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『拝啓、バニーボールはじめました』第2話 【創作大賞2024・漫画原作部門応募作】


「はあ……」
 自室のベッドにバレーボールを持って横たわる天空は、ため息をつきながら壁の方を見る。
「バニーボール……流れで始めてしまったが……」
 壁にはバニーガールの衣装がかかっている。
「格好はあれだが……まあ、基本的にはビーチバレーの派生みたいなものだと考えればいいか……ん?」
 天空の枕元のスマホが鳴る。兎野からの電話だ。スマホを持って、体を起こした天空は電話に出る。
「……はい」
「ああ、白田くん、お疲れさん」
「お疲れ様です……」
「また急な話だが、合宿を行おうと思ってね」
「合宿ですか?」
「ああ、試合込みでね」
「試合も……」
「来週の連休だけど、構わないかな?」
「ええ、構いませんが……」
「良かった。それじゃあ乗車券を送っておくよ。ホテルの手配もしておくから心配しないでくれ」
「はい。でも……」
「ん? どうかしたかい?」
「いや、ホテルとか取ってもらって良いのかなって……」
「ははっ、なにも気にすることはないよ、君たちはもうプロのバニーボーラーなんだからね、正式な契約は高校卒業後になるけれども」
「プロ……」
 その響きに天空は顔をほころばせる。
「ああ、ユニフォームだけは忘れないでくれたまえよ」
「ユ、ユニフォーム……」
 天空は壁のバニーガールの衣装を見て、現実に戻る。
「最悪忘れても、私の衣装を予備として貸せるけれど……」
「絶対に持っていきます……!」
 天空は食い気味に答える。
「そうか、それでは頼んだよ、詳細についてはアシスタントの彼女からあらためてメールさせるからそれを確認してくれ。じゃあ失礼……」
「はい……合宿か……ん? 乗車券? 航空券じゃなくて?」
 電話を切った天空は首を傾げる。そして、合宿の日……。
「……来たな、白田」
「黒木……」
 天空と大地、ジャージ姿の二人が邂逅する。大阪の道頓堀で
「夜も人が多いな……昼間は来たことがあるが」
「へえ、なんで来たんだ?」
「修学旅行でだ」
「ああ、オレもそうだよ。しかし、なんだってこんなところに?」
「さあな?」
 天空の問いに、大地が首を傾げる。
「合宿は名目上のことで、くいだおれツアーってことか?」
「……遊び気分では困るぞ」
「……冗談だよ。だけど、この時期沖縄じゃなきゃ、バニーボールは出来ないだろう?」
「甘いな、白田くん!」
 スーツ姿の兎野とアシスタントの女性が天空たちの背後に現れる。
「わっ!? う、兎野さん、ちわっす!」
「……ちわっす」
 天空と大地が頭を下げる。
「うむ、お疲れ……」
「あ、甘いとはどういうことですか?」
「バニーボールを行うのは砂浜だけとは限らないということだ!」
「えっ!? ま、まさか……」
「そのまさかです。ここで試合をしてもらいます」
 アシスタントの女性が指し示すと、道頓堀でもっとも有名なスポットとも言える戎橋にバレーコートが設置されている。
「マ、マジかよ……!」
「マジです」
「な、なんでこんな目立つ場所で……」
「目立つ場所だからこそです」
「え?」
「今回の合宿はバニーボールの普及も兼ねている……!」
「ふ、普及……?」
 兎野の言葉に天空は首を捻る。
「あれを見たまえ!」
「え? ……ああっ!?」
 兎野が指差した方に目をやって、天空は驚く。有名なグ〇コの看板のランナーがバニーガールの恰好をしているからである。
「正直言って、今日の練習試合、いや、エキシビションマッチには結構な金がかかっている……下手な試合は出来ないぞ!」
「ええ……」
「さあ、準備をしたまえ、ちゃんとジャージの下に着てきただろう?」
「ま、まあ、メールで言われたので……」
「ならば、さっさと脱ぎたまえ!
「そ、そんな……」
「燃えてきたな……」
 困惑する横で、大地がバニーガール姿になる。
「だ、だからなんでお前はそんなに前のめりなんだよ!」
「……」
 大地が天空をじっと見つめる。
「な、なんだよ……?」
「ビビっているのか?」
「! ビ、ビビってねえよ! なめんな!」
 天空もバニーガール姿になる。大地が笑う。
「ふっ、それじゃあ行くぞ……」
 アップを終えて、天空たちは試合に臨む。相手は彼らと同年代の双子のコンビである。七三分けと逆七三分けが特徴的である。
「へっ……それじゃあ、行くで~?」
 七三分けが強烈なサーブを放つが、天空がそれをレシーブする。
「むん……!」
「なっ!?」
「ナイス! 任せた!」
 大地が正確なトスを上げる。
「よし!」
 天空が素早く落下点に入って飛び、アタックを放つ。
「よっと!」
「なにっ!?」
 逆七三分けが足でレシーブする。七三分けが浮き上がったボールをアタックする。ボールが天空たちのコートに叩きつけられる。
「よっしゃあ!」
「ナイス! 兄ちゃん!」
「は、反則じゃないか!? 足でのレシーブはビーチバレーでは禁止のはずじゃ……」
「白田……これはバニーボールだ
「……!」
「というか、サーブがアンダーハンドじゃない時点で気付け」
「バレーボールとミックスしているってことかよ……」
「そういうことだ」
「ちっ……」
「切り替えていくぞ」
 試合が続く。天空たちはアタックのチャンスを何度となく得るが、相手は主に足を用いて、レシーブしていく。天空が顔をしかめる。
「くそっ! 決まったと思ったら、足でことごとく拾いやがる! まるで何本も足があるかのようだぜ……!」
「当然や! ワイは『タコ足の一郎』!」
「ワイは『イカ足の二郎』!」
「合計十八本の足をかいくぐることは出来んわ!」
「な、なんだと……!?」
「鉄壁のディフェンスを誇るようだな……」
「そうや!」
 大地の言葉に一郎は反応する。
「まあ……それならやりようはある……」
「なんやて!?」
「白田、トスを!」
「あ、ああ!」
「ピョン!!」
「どわあっ!?」
 大地の放った強力なアタックが、双子の足でのレシーブを吹き飛ばした。
「……どんどん行くぞ……!」
 その後も大地が相手のブロックをものともしないアタックを連発し、得点を積み重ねていく。2セットを連取し、試合で勝利を収める。
「や、やったぞ、黒木! ……って、ど、どうした、その目は!?」
 大地に駆け寄った天空が驚く。大地の目が真っ赤に充血していたからだ。
「……バニーの目だ」
「は?」
「バニーの目は赤い。それに近づけるために、頭の方に目一杯力を込めて、目を充血させた……」
「む、無茶をするな……」
「これによって、強力なパワーを引き出すことが出来た」
「よ、よく分からん理屈だな……」
「とにかく勝てたな。噂の『タコイカツインズ』に勝てたのは大きな自信になるぞ」
「俺の知らない噂なんだが……」
「こら! そこ、なにやっとんねん!」
「!?」
 警察が駆け込んでくる。兎野が叫ぶ。
「無許可だとバレるとマズい! 各自、伝えていたホテルに向かってくれ! お巡りさんは上手く撒けよ! これも良いトレーニングだ!」
「!! そ、そんな!」
「荷物などはこちらが運んでおきますので、ご安心を」
 アシスタントの女性が冷静に告げる。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「はい」
夜の大阪をバニーガール姿で駆け抜けろと!?
「そうですね」
「い、いや……恥ずかしいな……」
「お早く。捕まってしまいますよ、ネットニュースになるのとどちらが恥ずかしいですか?」
「くっ! い、行くぞ、黒木! ……って、なにやってんだ! お前!?」
「道頓堀にダイブして逃げる……!」
「ば、馬鹿なことはやめろ! 罪を重ねるな!
 橋の上から道頓堀に飛び込もうとした大地を天空が抱え込んで下ろす。
「目が……」
「目薬をどうぞ……」
 大地に女性が目薬を差し出す。大地が目薬を差して叫ぶ。
キタ――(゚∀゚)――!!
 大地が猛ダッシュで駆け出す。
「ああ、速っ!? ま、待て、置いてくな!」
 天空がそれを追いかける。大阪の夜は更けていく。





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