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社会が大きく変化する時代のブランドストーリーテリング|IDEATIONS TALK SESSIONSレポート

こんにちは! D2C ID広報です。
先日閉幕したイベント『IDEATIONS Vol.1』では「社会が大きく変化する時代のブランドストーリーテリング」をテーマとしたトークセッションを開催しました。ブランドとユーザーが、社会のなかでナラティブな共感や価値の共創を育んでいくうえで、ブランドストーリーテリングが果たす役割とは? D2C IDのキーマンとなる2名がスピーカーとなりお話させていただきました。本記事ではその一部を抜粋しご紹介いたします。

<スピーカー>
圓島努
IMG SRC STUDIO ブランディングユニット アートディレクター
菅原太郎
統合マーケティング本部 コミュニケーションプロデュース部 プランナー/プロデューサー

ブランドストーリーとは

今回のテーマである「ブランドストーリー」を語るうえで、ギリシア時代から19〜20世紀初頭の第二次産業革命までの歴史的時間のなかで「品質や正当性を示す」ことからはじまる「ブランド」という概念が形成されてきた由来や、4万年前の壁画遺跡や20世紀の映画産業における物語の大量生産、神経科学における人間にとっての「ストーリー」の機能を紐解くところから、セッションはスタートしました。

圓島:「ブランド」というものを俯瞰的に観察していくと、ブランドを普及・認知させていく活動の積み重ねと共にコミュニケーションが発生し、そのコミュニケーションの蓄積から「ブランドストーリー」が生まれていくのではないか、ということが見えてきます。それらを語り紡いでいくことを「ブランドストーリーテリング」と呼べるのではないかと。

情報の束としてのブランドストーリー

圓島:米国の経営学者でマーケティング理論家のデービット・アーカー氏の言葉に、“ブランドとストーリーが結びつき「シグネチャーストーリー(心が動くストーリー)」という情報の束として社会のなかで機能する” というものがありますよね。日本の経営者ですと、星野リゾートの星野 佳路さんが、インタビューなどで度々引用されています。

菅原:この言葉からわかるとおり「社会のなかで機能する」という視点が大切だと思います。ブランドが語るストーリーは人の心が動いて初めて伝わります。人の心が動かなければ伝わりません。ブランドがストーリーを語る上で“何を語るか”も大切ですが“どう語るか”が重要だと思っています。

圓島:ブランドストーリーテリングって絶え間ない関係構築の活動になりますが、これと決めたブランドの在り様を同じようにずっと語っていけばよいという話でもないですよね。情報の束も、束ね方によって見せ方が違ってくると感じています。また、ブランディングという言葉も浸透していますが、社会のなかで機能することを目的に再定義する際には、社会状況の変数をどれだけ見定められるかも重要になってくると思います。

認知空間におけるブランドストーリー

圓島:今って、オフライン・オンライン環境のユーザーの意識のなかで「ブランドストーリー」が、どのように形成されるかが重要な時代なんだと思います。ブランドでも、例えばある施策によって、瞬間的にSNSのシェア率が上がったり、売上が市場シェアNo.1を獲得したとしても、必ずしもブランドの社会的な価値が上がったり、人々の意識「認知空間」のなかで「ブランドストーリー」が底上げされたり、ブランドにとって持続可能性の高い資産にならない時代というか......

圓島:そういった社会のなかで、ブランドが置かれている状況としては、ブランドストーリーを持った「認知されるブランド」、イメージの典型にとどまり選ばれることがない「なんとも言えないブランド」、絵に描いた餅のようなフェイク・パーパスやフェイク・ストーリーを語る「残念なブランド」の3つのステータスがあると感じています。そして、「認知されるブランド」は、必ず、伝説的なエピソードを持ったブランド、プレミアムを醸成し続けるブランド、革新的で活力のあるブランドであるとも言えるのかなと。

菅原:ブランドストーリーを持った「認知されるブランド」と言えば、Apple、Nike、Starbucksなどが思い浮かびますが、Nike“Just Do It.”30周年キャンペーンは非常に印象に残っています。
当時Nikeは“Just Do It.”30周年を記念するキャンペーンに元NFL選手コリン・キャパニックを起用します。コリン・キャパニックは、人種差別や暴力に抗議したことで不当な扱いを受けた選手です。
“Just Do It.”30周年キャンペーンは賛否両論、トランプ前大統領がTwitterでNikeを名指しで批判したり、 Nike製品のボイコットを呼びかけるハッシュタグ(#Justburnit、#boycottNike)がTwitterで話題になるなど、アメリカ全土を巻き込んだ議論に発展し、株価は下落します。しかし、しばらくするとオンラインセールスは30%以上増加し、売上高が前年同期比10%増加するとともに、Nike史上最高値の株価を記録する驚異的な結果をもたらしました。Nike自らが“Just Do It.”というコーポレート・スローガンを“体現”する取り組みでもあります。

圓島:Nikeのその事例は、なかなか勇気のある決断というか、強い態度表明だとは思いますが、ユーザーはブランドのそういった社会との関わり方を注視していて、自分たちにとってのブランド評価をシビアに行いますよね。そういったユーザーの視線に晒されながら得た共感を通して、伝説的なエピソードを持ったブランド、プレミアムを醸成し続けるブランド、革新的で活力のあるブランドが生まれてくるのかな、と思いました。テクノロジーの進んだ現代だと、フェイクSDGsのようなものも、Orbital InsightやPalantirのようなタイプのテクノロジー企業の存在で、「フェイク」 が データとして明らかになってしまいますしね。

菅原:ブランドストーリーテリングですが、主語を「ブランド」から「人」に置き換えて考えることもできると思うんです。人と人はお互いに言葉を交わしたり、やり取りを重ねたりして、信頼関係を築きますよね。しかし言動や行動がブレたり、嘘をつく人をどう思うでしょうか。なかなか信用されないと思うんです。近年、パーパス(存在意義)が注目されている理由はここにあります。なぜなら、パーパス(存在意義)が軸となり、活動をブレずに続けることで、ブランドの価値が醸成されていくからです。

歴史的・社会的・文化的な緊張感から生まれるブランドストーリー

圓島:今の時代って、ポジティブに見える虚構が起点であるよりは、悲惨で辛いものだったとしても「現実」を起点にした “ファクチュアルエンターテイメント”的な視点が重要になってくるんだと思います。ドキュメンタリー映画の父 ロバート・フラハティ氏のドキュメンタリーのような世界への眼差しだったり、歴史的・社会的・文化的な緊張感に置かれている社会課題が、社会とブランドを橋渡しするブランドストーリーの起点であることが段々増えてきていたり....

菅原:社会課題に対する向き合い方が変わりつつあります。社会課題はステークホルダーを巻き込まないと解決できません。ブランドストーリーは「ブランド」が主語になりがちですが、「人」や「社会」が主語になるべきなんだろうと思っています。ブランドが語るファクトを人や社会が語りたくなるエンターテイメントに昇華している事例を紹介します。
大英博物館の文化財略奪の歴史を暴き、文化財を返還する議論を再燃させるゲリラツアー/AR(拡張現実)エフェクト「VICE - The Unfiltered History Tour」、ワイナリーが洪水被害を受けるなか、泥まみれで発見されたワインを生かすクラウドファンディング「#Flutwein – Our Worst Vintage」など、人や社会を巻き込むブランドストーリーは学ぶべきところが多いと思います。


【プロジェクト事例】みんなでシェアして、みんなを救おう。#迷惑メール展(NTTドコモ)

菅原:「みんなでシェアして、みんなを救おう。#迷惑メール展」は、迷惑メールの傾向と対策を知り、被害を未然に防ぐ取り組みですが、社会と企業の接点からアイデアを発想しています。“なにを”課題とするか、“なぜ”解決するのか、“どう”課題を解決するか、という道筋で考えました。
迷惑メール業者がお客さまを騙す手口がますます悪質かつ巧妙になっているなか、特設サイトでは迷惑メールを受信したような体験ができるようにしたり、公式Twitterでは迷惑メールの実例をシェアするよう呼びかけるなど、迷惑メールを「自分ごと」と捉えてもらえるよう心がけました。迷惑メールをシェアする体験が意識や行動の変化につながるのではないかと思います。

▶みんなでシェアして、みんなを救おう。#迷惑メール展 | Webサイト


【プロジェクト事例】Save the BEYOND(CITIZEN PROMASTER)

圓島:この事例は、CITIZENのスポーツウォッチブランドPROMASTERを取り巻く市場・環境もすべてブランド生態系として捉え、過酷な気候変動とその影響を大きくうけた壊れゆく世界の修復に果敢に挑戦する世界中の冒険者や科学者、活動家たちを“ファクチュアルエンターテイメント”としてインタビューした、グローバルキャンペーンプロジェクトです。
自身の国が気候変動によって海に沈む最初の国の1つになると語る環境活動家や、生命体が減少し続ける海洋保全に残された時間はあとわずかと語る海洋専門家など、気候変動の最前線で活動する彼らのインタビューから垣間見える世界は、非常に衝撃的なものでした。そういった切実な活動とともにあることで、社会性やリアリティのなかからブランドストーリーが生まれてくるのだと思います。

▶Save the BEYOND 2022 | SYMBOL OF THE SEAS


弱い紐帯の強さから生まれるブランドストーリー

圓島:先ほど、ポジティブに見える虚構が起点であるよりは、悲惨で辛いものだったとしても「現実」を起点にした “ファクチュアルエンターテイメント”の視点の重要性のお話をしましたが、ブランドとユーザーという固定的な関係性からだけでは、ブランドストーリーが生まれてこない、機能しなくなってきているのではないかとも思います。
米国の社会学者マーク・S・グラノヴェター氏の言う「弱い紐帯の強さ」のような、“人や社会の弱さの気づきから生まれるもの” “個人が複数の社会と繋がる時代性”のリアリティに向き合うことが、ブランドストーリーの起点になっていっている気がします。

SYNERGYCA(シナジカ) 共創ラウンジ(住友化学)

圓島:この事例は、住友化学の「SYNERGYCA(シナジカ) 共創ラウンジ」の設計にあたり、施設全体のキービジュアルやサウンドプランニング、住友化学の「歴史」「テクノロジー」の2つのデジタルコンテンツなどの幅広い領域のクリエイティブを、クライアントや、協業する会社さんと共創したプロジェクトです。
施設に訪れた産官学のお客さまに住友化学グループのテクノロジーを、見て、触れて、体験していただくことで、新たな価値の創造につながるアイデアや気づきを生み出すことが目標でした。

圓島:私をはじめ、関わったプロジェクトメンバーの共通する想いとして、紋切り型のイノベーション観や本質的ではないアトラクション的なデジタル体験を標榜するようなモニュメント的な施設ではなく、住友化学を取り巻く個人・企業のコラボレーターとの対話からイノベーションの生態系を設計・生成していくことに留意し、プロジェクトに関わりました。
施設として、2022年度グッドデザイン賞の「産業向け意識改善・マネジメント・取り組み」の分野で受賞をしましたが、この事例のように、ステークホルダーが有機的につながり新しい価値を生み出していく生態系や環境をデザインすることがブランドストーリーを生み出す起点となるような状況が、今後もっと増えていくのではないかと思います。

▶SYNERGYCA(シナジカ) 共創ラウンジ

さて、ここまで「社会が大きく変化する時代のブランドストーリーテリング」をテーマとして、ブランドとユーザーが、社会のなかでナラティブな共感や価値の共創を育んでいくうえで、ブランドストーリーテリングが果たす役割などをご紹介させていただきました。もしもっと詳しく「ブランドストーリーテリング」について聞いてみたいと思った方がいらっしゃいましたら、どうぞお気軽にこちらよりお問い合わせいただければと思います。

『IDEATIONS Vol.1』についての記事はこちらからご覧ください。


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