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あのコートで見えた景色 ―秋田ノーザンハピネッツの未来予想図― (4)

チャンピオンシップのコートに辿り着く過程で、そしてそのコートの上で彼らには何が見え、何を感じたのか。そこにはきっと秋田だからこそ辿り着けた理由がある。今回、チャンピオンシップを目指した今シーズンの秋田ノーザンハピネッツを長谷川暢選手と中山拓哉選手とともに振り返る。連載の最後となる今回は、中山選手にチャンピオンシップのコートで見えたこと、これからの秋田について話を聞いた。(3回目はこちら

もっと僕が打開できれば違ったのかなとすごく思いました。

宮本 沖縄アリーナに足を踏み入れた時はどんな気分でしたか?
中山 今までと違う独特なものを感じましたね。沖縄アリーナを天皇杯で経験していて良かったと思いました。
宮本 あー、なるほど。
中山 初めてのチャンピオンシップ(以下、CS)出場で沖縄アリーナでの試合も初めてだったら、もっと受けていたかもしれません。天皇杯の経験もあり、僕の中ではいつもと同じ試合と変わらずに試合に入れました。内容でいうと…… 琉球が強いことは色んな人が知っていると思いますけど、実際にやってみて…… まあ、強かったですよ(笑)。
中山・宮本 ハハハハ。
宮本 そうだよね(笑)。前田(顕蔵)HCからも試合後の会見で「琉球さんと普通にやったら勝てない」という話があって、メディアも「おおお」みたいになっていました(笑)。
中山 いやー、そうですね(笑)。コルトン(・アイバーソン)が怪我してたのもありましたし、正直に言ってしまえば、僕らも自力だけでCSに出られたわけではないので、逆に言えば失うものがないなかでやれることをやる、という感じでもありました。やっぱり琉球のように、レギュラーシーズンを勝ち抜いて、CSを何度も経験している選手が多いチームは本当にチームとしても固まっているというか、気持ちの部分でも1つになっているのを感じました。
宮本 なるほど。長谷川選手が「秋田も優勝を目指していたけど、まずはCSに出ることが大前提のところがあって、琉球は本当の意味で優勝を目指していたと感じた」と話していました。
中山 そうですね。本当に僕らも今シーズンは「優勝」と言っていましたけど、やっぱりこれまでCSにも出たことがなかったから、そこが明確ではなかったところは正直ありました。
宮本 やっぱりCSに出ると出ないでは全然違いますか?
中山 全然違いますね。
宮本 オフシーズンに入ってからの考え方とかも変わってきますか?
中山 そうですね。あそこに出られたからこそ、優勝という目標がより現実的になったと思っていて、CSにも出たことがないチームが言うのと、実際に出たことがあるチームが言うのは全然違うと思います。プレータイムは人それぞれかもしれないですけど、あのコートに立てたことはそれぞれにとってすごく大きな経験で、それこそ活躍したのはベテランの選手だったと実感しました。この悔しい気持ちはあのコートでしか感じられなかったからこそ、来シーズンに向けてこのオフの使い方も今までとは変わってくると思いますね。
宮本 中山選手はCSの2試合を自己評価するなら何点くらいですか?
中山 僕は…… 50点くらいじゃないですか?
宮本 それはどういう意味での50点ですか?
中山 チームの流れがいい時はみんないいじゃないですか。でも、チームの流れが悪くて、シューター陣が抑えられた時に僕が全然打開できなかった。僕がうまくシューター陣に点数を取らせたり、僕自身が得点を取ったりできていたら違ったゲームになっていたと思います。ディフェンスの部分では個人的にやられたとは思っていないので、オフェンスのところでもっと自分ができていたら…… という感じですね。
宮本 なるほど。今シーズンの秋田は3ポイントを武器としていました。そのためにハンドオフをきっかけに、スペースを空けてからペイントをアタックする。そこからのキックアウトでシューターにどうスリーポイントを打たせるか。その途中でバックカットを入れたり、そこから逆サイドに展開するみたいな、ざっくりとそんな形でしたが、そのポイントを琉球にほぼ全部いい守られ方をされました。やっぱりレベルが違うなみたいなところはありました?
中山 逆にシューターのところに寄ってくれたので、僕のところではボール運びでめちゃめちゃプレッシャーをかけられて煽られることがなかったんです。ちょっと下がっているじゃないですけど、シューター陣のところのケアがすごくて、僕個人にはディフェンスの圧が強かった感じはなかったんです。
宮本 はいはい。
中山 ただ、おっしゃる通り展開を作るハンドオフのところで引っかかったりすることがやっぱり多かったので、もっと僕が打開できれば違ったのかなとすごく思いました。

だからこそホームであの試合を迎えたいなと強く思いましたね。

宮本 CSにいって、秋田がこれからどんなステップを踏んでいくべきかというのがより見えたと思います。秋田ノーザンハピネッツができた時に水野勇気代表が「秋田だからできないことはない」ということをよくおっしゃっていて、チームが歴史を積み重ねてCSに辿り着きました。その中であのコートに立って、秋田だからこそできたことや見えた景色が中山選手の中であれば伺いたいです。
中山 僕は秋田で降格も昇格も経験しました。B2に降格した時から、秋田ノーザンハピネッツはすごい選手を集めて強くなるのではなく、自分たちのバスケット、ディフェンスをアグレッシブに激しくやることをベースに、今シーズンはCSまで行くことが出来ました。自分たちのバスケットボールが間違っていなかったことを改めて認識しましたし、その中で、あの舞台で勝つためには琉球のように質の高いことをしなくてはいけないと感じました。オフェンスがよくなっていけば、本当にもっともっと勝てると思います。ただ、そっちばかりに目がいって僕らがやるべきディフェンスをやらなくなるのは絶対にダメで、そこが僕たちのアイデンティティだということを絶対に忘れないことが大切です。今回もたくさんのブースターが沖縄まで来てくれたこと、画面の向こうで応援してくれたことが本当に僕らの力になりました。やっぱり秋田の最大の強みはブースターだと思うので、これがホームでできればまた話が変わってくると思うんです。
宮本 ホームでCSをやってみたいですよね。
中山 そうですね。今回、他の試合を見ていても、ホームの力のすごさをより感じたというか、やっぱり雰囲気で一気に持っていけるというか……。それをすごく感じたので、正直これを秋田でやれていたらまた違ったのかなと思ったりもしました。
宮本 僕は沖縄アリーナで、岸本(隆一)選手が「ここディフェンス頑張ろうぜ」と手を叩いた時にアリーナのリアクションのスピード感に圧倒されました。その温度感というか、熱量というか……。もしもそれをあの場面で、中山選手がCNAアリーナ☆あきたでやっていたら、すごい光景だったんだろうなと思ったんです。
中山 その景色を作りたいですね。
宮本 僕も沖縄に行ってみて、CSでのホームコートアドバンテージの重要性をより感じました(笑)。
中山 なんか…… 本当にアウェイ感がすごかったですよね(笑)。
中山・宮本 ハハハハ。
中山 だからこそ、あの試合を秋田で迎えたいなと強く思いましたね。

 2021-22シーズン、秋田ノーザンハピネッツの戦いはCS クォーターファイナルで終わりを告げた。掲げた「日本一」という目標には届かなかったものの、数々の劇的な試合や初のCS出場の軌跡は多くのファン・ブースターの心に刻み込まれたに違いない。

「秋田だからこそできるバスケがある」

 積み上げてきたもの、通用しなかったもの、こみ上げる感情―― すべてを噛み締めて聴いたあの試合終了のブザーは、いつか秋田が頂きに辿り着くための始まりの合図である。そう、私は信じている。

(文・写真=宮本將廣 )

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