『強国論』を読んで

昔大学生のころに読んでいた本のブックレビューを、備忘的にこちらにも掲載。ナショナリズムとか国際関係とか、そういうことに興味ある学生にはお勧めをしたい。

(以下、学生時代の感想。大体20歳くらいに読んだ。文体が若い。いや大して変わらんか…)

著者のランケは19世紀のドイツの歴史家。

内容は17世紀前後にかけてのフランスの隆盛とそれ以降の衰退、それを引き起こした周辺諸国の動向を描き、強国について論じている。高校で世界史を習っていれば結構すんなり頭の中に入る内容だったな。ただ、所々忘れている知識もあったりしてメンテナンスが必要とも感じた。

本題に入ると、ルイ14世の時代フランスの覇権というのはヨーロッパの広い地域に及んでいた。その要因としてランケは
・強大な軍事力
・内政の堅固さ
をまず挙げている。
これらを武器として巧みな外交を展開し、遂にフランスはヨーロッパに冠たる王国となったわけである。また、本書ではルイ14世は自らの領土的野心をもってその領土を増大させたのではなく、領土を増やすことにより国内から浴びる羨望、栄光のために外交を展開した趣旨のことを述べている。
さらにはフランスは文化的な優位性というものも保持をしていた。これは国力の増大というものと無関係ではないだろう。文化なんていうのは基本経済が豊かであることを前提として発展するものだ。この文化的な優位性というのは国民精神の力となる。
これらのことによってパリはヨーロッパの首府となりえたのである。

思うに、ルイ14世はヨーロッパ世界に冠たる「フランス」を作り上げることで国内から羨望を集め、そのイメージによって国内をまとめていたのではないか。そのイメージがさらに強大な軍事力、内政の堅固さ、文化的優位を生みそれがさらに強国へとなっていき、それがさらに…という正のスパイラルが生み出されていたのだろう。豊かな国はさらに豊かな国となっていくのである。


しかしフランスの覇権というのは長くは続かない。イギリス、オーストリア、ロシア、プロシアなど周りの国家が力を付けていったためであり、フランスの影響力は徐々に及ばなくなっていった。

ここでランケはプロシアが発展していった要因として、フリードリヒ大王のもとで、文化の発展による国民の精神的な団結でもってフランスに対抗できるようになり国力増強につながったと述べている。しかし、一般的に言われているようにナショナリズムの勃興なんていうのはフランス革命後と言われているし、当時のドイツ文学或いはドイツ音楽がどれほどドイツ国民を奮い立たせたか、さらにはここでいうドイツ国民は一体どの範囲の人のこと指しているのか不明瞭である気がする。そんな一般民衆が「自分はドイツ国民だ」なんて言う意識を持っていたとは思えないのであるが、どうなんだろうか。
まあ確かに文化的な優位が生み出す精神的な力、さらに言えば国民の自覚、ナショナリズムなどというのは強国へなるための大きな要因となってきたことは近代から現代の歴史の中で証明されているとは思う。


そしていよいよフランス革命がおこる。ここでランケは「国内的混乱がフランスのこのような対外的権威失墜の因を為したことは否定できないけれども、一方逆にこのような対外的権威失墜そのものが著しく国内的混乱を増大せしめたのである」(p64、旧字体、旧仮名遣いは適宜新字体、新仮名遣いに直した)と述べている。
やはり政治において国内をまとめるのは政府に対する信用や、自らの誇りが大きいんだなぁと感じた。自尊心を満たしてくれる政策をする政府は信任しちゃうし。そして対外政策の失敗が内政に影響してくる。逆にいえばやはりルイ14世が国内の国民(この時代だと貴族かな)の不満をそらすために、国内をまとめるために外国で影響力を増していったというのは理にかなっているし、これって今のアメリカにももしかしたら当てはまるのではないかな。


まとめると、強国になるための重要な要素としては国民精神というのがあるよということで。そんなこんなでページ数はそんなにないものの面白い本だったと総括できる。

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