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Nothing will ever change, unless we do something

軍務離脱者/脱走兵追跡・逮捕を負う陸軍憲兵隊の「D.P.(Deserter Pursuit)」を描いたキム・ボトンのウェブトゥーン「D.P 개의 날/디피 개의 날」ドラマ化作品。
チョン・ヘイン、ク・ギョファン、キム・ソンギュン、ソン・ソック主演、
キム・ジヒョン、チ・ジニ、チョン・ソギョン共演
『コインロッカーの女 차이나타운』や『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班 뺑반』のハン・ジュニ監督ドラマのシーズン2。
シーズン1から約2年の歳月が流れ...シーズン2「디피 2 D.P.2」。

(以下、ドラマの核心に触れる部分もございます)

2007年、ユン・ジョンビン 윤종빈監督映画『許されざる者 용서받지 못한 자 The Unforgiven』を観た時も書いていたが、軍というシステム不全、あるいは人間が作ったあらゆるシステム、即ち、軍隊だけでなく国家、社会等あらゆるシステムの脆弱性と、それがもたらす不条理は「D.P.2」でも続いている。

「D.P.1」ではジュンホ(チョン・ヘイン)とホヨル(ク・ギョファン)が
軍務離脱者を追跡するストーリーから浮かび上がる不条理は地上最後の分断国家で、不安定な、あくまで臨時の軍事停戦(休戦)体制という大きなフレームに搦めとられ固定されている現実を観取もさせられた。一方で、弟を亡くした姉ヘヨンはジュンホが「傍観者」だったに違いないと考え、なぜ傍観していたのかと問い、傍観者にならないことを強く意識させられたシーズンだった。

「D.P.2」では、その、終わらない不条理とシステム不全の問題の根源として
軍上層部から政府・国家まで俯瞰して深く切り込んでいく。個々人で傍観者にならず、イジメや差別、人権侵害を止めることはどんな組織や集団でも必要なこと。しかし、軍隊などの閉鎖的な組織でイジメを完全に防ぎ人間を守ることは可能なのだろうか。組織が硬直的で隠蔽体質だったり、現行の体制や既得権益層を守るためだけに保守的だったり、あるいは軍事停戦中には安保を優先すべき、と犠牲やむなし、とされても可能なのだろうか。
あるいは、DPRK(北朝鮮)と非常に近い最前線、DMZの「GP/Guard Post(監視哨所)」という空間的に隔絶され閉鎖的な場所でも等しく可能なのだろうか。

「D.P.1」のファースト・インプレッションによる拙レビューで軍というシステム不全は、国家システムの瑕疵とも絡み合いさらに大きなフレームである新冷戦や安保体制、歴史的経緯や戦後処理などの不条理や歪み、ひずみも重なって複雑になっている構造、身動きできない状況と書いていた。朝鮮戦争休戦協定から70年も無為に過ぎてしまったが終戦宣言出来ない限り、平和協定に進めない限り上記すべての不条理や歪み、ひずみは入れ子にもなって固定化され複雑に絡み合った構造のままで軍隊内の問題だけを取り出して解決することはなかなか難しいだろう。兵役は続いてしまうのだから。戦争をしていない日本の自衛隊内の人権侵害問題とは全く違うのだ、不安定な臨時の停戦状態は依然として社会にのしかかる大きな重荷、圧力として存在しているのが朝鮮半島だから。そんな雁字搦めの、変えられない現実に強烈な無力感と絶望も感じる。

しかし、「D.P.1」で弟を亡くした姉ヘヨンが人権センターの幹事として
軍で発生した問題を舌鋒鋭く追及する。政府や軍のシステムに問題があり、
国家も間違いをおかすのだから、間違いは認めなければならない、と「D.P.2」では国の責任を追及する。
「以卵撃石、以卵投石(卵で岩を撃つ)」は韓国の民主化運動の時代などによく聞かれた言葉だったではないだろうか。巨大な敵に向かう身の程知らず、が本来の意味のようだが「主権在民」の通り、国家に間違いの責任を取らせるのは当然。そのために全力を尽くす姿がD.P.=脱走兵追跡というフレームを超え、ひとりの国民、市民として真にやるべきことに奔走する姿として描かれている。
そんな国民、市民は軍の内部にも。軍の隠蔽体質や問題山積の現状に強く抗し変えたいと切に願う軍内部、軍人も結集しているよう。韓国民主化運動、ろうそくデモなど何度も市民の力が韓国で共同のカタルシスとして描かれてきたように連帯した人々の責任感と真摯な思いは一気に奔流となってエンディングに進む。

最後は、朝鮮半島の古典、パンソリ唱劇「春香傳」のように証人や証拠が、暗行御使が法廷に登場するのをジリジリと待ちながら。


Netflix D.P.2

今回キャッチコピーに、何かしなければ、行動しなければ変えられない(拙訳意訳)、とあるが、「D.P.1」で心に刻んだ「傍観者にならないこと」から一歩進んで「D.P.2」では、より積極的に何かをしなければ、と念押しされた気がする。「国民主権」も思い出し、非力ながら岩に卵を投げて民主主義や多くのことを勝ち得てきたことも想起しつつ。主演のチョン・ヘインが「뭐라도 해야지」とSNSに投稿したことと重なる。何もしなければ変わらない。
朝鮮戦争という重い軛が圧し掛かるシステム不全を最小化極小化出来る可能性はまだあるのかもしれない。たとえば、好戦的な為政者を選ばず、フェイクニュースに誘導されず、「新冷戦」に巻き込まれず、平和共存するための終戦への道が...
絶望と希望が交互にやってくる気もした。
休戦、臨時の停戦体制で、未来を明確に描けない韓国の若者の葛藤が続く苦しい現在地という絶望。そして、未来を変えるためにはやはり現在を変えなくてはという微かな、非常に頼りない希望とが。

チャン・ソンミン(ペ・ナラ)という脱走兵はゲイであることが理由で酷い苛めに遭い軍を離脱。ドラァグクイーン姿で歌ったり、ミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ Hedwig and the Angry Inch』の一曲、
「Wig In A Box」を自身のテーマのように歌っている。
その姿から、ゲイという設定を超え、トランスジェンダーもオーバーラップし喚起させるような印象も受けた。亡くなった韓国の性的マイノリティ兵士も想起。
差別は人を殺す。
「D.P.1」に出演したチョ・ヒョンチョルが同ドラマの演技により2022年백상예술대상第58回百想芸術大賞テレビ部門で助演男優賞を受賞した際
トランスジェンダーを公表した後自死したビョン・ヒス下士 변희수 하사の
名前をスピーチで呼んでいた
ことも想起した。

6.25 朝鮮戦争が始まった日に「종이의집 공동경제구역 Money Heist Korea Joint Economic Area ペーパー・ハウス・コリア:統一通貨を奪え」

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