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夢の住人

 幼き日々。海岸に赴けばそこには、夢の住人がいた。夢の住人は他の大人には姿が見えない。声が聞こえない。存在を確認出来ない。だけど、空想力がある自分には夢の住人の姿が見えた。声が聞こえた。存在を確認出来た。波の音を聞き夢の住人と逢い心ゆくまでお話をした。絵本で読んだ夢見るおとぎの国も。現実の世界で起こった出来事も。ときに面白おかしく笑いながら。ときに、低い声で恐ろしいことを語った。夢の住人と笑い合い短い子どもの時間を共有した。
 少しずつ少しずつ身体が心が大人に成長する。久しぶりに海岸に赴いても夢の住人がいない。姿が見えない。声が聞こえない。存在を確認出来ない。夢の住人を探しても見つからず落胆する。夢の住人が見つからないこと。空想じみた子供じみた考えから現実的な大人的な考えに変わること。もう子どもではないこと。もう大人であることを思い知らされる。これからは空想も夢の住人も置き去りにして生きなければならない。
 

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夏の思い出

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