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選手からコーチへ ―西谷亮一に見えたもの―(3)

Bリーグも6年目が終わり、選手もコーチも非常にレベルが上がってきた。その中でトップレベルで活躍した選手が次のキャリアとしてコーチを選択するケースも増えてきた。彼らにとって選手としての経験がどのようにコーチングに活き、コーチをする中でどんなことを感じたのだろうか。今回は昨シーズンまで選手として活躍し、2021-22シーズンから横浜ビー・コルセアーズでアシスタントコーチとしてキャリアをスタートさせた西谷亮一氏に話を聞いた。(取材日:6月14日)(2回目はこちらから

できる範囲で可能性は提供し続けないといけないと強く思いましたね。

宮本 インタビューなどで選手やコーチとお話をさせてもらうのですが、当たり前なんですけど、それぞれの視点で多かれ少なかれギャップがあると感じています。それをどうやって埋めていくのか。「選手経験があるコーチ」の重要な役目のひとつなのかなと感じています。
西谷 そうですね。
宮本 試合の場面だけを見ると「アシスタントコーチは具体的に何をしてるの?」と思われるかもしれませんが、すごく重要な役割を担っていて、西谷さんのように選手経験もあるコーチは選手の気持ちが手に取るように理解できると思います。そのあたりで難しさは感じましたか?
西谷 今シーズン感じた難しさは、選手を起用するときの組み合わせですね。年末に特別指定選手として河村(勇輝)とキング開が加入したことにより、ガードポジ ションの選手が増えて、どの選手を1番で使うのか、この選手は2番で使ってみようかなど、起用の組み合わせが難しくなったのは正直ありました。 基本的には青木(勇人)さんが提案してくれる意見を理解した上で、試合によっては、生原(秀将)をコンボガードとして起用してもいいのかな、など自分なりの起用に関する考えや葛藤がありました。選手本人には「1番も2番もどっちもできると思う。」「(試合に)出た時の役割を考えて全うしてほしい」などと伝えていましたが、起用のされ方については、選手本人も悩んだ点があったと思います。 実際に自分の起用のされ方について僕に「僕はもうこのポジションで出ることはないんですか?」と聞いてきた選手もいました。その時は、「そのポジションで出る可能性も絶対にあるから」と伝えていました。選手が悪い意味で「自分はこれしかない」と思ってしまうことは良くないと思うし、コーチ陣の起用法などでそうさせているのはすごく怖いことだと感じました。できる範囲で可能性は提供し続けないといけないと強く思いましたね。選手それぞれの良さを活かして、輝いて欲しいので。

基本的には選手のできることを発揮してほしいと思っています。

宮本 横浜は青木さんも山田(謙治)さんも選手経験があって、コーチ陣全員が選手の感覚、気持ちを理解できると思います。その中で選手時代からあまり日が経っていない西谷さんだからこそ、感じられた選手の気持ちや苦悩、葛藤もあると思うのですが……。
西谷 そうですね。何なら僕は4番で試合に出たこともあります。その時は流石に何をすればいいんだろうと思いましたが(笑)。基本的にはその選手ができることを発揮してほしいと思っています。そこを飛び越えてやってほしいとは僕らも言いません。選手ができることを理解するには日々のワークアウトや練習を僕らがしっかりと見ること、あとはコミュニケーションだと思っています。その中で「この選手、意外とこれができそうだな」ということも見つけられるように意識はしていて、ピックアンドロールの練習でも僕がスクリナー役になってダイブした時のポケットパスの出し方とか、タイミングを感じて「ピックアンドロールを使わせたら意外といけるかも」というところを見つけることも意識しています。
宮本 なるほど。
西谷 たとえば(土屋アリスター)時生はやれることが限られていた分、青木さんも使いどころを迷っていたのは事実です。その中で彼が得意なのはリムランなどの縦へのスピードで、スペースが広い中で走らせたり、ダイブさせると彼の良さが活きると思います。だからセットプレーよりは、トランジションの中でアーリーピックをかけに行って広いスペースにダイブさせたり、本人にもずっと「リバウンドをとったら、まずは先頭を走ることを意識してほしい。時生はそれができるし、それが武器だから」と話していました。練習ではいいプレーが結構出ていて、本人も手応えを感じることはあったと思います。
 さらに僕はシーズンの頭から時生に対して感じていたことがあって、彼は展開の速さを作れるんです。シングルサイドで何かが起こらなかった時にセカンドサイドに展開するタイミングは4番の選手がめちゃくちゃ鍵になるんです。そこでボールを持ちすぎてしまうとテンポが遅れますし、同じサイドで続けようとして、それでも無理だからセカンドサイドに展開する、みたいな感じだとテンポも出てこないですよね。
宮本 展開が速くなるとディフェンスもポジションのズレが起こったりしますよね。
西谷 そうなんです。今回、宇都宮が優勝した要素には展開力がかなりあると思っていて、ジョシュ・スコット選手やアイザック・フォトゥ選手がトップでパスを受けたら、すぐに逆サイドに展開してアクションを起こしていました。それは本当に大切なことで、横浜でやろうしていたシングルサイド、セカンドサイド、何ならサードサイドまでボールを展開して攻めるやり方もそうです。そこに時生がフィットすると僕は思っていて、時生にはもちろん話していましたし、青木さんにも「時生の展開力はいいと思う」と伝えていました。青木さんもそこを汲んでくれて、4番ポジションで彼を起用してくれました。
宮本 試合の流れに乗るのは練習だけでは難しいものがあると思いますし、決してその選手が個人として悪くないパフォーマンスでも、試合の様子だけで見ている僕らも「ここは他の選手を出すべきでしょ」という評価を選手や起用するコーチ陣にしてしまっている気がしています。
西谷 試合に出したいんですけど、出すタイミングや試合の展開に関しては、試合が始まってみないとわからないのが正直なところです。この選手はどのタイミングで出すのが1番輝けるのか、対戦相手の分析をしている時からコーチ陣でかなり話をしていました。うまくそういう展開になれば試合に送り出せますけど、そうならなければ「タイミングはまだだな」という判断になります。色んな起用の仕方を考えたり、選手とも話し合いを繰り返して、自分の良さを理解して最大限活かすことでプレータイムを伸ばしてくれた選手もいました。そこはコーチとして手応えを感じたところもあります。ただ本当に難しくて、だからこそシーズン中は試合に出た時にしっかり役目を果たせるように準備してほしいし、オフシーズンはできることをどんどん増やしてほしいなと思いますね。そしてその過程をコーチとしてサポートしていくことも僕の今後の課題です。
宮本 シーズン中は100の力を100しっかりと発揮する。シーズンオフに100の力を105、110まで伸ばす取り組みをするみたいなことですね。
西谷 そうですね。でも、たまにいるんですよ。シーズンに入ってから急に何かができ始める選手が(笑)。
宮本 ハハハハ。
西谷 それは元々できる力があって、そこに活路を見出して覚悟を決めた選手とかはいきなりできはじめたりするんですよ(笑)。
宮本 それはもう練習とかではなくて、覚悟の問題(笑)。
西谷 そう(笑)。そうなるとまた組み合わせとかバランスとかを考え直さないといけないですけど、そういうサプライズはどんどんやってもらいたいなと思いますね。

(4)につづく


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