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ウェールズ代表の躍進とゲームモデル

ラグビーでは有名なウェールズ代表ですが、近年サッカーにも力を注いでいて現在FIFAランキングでは17位と日本(28位)よりも高い順位にいます。そしてウェールズ代表はEURO2016大会ではベスト4に入る躍進を遂げました。ワールドカップでは1958年にベスト8になって以来、出場することができていませんが、今後飛躍を遂げる国の1つなのではないかなと思います。

そんな急成長を見せているウェールズ代表ですがほとんどの方がご存知でないと思うので、今回はウェールズ代表を紹介するとともにウェールズサッカー急成長のカギを握る『ゲームモデル』についてお話していこうと思います。

ウェールズ代表

まずウェールズ代表の印象と聞かれてもあまりイメージできない方も多いと思います。有名な確かに他のヨーロッパの国々と比べるとタレントは少ないかなという印象です。

有名な選手ではギャレス・ベイルが思い浮かぶ方が多いと思います。

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圧倒的なスピードと強烈な左足を武器にレアルマドリードでは多くのタイトル獲得に貢献しました。ベイル以外にも今回のEURO2020に向けたメンバーではアーロン・ラムジー (ユベントス) やダニエル・ジェームズ (マンチェスターユナイテッド) 、タイラー・ロバーツ (リーズユナイテッド) など5大リーグと呼ばれるヨーロッパのトップリーグで活躍している選手がいます。

《EURO 2020 ウェールズ代表》

・GK
1 ウェイン・ヘネシー (Wayne HENNESSEY) 1987.1.24、183/73
(クリスタル・パレス/イングランド) 
12 ダニー・ウォード (Danny WARD) 1990.12.9、180/88
(レスター・シティ/イングランド)
21 アダム・デイヴィス (Adam DAVIES) 1992.7.17、185/75
(ストーク・シティ/イングランド2部) 

・DF
24 ベン・カバンゴ (Benjamin Cabango) 2000.5.30、188/81
(スウォンジー・シティ/イングランド2部)
14 コナー・ロバーツ (Connor ROBERTS) 1995.9.23、175/71
(スウォンジー・シティ/イングランド2部)
5 トム・ロックヤー (Tom LOCKYER) 1994.12.3、183/70
(ルートン・タウン/イングランド2部) 
2 クリス・グンター (Chris GUNTER) 1989.7.21、180/71
(チャールトン・アスレティック/イングランド3部) 
22 クリス・メファム (Chris MEPHAM) 1997.11.5、191/75
(ボーンマス/イングランド2部) 
17 リース・ノリントン・デイヴィス (Rhys NORRINGTON-DAVIES) 1999.4.22、181/76
(シェフィールド・ユナイテッド/イングランド) 
6 ジョー・ロドン (Joe RODON) 1997.10.22、193/82
(トッテナム・ホットスパー/イングランド) 
4 ベン・デイヴィス (Ben DAVIES) 1993.4.24、170/76
(トッテナム・ホットスパー/イングランド) 
3 ネコ・ウィリアムズ (Neco WILLIAMS) 2001.4.13、183/72
(リバプール/イングランド) 

・MF
25 ルビン・コルウィル (Rubin COLWILL) 2002.4.27、166/57
(カーディフ・シティ/イングランド2部)
18 ジョナサン・ウィリアムズ (Jonathan WILLIAMS) 1993.10.9、165/68
(カーディフ・シティ/イングランド2部)
19 デビッド・ブルックス (David BROOKS) 1997.7.8、 166/62
(ボーンマス/イングランド2部) 
16 ジョー・モレル (Joe MORRELL) 1997.1.3、 186/77
(ルートン・タウン/イングランド2部)
23 ディラン・レヴィット (Dylan LEVITT) 2000.11.17、 178/74
(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド) 
8 ハリー・ウィルソン (Harry WILSON) 1997.3.22、 173/70
(リバプール/イングランド) 
15 イーサン・アンパドゥ (Ethan AMPADU) 2000.9.14、175/69
(チェルシー/イングランド)
26 マシュー・スミス (Matthew SMITH) 1999.11.22、175/68
(マンチェスター・シティ/イングランド) 
7 ジョー・アレン (Joe ALLEN) 1990.3.14、170/62
(ストーク・シティ/イングランド2部)
10 アーロン・ラムジー (Aaron RAMSEY) 1990.12.26、 178/76
(ユベントス/イタリア)

・FW
11 ギャレス・ベイル (Gareth BALE) 1989.7.16、183/74
(トッテナム・ホットスパー/イングランド) 
20 ダニエル・ジェームズ (Daniel JAMES) 1997.11.10、170/76
(マンチェスター・ユナイテッド/イングランド)
9 タイラー・ロバーツ (Tyler ROBERTS) 1999.1.12、180/75
(リーズ・ユナイテッド/イングランド) 
13 キーファー・ムーア (Kieffer MOORE) 1992.8.8、196/83
(カーディフ・シティ/イングランド2部)

メンバーを見てみると若い選手が多いことがわかります。育成に力を入れ始めた効果が出ているなという印象です。また、代表の監督は元マンチェスターユナイテッドのライアン・ギグスが務めていましたが、現在は不倫騒動によってチームから離れていてロバート・ページ暫定監督が指揮を執っています。

《ウェールズ代表の特徴》
ウェールズ代表の特徴は個で際立った選手がいないぶん、全員がハードワークします。守備ではコンパクトな陣形を作り組織的に守り、攻撃では速攻とポゼッションを使い分けて攻めます。やはりベイルは「違い」を作ることができる選手でベイルが攻撃の起点になることが多いです。個人的に注文の選手は7番のボランチでプレーするジョー・アレンです。ボールを保持する時には中心となりボールを配給します。確かな技術があり中盤で落ち着かせることができる選手です。

ウェールズ代表はユーロ予選ではグループEを2位で通過しました(1位はクロアチア)。ヨーロッパ全体で見た時にウェールズ代表は中堅なのかなと思います。EURO2020でウェールズ代表はイタリア、スイス、トルコと同組のグループEに入りました。

ウェールズ代表 EURO2020日程
6/12 22:00 vsスイス [バクー]
6/16 25:00 vsトルコ [バクー]
6/20 25:00 vsイタリア [ローマ]

わりと各チームの力が均衡しているグループに入ったのかなと思います。どの国も実力があり厳しい戦いになると思いますが、今大会も前回同様にダークホースとして暴れてほしいなと思います。

コロナで延期となっていた『EURO2020』がもうすぐ開幕するので、ぜひ皆さんウェールズ代表に注目してみて下さい。


ウェールズサッカーのゲームモデル

ここ数年で急激に力をつけてきたウェールズ代表ですが、そんなウェールズ代表が急成長している1つの理由として『ゲームモデル』というものがあります。このゲームモデルはチームが試合をする上で、どのようなサッカーを展開するのか、どういった戦術で戦うのか、どういった部分に力を注いでいくのかというプレーの原則を集めたものです。つまり試合で選手達がプレーする際のガイドラインのようなもので、このガイドラインをもとにチームを構成したり、練習をしたりします。

現在、ウェールズサッカー協会は育成年代からゲームモデルを採用していて、育成年代から一貫したウェールズサッカーを構築しています。ですので、ウェールズサッカー協会でコーチングライセンスを取る際にはこのゲームモデルを教わり、それをもとにライセンス講習を進めていきます。選手だけでなくコーチの育成もこのゲームモデルに沿って行われている訳です。


《ゲームモデルとプレー原則》
実際にどのような内容なのか見てみると大まかに4局面に分けてゲームモデルを構成しています。そして、その4局面の中にプレー原則がいくつか含まれています。

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・In Posession(ボール保持)
Confidence to take the ball(ボール保持に自信を持つ)
Clear decision making to play through, around, over(ハッキリとした判断をする)
Move the ball quickly - find the spare player(速くボールを動かす、周りの選手を見つける)
Create and exploit scoring opportunities(チャンスを作る)

・Attacking Transition(守→攻の切り替え)
Anticipate the transition(切り替えを予測する)
Secure the last pass(確実に奪ったボールを繋げる)
Support quickly(素早くサポートする)
Move into the attacking shape(攻撃陣形に動く)

・Out of Possession(ボール非保持)
Show away from goal(ゴールに近づかせない)
Block centeral passes(中央を固める)
Stop switches of play(サイドチェンジをさせない)
Protect the space between lines(ライン間のスペースを守る)
Control the space behind the last line(最終ラインの背後のスペースを管理する)

・Defensive Transition(攻→守の切り替え)
Anticipate the transition(切り替えを予測する)
Fast pressure on the ball(ボールホルダーに素早くプレスする)
Stop forward passes(前方へのパスを防ぐ)
Force away from goal(ゴールから遠ざける)
Recover quickly into defensive shape(素早く守備陣形に戻る)

どれも当たり前のことですがきちんと言語化しゲームモデルとして設定することで選手やコーチはより意識したトレーニングを行うことができます

そしてこのゲームモデルで興味深いことがあります。1つひとつの原則を見た時に「コンパクトな守備からのカウンターを狙う、ボールを保持しながら相手を攻略する」ということが想像できると思います。このように選手達がイメージし共有しやすいシンプルなプレー原則になっています。

そして、このゲームモデルは更に噛み砕いて細分化していきます。ゲームモデル→4局面(ボール保持、ボール非保持、攻→守の切り替え、守→攻の切り替え)→プレー原則→サブプレー原則→必要な技術というように細分化することで、ゲームモデルを実行するために何が必要でどのような練習をする必要があるのかを理解することができます。


《プレー原則とサブプレー原則》
『攻撃面』でのプレー原則のためのスキルを見てみると特に4つのプレー原則を細分化しています。

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・Switching Play (サイドチェンジ)
Make the pitch big(ピッチを広く使う)
Maintain width(幅の広さを保つ)
Decision making when to switch(サイドチェンジする時の判断)
Who can switch?(誰がサイドチェンジできるか?)
Exploit the space(スペースを作る)
Ball speed(パススピード)

・Create & Exploit Overload(密集、オーバーロードを作る)
When & how to exploit a numerical advantage(いつ、どうやって数的優位を作るか)
Find the spare player(周りの選手を見つける)
Player movement to create the overoad(密集を作る選手の動き)
Interchange positions(ポジションチェンジ)
Commit the opponent(相手を動かす)
Ball speed(パススピード)

・Breaking Lines(ライン越え)
Play through(ラインを超えたパスをする、受ける)
Play around(パスを回す)
Play over(ラインの背後へのパス、ロングパス)

・Final Third(アタッキングサード)
Width & depth(幅と深さ)
Risk taking(危険を冒す)
Final pass(ラストパス)
Finishing(シュート)


『守備面』でも同じように4つのプレー原則を細分化しています。

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・Defend The Overload(密集を守る)
Recognise opposition movement(敵の動きを認識する)
Press quickly(素早くプレスをかける)
Protect the middle(中央を固める)
Leave the furthest players(1番遠い選手のマークを外す)

・Prevent And Defend The Switch(サイドチェンジを防ぐ、守る)
Force wide(ワイドにさせない、幅を拡げさせない)
Keep play predictable(予測し続ける)
Pressure on the ball(ボールホルダーに寄せる)
Leave the furthest players(1番遠い選手のマークを外す)

・Defend Against Breaking Lines(ライン越えを防ぐ)
Fast pressure on the ball(素早くボールホルダーにプレスする)
Protect the middle(中央を固める)
Stay narrow & compact(狭くコンパクトな守備を維持する)
Stop split passes(選手間を通すパスを防ぐ)
Protect the space behind(背後のスペースを守る)

・Defend The Final Third(アタッキングサードを守る)
Protect the middle(中央を固める)
Force wide(ワイドにさせない、幅を拡げさせない)
Minimise box entries(PA内に入れさせない)
Stop crosses(クロスを防ぐ)
Defend the box(PAを守る)

『GK』も同様にプレー原則があります。

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《必要な技術》
プレー原則やサブプレー原則が明確になったので次は必要な技術、テクニックです。

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先程紹介した攻撃面のゲームモデルをもとに必要な技術を考えると以下の基礎技術をウェールズサッカーでは重要視しています。

必要な技術、テクニック
・1st Touch(ファーストタッチ)
・Passing(パス)
・Dribbling(ドリブル)
・Turning(ターン)
・Running with the ball(ボールを運ぶ)
・Shooting(シュート)

監督やコーチはこれらの技術が含まれた練習メニューを作成し日々取り組んでいきます。

例えば、テクニック練習(敵がいない練習)では特定の技術(例: シュートの技術)を向上させる練習を行います。その後、練習した技術をベースにスキル練習(敵がいる練習)を行います。そして、練習の最後のゲームでテクニック練習とスキル練習で選手達が得たことを引き出します。

例:練習の流れ
シュート練習(テクニック練習)

1vs1からのシュート(スキル練習)

3vs2からのシュート(スキル練習)

ミニゲーム

ゲームモデルが明確に言語化されていることでコーチ陣も練習メニューが作成しやすくなりますし、何が出来ていて何が足りないのか、何が強みで何が弱点なのかを理解することができます。

また対戦相手によってどのゲームモデルを重点的に意識するのか変化させながら試合を行うことができます。ですので、実際にウェールズ代表は3バックと4バックを使い分けながらEURO2020予選を戦いましたし、相手との力関係を考慮してポゼッションするのかカウンターを狙うのかを変えていました。今大会ではウェールズ代表よりも力のあるチームが多いので「コンパクトな守備からカウンター」というような戦い方が増えるのではないのかなと予想しています。

このゲームモデルと比較しながらウェールズ代表のEURO2020での戦いぶりを見てみると、より楽しく観戦することができると思うので、ぜひ皆さんも試してみて下さい。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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