『貨幣発行自由化論』を読んで

昨今は様々な暗号通貨や電子マネー※(○○ペイ系とか)、が出回っており生活にも馴染んできた感が強い。

※暗号通貨や電子マネーの違いは考えると結構難しいものの、転々流通性の違いに求めるのが個人的には分かりやすい(岡田仁志氏の議論)。
(昨今のpaypayとかは利用者同士でやり取りができるものも出てきているのが、またややこしいではあるが)

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出典:NII 69号,2015年9月
また、この辺の違いは、岡田氏の著書である
決定版 ビットコイン&ブロックチェーン』にも別途分かりやすくまとめられているので個人的にお勧め。

ただ、伝統的には貨幣・通貨は国家が発行するもの、国家が独占する領域であった(日本円にしてもドルにしても)。そんな中、ハイエクは今から50年近く前の1976年にこの本を出し、国家による貨幣の独占発行に疑義を呈した。
様々な「マネー」が出回っている今から振り返ると、先見の明に富んでいる、と言われる本書について、連休中で良い機会であるので読んでみた。

全体として、国家による貨幣発行は自明のものではないというのと、自由に貨幣発行が認められた場合どのようなことが起こりうるかを滔々と語る。

前提として、ハイエクはケインズ経済学とは対極をなす、新自由主義の経済学者の立場。金融や財政政策、引いては国家に頼るのではなく、自由な競争原理を是としているのが根幹の思想にある(国家による金融政策は不要であるという立場は本書の第18章でも改めて主張されている)。
本書では経済政策にとどまらず、通貨の発行についても市場の自由競争の原理に晒して(競争通貨)、淘汰をしていけば良いのではないか、と語っている本になる。

通貨の国家による独占発行は、国家にとっては通貨発行益(シニョリッジ)が魅力的すぎるため、一種のモラルハザードのごとく(或いは打ち出の小槌のごとく)発行しすぎてしまう可能性をいつも孕んでおり、それは通貨の一番の重要な要素である会計単位としての有効性(そしてその根拠となる通貨価値の安定)を揺るがしてしまう危険性といつも隣合わせということ、それは競争通貨によって解決できる、そういうロジック。

中央銀行は貨幣の流通量を調整することによって、インフレやデフレを防ぐことが出来るから中央政府の管理下に貨幣を置くことは重要とする反論に対しても、そういうことは(新自由主義者の立場から)意味がないという議論で応酬。さらには競争通貨を導入することで全体としてインフレもデフレも起こらないとも主張(要は「悪貨は使われなくなるから」ということ)。

そのような、競争通貨こそ、「理想の通貨」である、と本書では結論をつけている。


読んでみて成程、とは思う一方で、こういう疑問も湧く。

「通貨を発行して発行者側は何か得するのか」

本書では通貨の発行者として民間の金融機関を念頭においているが、通貨の発行者側のメリットは特に語られない。むしろ他の通貨と競争しないといけないので、その維持だけでも凄く大変そう。安定的な経済活動にはつながるが、資本主義の世の中、金を稼げるような仕組みもないと長続きしないだろう、というのは直感に照らしてみてもそんな違和感はないと思う。

ただ、今では技術革新が進んできて、「理想の通貨」の可能性として新たに暗号通貨というジャンルが出てきた(これは本書が再び脚光を浴びている理由でもあるだろう)。
例えばビットコインであれば、ブロックチェーン等の新しい技術を使った暗号通貨であり、特定の管理者を持たない分散管理を思想として持っている。

或いは、中央銀行や民間銀行が暗号通貨を発行検討するという話もちらほら出てきている(ただし、ある特定の一機関が発行して管理する場合は、「何の得があるのか問題」は付いて回るだろうが)。

もしかしたら、技術革新が進んでいる今、ハイエクのいう通貨の競争がまさしく行われている時代なのかもしれない。

兎に角、本書は未来の金融や経済の在り方について、色々想像を膨らませてくれる、思考実験を提供してくれる良書であることには間違いがない。

ある程度長生きして、「理想の通貨」の結論を確認してみたいな、という思いを持った。

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