見出し画像

あのコートで見えた景色 ―秋田ノーザンハピネッツの未来予想図― (3)

チャンピオンシップのコートに辿り着く過程で、そしてそのコートの上で彼らには何が見え、何を感じたのか。そこにはきっと秋田だからこそ辿り着けた理由がある。今回、チャンピオンシップを目指した今シーズンの秋田ノーザンハピネッツを長谷川暢選手と中山拓哉選手とともに振り返る。連載3回目の今回は、中山選手にチャンピオンシップのコートに辿り着くまでの話を聞いた。(2回目はこちら

どうしたら試合に出られるか考えていたら、こうなったんだと思います(笑)。

宮本 今シーズンは中山選手にとってどんなシーズンでしたか?
中山 難しいシーズンでした。怪我でメンバーが全員揃わないという状況の試合が多くて、外国籍選手2人で戦うことも多かったです。やっぱり秋田はチーム全員で戦うチームなので、メンバーがいるといないとでは全然変わりますよね。
宮本 中山選手はハンドラーもやったり、外国籍のフォワードタイプとマッチアップしたりするじゃないですか。戦術的にも2021-22シーズンの秋田のバスケットボールはポジションレスな感じでしたけど、中山選手はどこがやりやすいとかあるんですか?
中山 あまりそういうことを気にしてバスケットをやってなくて、「この選手と一緒に出るからこうした方がいいのかな?」という感じですね。僕は大学の時もポイントガードでもなく、シューティングガードでもなく、そのチームの状況に合わせていたのでそこにこだわってはいないというか……。どこがやりやすいかは自分の中でもピンとこないですね(笑)。
宮本 なるほど。むしろ今度それを掘り下げたいですね、どのように中山拓哉というバスケット選手が出来上がったのか(笑)。
中山・宮本 ハハハハ。
中山 でも、めちゃくちゃドリブルが上手いとかでもないので、どうしたら試合に出られるか考えていたら、こうなったんだと思います(笑)。
宮本 求められるものを伸ばしてきたらこうなった、という感じなんですね。
中山 そうですね。例えば、ポイントガードに対するディフェンスがめちゃくちゃよくて運ぶのが大変そうなら、僕のところで運べばいいというように、どこにアドバンテージがあるのかを見極めています。(川嶋)勇人さんと一緒に出て、勇人さんがもっとピックを使うことに専念した方がいいと感じた時は僕が運ぶとか、(長谷川)暢と一緒に出て、暢のところに圧をかけられてプレッシャーを受けてしまう時は、「僕がやるから暢は次の準備しておけよ」ってこともあります。本当に、誰と出ているかやチームの状況によってやることを変えていますね(笑)。
宮本 なるほど。
中山 さっきおっしゃっていた秋田のバスケットはポジションレスというのも、(伊藤)駿さんが出てきてめちゃくちゃ作る時は少し話が変わりますけど、僕と暢の場合はトランジションでどんどん持っていくというのが1つの強みになると思います。その時はポジションとかあまりないとは思いますね。
宮本 だからこそ、伊藤選手が出た時のコントロールが強みになる部分もありますよね。
中山 そこでいい変化というか、違いを作れるのは間違いないですね。

やっぱり自分の責任は大きいと思っています。

宮本 僕は4月16日、17日のシーホース三河戦を秋田に取材に行かせてもらいました。今振り返ると、そこで連勝していればもっと楽にチャンピオンシップ(以下、CS)出場を決めることができたと思いますが、中山選手としてはどういう気持ちで三河戦に臨みましたか?
中山 おっしゃる通り、勝てばほぼ決まりだったのでCSと同じくらいの気持ちでやっていました。負けたら終わりだっていう気持ちでコートに入りましたね。
宮本 三河戦の前には川崎ブレイブサンダース戦で最大19点差を逆転勝利した試合がありました。その試合は中山選手のブザービーターで勝利をして、その勢いをもって迎えたこの試合でしたが、望んだ結果にはならず気持ち的に浮き沈みがあったというか、「やっちまったな」みたいな感じだったんですかね?
中山 やっぱり勝たなきゃいけないゲームでしたし、キャプテンという立場もあり、試合に出てる時間も長いので、やっぱり自分の責任は大きいと思っています。だから、その日はめちゃくちゃ落ち込みました。東海大学の時のヘッドコーチの陸川(章)さんが「勝っても負けてもその日で終わりなさい」とよく言っていたんです。24時間ルールと呼ばれているんですが、普段から負けた試合の後は、めちゃめちゃ悔しくて寝られなかったりするんですけど、良くても悪くても寝て起きたらそこは考えずに切り替えるというのは意識していて、三河戦も悔しかったけど、しっかり切り替えることはできたと思います。
宮本 このタイミングでも大学での学びがしっかりと活きていたんですね。
中山 そうですね。三河戦は大事な試合ではありましたけど、あくまで60試合の中の1試合という認識でした。悔しい気持ちを引きずることが一番良くないとわかっているので、次の試合へまたフラットな気持ちで向かいました。
宮本 連敗が続いてしまっても、しっかり次の試合に準備していくという感じですか?
中山 僕はCS出場が決まる・決まらないの前に基本的には1試合ずつ、もっと言えば1つのクォーター、1つのプレーを大事に考えています。だから連敗しても、相手がどこだったとしてもまずは目の前の試合に集中する。試合の内容がよくないとか外国籍選手が怪我でいないとかがあったとしても、強いチームは勝ちますし、覚悟を持ってやるしかないと思っていました。シーズンの初めからそれはずっと思っていましたね。
宮本 なるほど。その中山選手の考えを聞いて、今シーズンはキャプテンとして色んなことがある中で、チームの気持ちを揃えることはすごく大変だったと思います。揃ってないかもな、ちょっとズレてるかもな……と感じたことはありましたか?
中山 今シーズンは勝たないといけない試合で勝てていないというのが多くて、サンロッカーズ渋谷戦(22年4月6日)、あれも勝たないといけないゲームでした。そういう試合でチームとしても個人個人も焦っているというか……。それは今シーズンずっとあった気がします。やっぱりみんな勝ちたくて、CSに出られる可能性がある中でそれぞれが責任感を持っていて、そこを揃えるのが難しいときはありました。
宮本 中山選手の立場的にもすごく難しいんじゃないかなと思っていて、田口選手や古川選手、伊藤選手とかチームの中でベテランの選手はきっと自分のルーティーンや責任の持ち方があると思います。逆に若手の選手たちは経験の少なさゆえにそれをうまく保てないこともあると想像できる中で、中山選手の立ち位置はすごく難しいだろうなと思っていました。
中山 ベテラン勢はなんだかんだやってくれるというか、僕が気にしなくても今までの経験があるし、チームのために必要なことを言ってくれる人たちだったので、すごく助けてもらいました。逆に後半戦で大浦(颯太)とかのプレータイムが減っていく中で、腐らないように声かけとかを考えることはありました。暢はスタメンで一緒に出ることが増えて、試合前に「俺と暢のディフェンスが試合の強度を決めるから、まずはディフェンスをしっかりやろう」という話をいつもしていました。それを毎回言うことで、ルーティーンじゃないですけど、毎試合同じトーンで入れるように意識していましたね。
宮本 最後の5試合の相手は茨城ロボッツ、京都ハンナリーズ、三遠ネオフェニックスでした。それを全て勝てば、ほぼ秋田がCS出場できるだろうと言われていましたが、その最初の茨城戦で負けちゃったじゃないですか。その時はどんな気持ちでしたか?
中山 あそこで負けしまいましたけど、わずかでもチャンスはあるからやるしかない。だから、自分たちができることをやろうという話はしていましたね。
宮本 結果的にその後、秋田は4試合を勝って千葉と川崎が最終節で連勝したことでCS出場が決まりました。その瞬間はどんな気持ちでしたか?
中山 率直に嬉しかったですね。昨シーズンも(カディーム・)コールビーが怪我をするまではいい位置につけていて、CS出場を狙える位置にもいました。本当にこのチームでそこに行きたいとずっと思っていた中で、今シーズンの終盤に負けが続いてしまって、「今シーズンも難しいのかな」と思ったことも正直あったので、決まった時はめちゃくちゃ嬉しかったです。
宮本 そこから琉球戦までは経験したことのない時間だったじゃないですか。そこの時間で何か感じることはありましたか?
中山 その1週間はまだ試合ができる喜びと楽しみが強かったですね。そもそもレギュラーシーズンでは琉球との試合がなかったので、本当に楽しみが強かったです。ただ、そこがゴールではないとは自分の中で思っていました。だから、あがりすぎずにというか……。
宮本 程よい感じというか、いい緊張感で過ごせていたんですね。
中山 そうですね。レギュラーシーズンが終わって、CSに向けての練習の時に(前田)顕蔵さんが言った「今、B1で練習できているチームは8チームしかいない」という言葉がすごく響きましたね。

(4)につづく

↓↓ 2022-23シーズン クラブハピネッツ早期入会受付中! ↓↓


この記事が参加している募集

#すごい選手がいるんです

2,714件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?