僕にとっての大きな転機だったと思います。その選択が違っていたら、関東の大学にも行けなかったと思いますね。
今井 当時はスコアラーだったんですよね?
菊地 どちらかといえば、そうですね。それこそ東芝に入団して、2年目くらいまではオフェンスができればいいやという考えだったので、もう本当に……大学の頃なんて酷かったですね(笑)。
今井・大柴 ハハハハ。
今井 菊地選手の世代は黄金世代じゃないですか? 竹内世代と言われたり……そこはどうですか?
菊地 僕はこの世代で有難かったです。竹内世代で括っていただいている中で、代表に呼んでいただいたりとか、ユニバでの活躍があったし、この括りに入ってなかったら、もっと早めに引退したり、そもそもここまでバスケをやれてなかったんじゃないかなと思いますね。
今井 えー‼ そんなことないと思いますよ! 竹内兄弟以外にも岡田優介選手(A千葉)とか正中岳城さんとか、みんな同じ世代ですもんね。
菊地 そうですね。今も現役だと……。
今井 太田敦也選手(三遠ネオフェニックス)とか(笑)!
菊地 あ、そうですね。あっちゃん(太田選手の愛称)がいますね。
今井 太田選手はどうでした?
菊地 だいぶ上手でしたよ(笑)!
今井 だいぶ上手ってどういうことですか(笑)。
菊地 大学の1、2年の頃は練習の終わりとかずっと泣いてましたね(笑)。
今井 えー!
菊地 今の日大の監督の城間(修平)さんや、引退された山田大治さんと同じポジションで、1年と3年、4年だったので、大変だったと思いますよ。当時は結構ナヨナヨしてましたしね(笑)。
今井・大柴 ハハハハ。
菊地 でも、その時代も経て、大学4年の頃には竹内譲次(大阪エヴェッサ)、竹内公輔(宇都宮ブレックス)とはれるくらいのセンターに成長していました。敦也がいなかったら、日大も勝ててなかったですね。
今井 当時から仲良かったですか?
菊地 仲良かったです。唯一、1年の頃から上級生と一緒の練習に参加してたのが僕と敦也だけだったので、ずっと2人でいましたね。
今井 本当にいい人ですよね(笑)!
菊地 めちゃめちゃいいやつです(笑)。
大柴 僕、喋ったことないですけど、見た目通りというか、雰囲気通りな感じですか?
今井 仏ですよ! 仏(笑)!
菊地 本気でお願いすれば、なんでもイエスって言うと思います(笑)。
一同 ハハハハ。

妻が「いいよ」と言ってくれたことです。

今井 黄金世代にいたことで、他にプラスになったこととかありますか?
菊地 それこそ、当時のJBLに同期がたくさん入ったのはでかかったですね。
大柴 あー、なるほど。
菊地 当時のJBLに入れたのは学年に数人で、チームの主力は先輩達になりますけど、それでも同期に負けたくないって気持ちが僕は強かったです。どのチームにも必ず同期がいて、大学時代に切磋琢磨していたので、大学の延長ではないですけど、負けたくない相手が必ずいる状況は、僕にとってすごくいい環境だったなと思います。
今井 今でも同期でライバルだと思う選手はいますか?
菊地 今ですか(笑)?! 同期には……誰とかはないですけど、誰にも負けたくないですね。
今井・大柴 おー!
今井 お話を聞くと、改めて黄金世代の凄さを感じますね。東芝に入団した時は、会社員もされていたんですよね?
菊地 そうですね。当時はプロ契約ができなかったので、午前中は働いて、午後から練習でした。
今井 お仕事は何をされていたんですか?
菊地 午前中だけなので事務のデータ入力とか、僕は安全課みたいなところに入ったので、色んな職場を巡って、自分の顔を覚えてもらうではないですけど、色んな方とコミュニケーションを取らせてもらったりもしてましたね。
今井 当時は会社員かバスケかで悩んだことはなかったんですか?
菊地 悩みました。僕は引退後、東芝に残るんだろうなと思ってました。当時は新しい選手が入ったら、ベテランが抜けていくみたいなサイクルだったんですけど、僕がベテラン側に入ってきた頃にバスケを教えてみたいという欲求も出てきて、東芝のバスケだけしか知らないのは、自分のバスケに幅が出ないなと感じたりしましたね。当時トヨタ自動車(現アルバルク東京)のヘッドコーチをしていたドナルド・ベックさん(現熊本ヴォルターズHC)が僕の中ではすごく魅力的で、一緒にバスケしてみたいなと感じていました。
大柴 いくつぐらいの時ですか?
菊地 28歳ぐらいですかね。そこから会社を出るのは難しい選択でしたね。
今井 そうですよね。中堅になってますもんね。
菊地 はい。28歳で会社員を辞めて、プロになるのは、当時の東芝の人達からしたらありえない流れだったので、会社の役員からも大反対されましたね(笑)。
大柴 あ、そうなんですね。
菊地 はい。当時の部長に伝えたら、「ちょっと明日時間ある?」と言われて、本社に行って、そこに役員の方々が座られてて、面談しましたね(笑)。
今井・大柴 ハハハハ。
菊地 将来像みたいなのをホワイトボードに書いてくれて、説得してくれました。でも、このまま会社員をできるかと言われたら、できる自信がなかったし、バスケを続けたいですと伝えましたね。
今井 移籍に踏み切った一番のきっかけはなんだったんですか?
菊地 妻が「いいよ」と言ってくれたことです。妻が「ダメ」と行ったら残ってました。
今井 奥さんの影響力すごいですね。
大柴 いや、でも当時の奥さんからしても相当なことですよね?
菊地 はい。それこそ怪我でダメになったら、無職になりますからね。今でこそ、バスケが普及してきて、色んな道ができたと思いますけど、当時は全然なかったので、その時に「いいよ」と言ってくれた妻には今も感謝しています。
今井 なんか素敵です。太田選手には相談しました?
菊地 敦也にはしてないです(笑)!
一同 ハハハハ。

ルカはセミファイナルの三河に負けると話してました(笑)。

今井 それでトヨタ自動車に移籍してきたのは何年ですか?
菊地 2013-14シーズンですね。その頃のトヨタは、正中、岡田、竹内公輔の同期がいたので、すごくやりやすかったですね。ベックさんのバスケ観だったり、外国籍もジェフ・ギブス(現長崎ヴェルカ)、フィリップ・リッチーとかすごく頭のいい選手がいて、彼らと一緒にやった時に「やっぱり移籍してよかったな」と思いました。色んなバスケの考え方だったり、アプローチの仕方をそこで学びましたね。
今井 他に移籍してきて、印象的なことはありますか?
菊地 それこそトヨタ自動車は、当時めちゃめちゃ強かったので、まず呼んでもらえると思ってなかったです。それにまさかここまで僕がこのチームに残れるとは思ってもなかったから、一言で言ったら、運が良かったなとは思います。
今井 運も実力のうちですからね。
菊地 いやいやいやいや(笑)。
大柴 ハハハハ。でも、プロの方を見ていると、運は大事だと思いますね。
菊地 そうだと思います! 1つのタイミング、1つの選択肢を間違えたら、絶対にここにはいなかったと思いますし、妻とも「運良かったね」って話はめちゃめちゃしますね。
今井 そして、ご自身の初めてのリーグ制覇が2017-18シーズンですよね。
菊地 そうです。B.LEAGUEの2年目、ルカ・パヴィチェヴィッチ(アルバルク東京HC)体制になっての最初のシーズンですね。
今井 どんな思いでした?
菊地 僕、小さな大会でも優勝したことがなかったんですよ。
今井 それが意外ですよね。
菊地 ルカとも1年目でめちゃめちゃ話をしたんですけど、優勝できると思ってなくて、ルカはセミファイナルの三河に負けると話してました(笑) 。
今井 えーーー!
大柴 ハハハハ。まじですか(笑)?
菊地 はい(笑)! あの試合、延長になって競り勝ったというのが、僕にもルカにとってもめちゃめちゃでかかったですね。あのシーズンは三河ほどやりにくいチームはいなかったです。
今井 2日連続オーバータイムに行って、私、その試合、現地で見てました!
菊地 あの三河戦を勝った後は、1週間しっかり準備できて、雰囲気的に僕はいけるんじゃないかなと感じてたし、ルカが来て1年目で優勝できたことがすごく嬉しかったですね!
大柴 すいません、話が戻っちゃいますけど、ルカが三河に負けると思ってたというのは、いつ聞いたんですか?
菊地 三河戦の前日ぐらいです。前日練習を終えて、三河に移動する時に、僕とルカとマネージャーさんで話していて、ルカが「ま、負けて帰ってくるんだろうな……」みたいに言ってましたね(笑)。
一同 ハハハハ。
今井 意外なんですけど! そんなことを言う人なんですね(笑)。
菊地 完璧主義なので、絶対に見せないんですよ(笑)。そこにマネージャーがいたこともあってか、ぽろっと言ってましたね。僕もその場では「いや、絶対勝って帰ってくるから」って話しましたけど、ルカもそういう考えがあるんだなって思いました。
大柴 菊地選手とルカは相当コミュニケーションを取られてるんですか?
菊地 そうですね。ルカ1年目からいるのは僕と(田中)大貴とザック(・バランスキー)くらいになっているし、大貴は代表でいなかったりもするので、1年目はめちゃめちゃ話しましたね。
大柴 あー、なるほど。
菊地 ルカも練習中や試合中はあんな感じですけど、コートを1歩離れるとただのいいおっさんなので、コート外では自分から声をかけようとするんですよ。練習でミスが多かった時とか、選手側からは声をかけづらいことを察してくれてますね。
今井 そうなんですね。
菊地 本当にどうでもいいようなことを彼から話してくれるので、それをきっかけにプレー面も含めて、色々話しますね。あれほど理想高く、情熱的な姿勢がワンシーズンずっと変わらないので、そこは本当にすごいと思いますね。中途半端には絶対にしないので、僕も全信頼を置いていますし、ついて行こうと思えるような人ですね。
今井 逆にルカHCには、何を求められていると思いますか?
菊地 僕にはほとんど何も言わないんですよ。
今井 あ、そうなんですか。
菊地 お前はもうわかってなきゃいけないという存在なので、僕はそこを悟らないとダメだよっていう感じです。そこを悟れなくなったら、僕はきっとこのチームにはいれないですね。
今井 プレーの指示とかもないですか?
菊地 ないですね。
今井 試合に出るときに求められていることは自分で感じとるんですか?
菊地 はい。それが間違っているようだったら、みんなの前じゃないところでぱぱっと話はしますけど、基本的に僕には言わないですね。それこそ、今シーズンは言わなきゃいけないメンバーがたくさんいて、新しく入ってきた安藤周人や若手のメンバー、その辺には期待もしているし、やらなきゃいけないメンバーなので、僕に言ってる時間があるなら、彼らに言いますよね。
今井 若手との間に入って伝えるとかはしますか?
菊地 しますよ。今年は試合の出場時間や出場機会が少なくなっているので、試合中に見れることが増えました。そういった意味ではここまでずっとやってきている中で、ルカが求めていることとちょっと違うかなと思った時に、「多分こうだよ」って話をしたりはします。
大柴 なるほどねー。

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