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『満鉄全史』を読んで

小学校の時分から世界史や日本史を問わず歴史の勉強に興味があり、その中でもモンゴルや遊牧民の歴史、広大なユーラシア大陸の歴史への興味が強かった。私自身が島育ちで広大な大陸へのあこがれと、世界史において割とキープレーヤーを演じる割に謎が多かったので興味が一層掻き立てられたためであろう。

大学進学で上京するにあたっては、ユーラシアの歴史を勉強したいという思いが強くあって、大学選びで高3の秋口まで迷った覚えがある。
(ただ最終的には、仮に文学部に入学したとしても研究に飽きた、もしくは行き詰った場合に就職どうなるんだろう、飯を食えなくなったらどうするんだろう、という打算が働いたのと、入学後に専門の学部が選べる大学もあるというので、結局そこに行ったわけであるが。
大学に入ったら入ったで、まあ政治史とか外交史とか法学も面白いことに気づき、そのまま法学部に行った。此処まで書くと分かる人はどこの大学か分かりそうなもんである)

大学では法学部に進んだものの、ユーラシアへの憧憬にも似た興味はまだ消えることは無く、それに関連した書籍は趣味の範疇で今でも結構読んだりする。

掲題の満鉄(南満洲鉄道株式会社)も(私が持っていた憧憬とは違うものであろうが)そういう大陸への憧憬(或いは野心)を持った戦前の日本が作った国策会社であり、当時の若者が大陸浪漫を求めて数多く入社していった会社である。
更には対ソ、対中の最前線として、各種「調査部」(要はインテリジェンス部隊)を持っていたり、満鉄の組織体系であったり、活躍(暗躍)した人が戦中・戦後の日本に多大な影響を与えたりしたりと、研究分野としても非常に強い興味を引き付けられる会社である。

前置きが長くなったが、非常に興味をそそられる存在としての満鉄の歴史をコンパクトにまとめたのが、掲題の『満鉄全史』である。


本書では、日露戦争後の1906年に設立された経緯から、戦後の解体までの歴史を追っている。
そもそもあまり確りとした目的が無く見切り発車だった(日露戦争での「たまたま」得た権益が元だった)ものの、日露戦争で勝ちえた数少ない「戦利品」だった経緯もあり、国民には熱狂で受け入れられた(株式公募への殺到)草創期は、まさに大陸への国民の期待の掛け方が尋常ではないものを物語っているエピソードだと思う。

その後、ロシア革命や張作霖との微妙な関係を経て満州事変に入っていく過程では、満鉄・官庁(外務省・拓務省)・軍部・政党と権力闘争、主導権争いに終始した経緯に触れている。まあそもそも他国で鉄道敷いて、更には植民地経営しようというのだから、前提から難しい話なのだろう。
また、関係各機関が明確なビジョンなく場当たり的な「国策」を振り回しながら、結局大したことも結実出来なかったことは、筆者も批判をすると同時に、日本社会に示唆を与える満鉄の今日的意義だと強調している。

その後、関東軍とべったりになっていきながら、満鉄も有名な調査部を作ったり、有名な「あじあ号」作ったりと勢力を拡大して(そしてすぐに)没落していく終盤を解説。
新幹線で有名な十河信二が満州事変当時満鉄にいて、関東軍とともに事態拡大派の論陣を張っていたのは中々興味深い。

全体を通して、国策会社ゆえの悲哀が描かれており、面白い本であった。日本・国家としてどうあるべきか、歴史を勉強すると、そういうことに思いを馳せることが出来るのが面白いし、本書はそういうきっかけを与えてくれる良書であった。
引き続き、暇が出来たら他の本でも読んでいきたい。


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(参考)
自身が今までに読んできた満鉄・満洲関連本。以下の本はどれも面白かったので、参考までに掲載しておく。

これも満鉄の歴史を語っているが、これはインテリジェンス部門の調査部にフォーカスを当てている。対ソ前線基地としての活躍と、戦後の「日本株式会社」の原型(要はお上主導による経済成長戦略の策定と実施)を作ったという調査部は興味深い。

1939年に勃発したノモンハン事件の詳細な考察。
これは満鉄というより関東軍の暴走の話であるが、当時の満洲が軍事上どのような意義を持っていたか(持っていると陸軍が考えていたか)も確認できる。

ジャーナリストから戦後は首相まで上り詰めた石橋湛山の評論集。満洲の植民地経営に反対し、手放すべきだとする論陣を展開しており、その内容は本書にも収録されている。

日本史の通史。そういえば大学の授業の副読本だったが、たまに読み返したりしている。コンパクトにまとまっている印象。

満州事変を主導した石原莞爾の有名な小論。アメリカと日本の2大盟主が最終的にぶつかるとする。本当に意気揚々というか、怖いもの無しって感じ。

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