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創作大賞2024 応募記念 にゃんにゃん亭茶々丸は見ていた(前編)

 私は、茶々丸。

 かつて落語猫"にゃんにゃん亭茶々丸"としてMe-Tubeで十万以上のフォロワーを持ち、多くのメディアを席捲した大物MeTuberにゃ。
 現在は、惜しまれつつも引退し、ただの茶々丸として新しい飼い主と一緒に悠々自適でのんびりとした暮らしを送っておりますにゃ。
 今日は、その飼い主と一緒に自宅から少し離れたところにある古民家カフェにきておりますにゃ。
 ここは私が以前の飼い主であり相棒パートナーを看取る時に訪れ、そして新しい飼い主であるアイさんと出会った場所でもありますにゃ。
 アイさんは、とても素敵な女性……色々と言う人はおりますが私にとってはとても素敵で美しく、聡明な女性ですにゃ。
 そんなアイさんとは散歩がてらによくこのカフェによって名物の雲のようにフワフワと言うフレンチトーストと私の為に用意してくれたお手製キャットフードを食べながら優雅で静かな女子会を送っておりますが今日は少し違いますにゃ。
「先生出来たぁ!」
「私も出来たあ!」
 アイさんと私と同じテーブルに座る女性と女の子が一斉に手を上げる。
 一人は二十代後半くらいのポプショートの綺麗な女性、
 もう一人は長い髪を綺麗に結い上げた人形のような整った顔立ちの女の子。
 一見すると親子のようにも見えるが顔立ちはまるで似てない。それに女の子の方は特に変わらない、年相応の可愛らしい女の子だが女性の方には少し違和感がありますにゃ。
 キラキラ輝いた純粋無垢な大きな目、あどけない表情、大人らしいのに緩んだ唇、体型だって成熟した女性のものなのにどこか幼く見える、左手の大きなダイヤの指輪がなかったら女の子と同じ年の子どもにしか見えませんにゃ。
 ちなみにアイさんの左手の薬指にも赤いリンゴの結婚指輪エンゲージ・リングが嵌ってますにゃ。
 アイさんは、微笑んで「はーいっそれじゃあ見せてね」と二人の前に置いてある問題集を自分の前に持ってきましたにゃ。
 ちなみに二つの問題集にはどちらも"小学一年生"と書いてありますにゃ。
 アイさんは、サングラス越しに目を細めて二人の問題集を採点して、にっこりと微笑みましたにゃ。
「ハコさん、カンナさん、お見事。二人とも満点よ」
 アイさんが言うと二人は満面の笑みを浮かべてお互いの手を握り合い、ブンブン振って喜びを露わにする。
 女性の方はハコ。
 女の子の方はカンナ。
 二人は今月の頭からアイさんに週末の日曜日に勉強を習いにきてますにゃ。
 少し前まで近所の高齢の女性に勉強を習っていたらしいが、何の事件でどこかに行ってしまい、カンナのお母さんが新しい先生を捜してアイさんに辿り着いたそうですにゃ。
 アイさんは、最初、断ろうと思ったらしいですが、二人の……特にハコの事情を聞いて引き受けることにしたそうにゃ。
 ハコは、中学生の頃、とある宗教団体に拉致されたそうなゃ。そして今、一緒に住んでいる男性に救出されたけど、その時には全ての記憶を失って子どもに戻ってしまったそうですにゃ。
 それでも勉強したいっと言う意欲は強く、アイさんは、教師として、一人の女性として引き受けることにしたそうにゃ。
 ハコもカンナもとても良い子で勉強熱心。
 アイさんが教えることを一から十までちゃんと覚えるのでとても楽しいとアイさんは嬉しそうに言っていましたにゃ。
 ちなみにハコと一緒に住んでると言う強面の男性は近くの公園でキッチンカーを広げて小籠包しょうろんぽうを売っているそうですにゃ。
 アイさんは、問題集を畳んで二人の前に返す。
「それじゃあ少し休憩しましょう」
 アイさんは、そう言ってカウンターに声を掛けると私が言うのも何ですが猫を連想させる顔立ちをした可愛らしい女性が銀色のトレイを持って現れましたにゃ。
「お待たせしましたぁ」
 女性店員は、優しく微笑むと三人の前にフレンチトーストの乗った大きなお皿を置き、私の前には小さな小皿にお洒落に盛られたキャットフードを置く。
 フレンチトーストを見てハコとカンナは目を大きく輝かせますにゃ。
「いただきましょう」
 アイが笑って言うと二人は顔を輝かせて「いただきまーす!」と同時に叫んでフレンチトーストを食べ始めた。
 食欲旺盛、豪快に食べる二人に私は丸い目をさらに丸くして食べるのを忘れてしまいますにゃ。
「ほら、ハコ」
 女性店員が肩を竦めてハコに声をかける。
「フレンチトーストは逃げないからもう少し落ち着いて食べなさい」
 そう言ってハコの汚れた口を紙ナプキンで拭いていきますにゃ、
 カンナは、それを見て自分は大丈夫だよっと言わんばかりに紙ナプキンで口を拭きますにゃ。
「ありがとう。ナオちゃん」
 口を綺麗に拭かれたハコはにっこりと微笑む。
 ナオと呼ばれた女性店員は苦笑を浮かべる。
 その様子をアイさんは楽しそうに見てますにゃ。
「ミステリアスな才女が穏やかになったわね」
 アイが言うとナオは顔を真っ赤に染める。
「か……揶揄わないでください。先生」
 ナオが言うとアイは「ごめんなさい」と言いながら楽しそうに笑う。
 ナオは、かつてアイさんが教壇に立つ地元でも有名な進学校に通い、アイさんの受け持っていたクラスの生徒さんだったらしいにゃ。
 とっても優秀で常に学年で十位以内に入り、部活では一年生の頃からリーダーシップを発揮していたことからミステリアスな才女と周りから呼ばれていたそうにゃ。
 しかし、今ではその面影はなく、優しくどこから奔放な様子が伺えましたにゃ。
「……ハコとは中学の同級生だったんです」
 ナオは、ハコとカンナに聞こえないように小声で言う。
「もう二度と会えないと思っていたのに先生とゆかり、そしてカギ君が連れてきた時にはとても驚きました」
 ナオは、その時の衝撃を今だに忘れられずにいた。
 ゆかりとカギだけでも驚いたのにハコが一緒にいるのを見た瞬間、泣いてしまうところだった。
「私は……二人みたいにハコに寄り添えなかったから、出来る限りのことは協力したいんです」
 そう言ってナオは悲しそうに笑う。
 アイさんは、サングラス越しに目を細め、ナオのお腹に目をやる。
「……今……何ヶ月?」
 アイさんの質問にナオは思わずお腹に手を当てる。
 そのお腹は小さく膨らんでいた。
「もうすぐ五ヶ月です」
「そう。順調そうで何よりだわ」
 アイは、嬉しそうに微笑む。
「貴方達に子どもが出来たと聞いた時は本当に嬉しかったわ」
「はい。体外受精で何とか……」
 ナオは、はにかんでお腹に触れる。
「私達は……二人じゃ子どもが作れないので……それでも子どもがいたら何か変わるんじゃないか……そう思って……」
 ナオの声がどんどん尻すぼみになっていくことに気づいたアイさんは、「大丈夫よ」と優しく微笑む。
「貴方たちは大丈夫」
 アイさん、そっとナオの手を握る。
「幸せになりなさい」
「……はいっ」
 ナオは、目を赤くして頷く。
 アイは、小さく頷いてからハコとカンナがじっとナオを、ナオのお腹を見ていることに気づく。
「ねえ、ナオちゃん」
 ハコが目を丸くして言う。
「お腹に赤ちゃんいるの?」
 カンナが不思議そうに言う。
 アイさんとナオは、ハコの質問に目を合わせ、そして笑う。
「そうよ」
「貴方たち、お姉さんになるわね」
 お姉さん。
 その言葉にハコとカンナは目を合わせて輝くように笑う。
 アイさんは、それを見て楽しそうに笑いますにゃ。
 ナオも嬉しそうに笑う。
「二人とも……触ってみる?」
 ナオの言葉に二人は、目を丸くして驚き、そして輝かせますにゃ、
「うんっ」
「うんっ」
 ハコとカンナは、そっとナオのお腹に触れますにゃ。
 ナオは、二人に触られてくすぐったそうにしますにゃ。
「ここに赤ちゃんがいるの?」
 ハコが不思議そうに言う。
「そうよ」
 ナオは、小さく笑う。
「動かないよ」
 カンナが小さい手でそっと、しかしペタペタと触りますにゃ。
「まだ、五ヶ月だからね」
 ナオは、優しくカンナの頭を撫でる。
「もう少ししたら蹴ったりしてくるよ」
 ナオが言うと二人は驚く。
「出てきたらいっぱい遊んであげてね」
 ナオの言葉にハコとカンナは大きく頷く。
「おーいっ早く出てこーい!」
「いっぱい遊ぼうねー!」
 アイさんは、楽しそうにその光景をみてますにゃ。
 その時、ナオがずっと疑問に思っていたことを口にしますにゃ。
「ところで先生」
「なあに才女さん?」
 アイさんは、揶揄うような言うと、ナオはむすっと頬を膨らますにゃ。
「なんで……サングラスを付けたままなんですか?」
 それは私もずっと思っていた疑問ですにゃ。
 礼儀にうるさいアイさんが外でならともかく室内でサングラスをかけるなんてほとんどありませんにゃ。
 それなのに……。
 ナオの質問にアイさんは、悪戯っ子のように笑う。
 こんな顔も珍しいにゃ。
 アイさんは、細い人差し指を入り口近くに向ける。
「あの子達に気づかれないように……ね」
 そう言って楽しそうに笑う。
 入り口近くにある二人席、そこに座っていたのは二人の女子高生であった。
 二人が着ているのはかつてナオが卒業し、アイさんが教鞭を取っている地元でも有名な進学校の制服でしたにゃ。
 しかし、その制服を着て向かい合う二人はあまりにも対照的でしたにゃ。
 一人は、例えて言うならクール系大和撫子。
 知性を醸し出した綺麗な顔立ち、ブレザーに着られているのではないかと思わせる華奢な身体つき、薄い唇はきつく結ばれ、二重の目は冷めたように細まっている。
 もう一人は私も知っている子。
 長い黒髪を丁寧に編み込み、卵形の綺麗な輪郭に白い肌、向かいに座る少女のように一見、華奢に見えるが女性としての膨らみがしっかりと出ている。そして彼女を最も特徴的に表すのは刃物で切られたような切長の右目と大きな白い眼帯に覆われた左目ですにゃ。
 彼女の名前は知らないがあいつからは確か"先輩"と呼ばれてましたにゃ。
 先輩は、何故かオドオドと怯えた様子で目の前のクール系大和撫子の少女を見て、少女は冷めた目で真っ直ぐと先輩を見ていた。
「あの二人は?」
 ナオが二人に気づかれないようそっと耳打ちする」
「うちの学校の生徒よ」
 アイさんは、フレンチトーストを一口食べて答える。
「一人は生徒会の副会長で一人はこの店の常連さんの家族よ。まあ、簡単に言えば貴方の後輩ね」
「そりゃ見れば分かりますけど……」
 ナオは、ちらりっと二人を見る。
「何であんな一触即発状態なんですか?」
「さあっ」
 アイさんは、肩を竦める。
 ナオは、むすっと頬を膨らます。
 しかし、それに関しては本当にアイさんは分かっていませんでしたにゃ。
 クールで知的な生徒会副会長とかつて"話さない女サイレント・ガール"と呼ばれた少女。
 同じクラスという以外共通点のなさそうな二人が何故、この店で二人で会って、しかも今にも爆発しそうな状態になっているのか……。
 分からない。分からないけど……。
「とりあえず見守りましょう」
 そう言ってにっこり笑い、フレンチトーストを食べましたにゃ。

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