見出し画像

【短編小説】猫

 それは夏の終わりのことだった。その日は土砂降りの雨だった。
    玄関に入ると、傘の先から糸のように切れ目なく水が落ちていた。
   うちに傘立てはない。だから僕はいつも造り付けの下駄箱に傘をかけていた。けれど、濡れた傘をそのままそこにかけておくのはいけない。時間が経つと、傘はとんでもなく臭くなる。部屋全体が、まるで足みたいな匂いで充たされる。だから僕は傘をさしてそれが濡れた時には必ず一晩干していた。部屋のなかは狭くてとても干す場所はない。ベランダしか干す場所はない。けれどその日は嵐でベランダにも容赦なく強い雨が打ちつけていた。靴も服もびしょ濡れのまま、玄関で悩みこんだあげくに僕は傘を扉の前に置くことにした。そこならベランダほど雨や風は吹き込まない。僕の部屋は廊下の突き当りだった。だから誰も前を通らないので通行の邪魔になることはない。廊下などの共用部分に私物を置くのは一応禁止されている。けれどそれは、他の住人の邪魔になるのを想定してだろう。だから僕は、扉のそとに傘を開いて置くことにした。

 次の日は仕事の休日だったので、僕は十時過ぎに布団から出た。カーテンを開くと、目が痛いほどの強い光が差し込んできた。雨はすっかり上がって、雲はどこかに消えていた。
 僕は顔を洗い、食パンをトースターで焼いて食べ、インスタントコーヒーを飲んでから歯を磨き、洗濯機を回そうとしたところで傘のことを思い出した。
 扉を開けると傘はなくなっていた。廊下を見渡してもその姿は見当たらない。昨夜は雨だけではなく強い風も吹いていた。廊下には腰の高さの柵があるので風にあおられてもそれを超えることはないだろうと踏んでいた。けれど傘はなくなっていた。
 僕は柵に手をかけ二階から下をのぞきこんでみた。傘は落ちていなかった。僕はしかたなく一階におり、アパートの敷地を探索した。自転車置き場にも、花壇にも傘は落ちていなかった。
 アパートの前の通りに出て左右を見渡しても傘は落ちていなかったので、僕はアパートの脇にある、公園へと続く細道まで捜索範囲を広げることにした。傘はビニール傘ではない。祖父からもらった、それなりに値のはるものだったのだ。
 細道は舗装されていなくてぬかるんでいた。両脇を木々や雑草で覆われているので蚊も多かった。足をすべらせないように慎重に、顔にたかる蚊を払いながら進んで行くと、道の脇で、開いたまま落ちている僕の傘が見つかった。
 近づいてみてわかったのだが、傘は落ちているのでなく使われていた。傘は、みかん箱くらいの段ボールを覆うように置かれていた。傘を持ちあげると箱のなかにはつやつやの黒いかたまりがいた。かたまりからはぴょこりと二つの耳が生えてきて、黄色い、宝石みたいな二つの丸い瞳が現れた。
 痩せた、まだ小さな猫だった。猫は目を細めて「ニャ」と言った。かすれた小さい声だった。けれど猫はとても落ち着いていた。まるで、僕が来るのを予感していたかのようだった。
 僕と猫はしばらく見つめ合っていた。猫は目をそらさなかった。僕はおそるおそる手をのばし、猫の頭を撫でてみた。猫はあごを上げ、目を閉じ「おーん」と気持ちよさそうにした。僕は背中がぞくぞくとした。僕はたまらず手をのばし、猫のわきに差し入れ持ち上げた。猫は驚くほど柔らかくて軽かった。猫は少しも強張ることなく弛緩して、べろんと伸びたおなかを見せていた。そして目を閉じ「ニャ」と言った。
 気がついたら僕は猫を連れ帰っていた。なんでそうしたのかは今でもよくわからない。たしかに猫は危険なほど魅力的だった。けれど僕は決して衝動的に行動したわけではない。後先を考えるという本来僕に備わっている能力が、その瞬間だけ全く機能しなかった。とても不思議なことだった。
 僕は取り急ぎ猫をキッチンの流しで洗うことにした。ぬるま湯をかけても猫はほとんんど抵抗しなかった。猫はたしか大の水嫌いのはずだがこの子は別に平気そうだった。猫からは絶えず茶色い水が流れ出していた。もしかしたら、本当は白猫なんじゃないかと思うほどだった。
 猫をわしわしとバスタオルで拭いたあと、僕は鳥のささみを蒸して与えることにした。スマホで調べてみたところ、今うちにある食材で、猫にあげても差し支えないのはそれくらいのものだった。
 猫はささみを瞬く間に平らげると、少し離れて見守る僕のところへゆらりを尾をくねらしながら来た。そしてちょこんと座って「ニャ」と言った。
 僕は猫をニコと呼ぶことにした。目を細めて口角をあげ、いつもニコニコとしているからだった。

 僕の実家には昔猫がいた。その子が子猫のときには本当に苦労した。あらゆるところで爪を研いでしまい壁紙や絨毯をだめにした。突然走り出して花瓶を落としたりもした。おなかが減ると、しきりに鳴いて食べるものを催促した。食べるものが得られるまで決して鳴きやもうとはしなかった。
 それに比べると、ニコは本当に手のかからない子だった。僕の留守中にも決していたずらなどしなかった。それに大きな声で鳴くところをみたことがない。鳴く習慣がない。だからペットを飼うのを禁じられているこのアパートで暮らすには、もってこいの猫だった。ここにニコがいることなんて、きっと誰もわからない。
 ニコは僕が食事をしているときや、テレビやスマホをみているときなど何かしているときにはそれを邪魔してまとわりついたりしなかった。ニコニコと少し離れたところで僕の様子を眺めていた。けれど僕が手を伸ばすとニコは必ずゆらりを尾をくねらしながら近づいてきて、その手に顔をこすりつけてきた。そして寝るときだけはニコの方から布団にもぐりこんできた。
 部屋に、いつも生き物のぬくもりや気配があることにより、こんなにも寂しさが癒されるとは考えてもみなかった。僕は、ニコのおかげで生きることが少しだけ楽しくなっていた。



 部屋にもう一匹「猫」が来たのはそれから半年後、みぞれのちらちく一月のことだった。
 僕は池袋の東口、サンシャイン60近くのファストフードで働いていた。昼休みになると僕は制服の上からダウンを着て、コンビニで肉まんとおでんとホットコーヒーを買い、イートインコーナーが満席なのでしかたなく近くの公園のベンチで食べることにした。僕の職場のバックヤードはとても狭くて人一人が着替えるのが精いっぱい、とても休憩なんてできる感じじゃない。
 その日は一月でもとくに寒い日だったので、公園にはほとんど人がいなかった。すべり台とかブランコとか広場とか、いつもならいる親子連れの姿が見あたらない。見かけるのは公園に用のない、足早にそこを横切るスーツにコート姿の人だった。
 ベンチに腰かけ湯気のあがるコーヒー容器におそるおそる唇を近づけた時、僕はふと二つ隣のベンチに目がいった。
 そこには厚手の黒いパーカーを着て、フードを目深にかぶる女の子がいた。デニムのショートパンツでそこから網タイツの細い脚が伸びている。靴は底の厚い黒いブーツを履いている。彼女は深くうつむいていた。微動だにしない。全身黒っぽい恰好をしており動かないので、その姿は薄暗い全景に溶け込んでいた。
 僕はコーヒーを飲みながら、肉まんとおでんを口に運びながら彼女のことを観察した。彼女は微動だにしなかった。僕は少し不安になった。彼女は生きているのだろうか。やがて一人のサラリーマン風の中年男がこちらの方へとやって来た。彼はスマホを見ながら女の子に何やら語りかけていた。女の子は顔をあげ、ちらりと中年男の顔を見た。女の子はちゃんと生きていた。けれど彼女は何も言わずにまた深くうつむいた。中年男はそれでもしばらく女の子に語りかけていた。女の子は全く反応しなかった。中年男はしかたなく諦めその場から立ち去った。
 女の子はそれからもずっとベンチに腰掛けうつむいていた。おでんの汁をのみ尽くし、僕も職場に戻るため立ち去った。

   仕事を終えて僕はファストフード店から外に出た。辺りはもう真っ暗で、寒さは顔が痛むくらい、その厳しさを増していた。
   僕は昼に行った公園を通り抜けることにした。その方が、少しだけ近道になるからだ。
   広場を通り過ぎる時、僕は昼間に女の子のいたベンチになんとなく目をやった。
   僕は思わず歩を止めた。
   女の子はまだベンチでうつむいていた。
   僕は考えた。こんなに寒い冬の日に、好きこのんで半日以上外にいるわけがない。何か事情があるに違いない。助けが必要なのかもしれない。けれど僕にはどうするべきかがわからなかった。
 僕はそのまま彼女の前を通り過ぎて公園を出た。僕は歩きながらものすごくもやもやとした。そして途中にあったコンビニで、今日二回目のおでんを買うことにした。コンビニを出た僕は、今来た道を引き返していた。もしこのまま帰って明日になって、あの公園で、女性の遺体が発見されたというニュースなど見たら、僕はきっと一生後悔するはめになる。
   僕はおでんの入った厚紙のどんぶりを持ち、公園に行き、ベンチに腰かける彼女に近づいた。目の前に立っても彼女はうつむいたまま微動だにしなかった。僕は鼓動が高鳴った。既に死んでいたらどうしよう。僕はおそるおそるおでんの容器を彼女の太ももの上あたりに差し出した。おでんから湯気が立ち上り、それがうつむく彼女の顔あたりに触れた。彼女はピクリと蠢いた。僕はほっとした。彼女はそれからも数秒そのままでいた。そしてついに顔をあげて僕を見た。恰好から想像したとおり、若い女の子だった。街灯のあかりのせいか、ひどく顔色が悪かった。そして痩せていた。目だけがやたら大きく輝いていた。彼女はしばらく僕を見つめてから再びおでんに目を落とした。
「よかったら」
 僕がそういうと、彼女はそろりと手を伸ばしておでんの容器を受け取った。僕は割り箸も差し出した。彼女は一度おでんの容器を太ももに置き、それを受け取り割ろうとした。彼女は両手の指先をぷるぷると震わせた。箸はびくとしなかった。僕は一度箸を返してもらって割ってあげ、再び彼女に手渡した。
 彼女はまず大根をとり、それを慎重に口に運んでぱくりと食べた。ゆっくりだが、彼女は一定のペースでおでんを食べ進んでいった。彼女は、やはりおなかをすかせていたようだった。
「警察とか呼んだほうがいい?」
 彼女がおでんを半分ほど食べ進んだところでぼくはそう訊いた。彼女は、おでんから目を離さずに首を横に振る。
「それとも病院のほうがいい?」
 彼女は首を横に振る。
「もしかしたら家に帰るお金がないの?」
 彼女はおでんを食べる手を止めた。
「そういうことなら、少しなら貸せるけど」
 彼女は首を横に振る。「そうか」と言ったきり、僕はそれ以上何も言えないでいた。たぶん、僕にできることはもう何もない。
 おでんの汁を飲み干すと、彼女は顔をあげて「ふう」と息を吐きだした。息は白い煙のように立ち上り、僕の身長くらいの高さで霧散した。
「それじゃあ」
 僕は彼女に背を向けその場から去った。五メートルほど歩いたところで一度振りかえって彼女の方を見た。彼女はその場で立ち上がっていた。そして僕の方をじっと見つめていた。僕は軽く会釈をして再び背を向けた。公園の出口に差し掛かったところで僕はもう一度ベンチの方を振り向いた。彼女はベンチにはいなかった。いつの間にか僕の五メートルほどうしろに立っていた。僕が最初に振り返った時から、僕たちの距離は変わっていなかった。彼女は相変わらず僕の方を見つめていた。けれど、それ以上近づいてくるわけでもない。僕は彼女に構わず公園を出て、駅までの通りを進んでいった。二百メートルほど進んだところで僕はまた後ろを振り返ってみた。やはり彼女は五メートルほど後ろに立っていた。見ている間は立ち止まっている。それからも振り返るたびに彼女は五メートルほど後ろに立っていて、結局僕の家までついてきた。

 扉を開けると、彼女は僕を追い抜きするりと中へ体をいれた。ニコがいるので家の電気はついていた。彼女はブーツを脱ぎ散らかして玄関を上がり、驚くニコを尻目に部屋の中を見まわした。そして突然しゃがむと、リュックから白いコードを取り出してコンセントにさし、スマホをつなげて充電をした。僕は彼女のあとから部屋に来て、近寄るニコを抱き上げた。彼女は再び部屋を見まわすと、今度はパーカーを脱ぎ捨てた。彼女はその下に、鎖骨が見えるほど襟ぐりの広い、目の覚めるようなピンク色のニットを身につけていた。彼女はユニットバスに入って扉を閉めて、数秒後にはシャワーの音が聞こえてきた。
 僕は、ニコと顔を見合わせた。
 彼女は十五分ほどゆっくりシャワーを浴びたあと、扉を少しだけ開いて細い腕を突き出してきた。
「タオル、ちょうだい」
 思っていたよりしっかりした声だった。僕は慌ててその手にバスタオルを置いた。腕は引っ込み扉は閉まり、数十秒したらまた少し開いてその隙間から腕が伸びてきた。
「なにか着るもの貸してほしい」
 僕はふだん服を詰めこんでいる収納ケースから、取り急ぎTシャツとカーキ色のスウェットの上下を取り出し彼女の手に置いた。腕は引っ込み扉は閉まり、少しして扉が開いて僕のスウェットを着た彼女が現れた。彼女が着ると、スウェットの上下はだぼだぼだった。彼女はタオルで頭を拭きながらこちらへやって来て、先ほど充電器につないだスマホの様子を確認した。
 僕はドライヤーを彼女に差し出した。彼女は僕を見て「乾かして」と言った。一瞬「え」と固まると、彼女は「うそ」と言って、またスマホに目を落とした。僕はドライヤーをコンセントにつなげ、スイッチを入れて温風を彼女の後頭部にあてた。彼女はまっ黒なボブカットだった。彼女の髪はとても太くて量も多かったので、乾かすのはかなり大変だった。僕はふと目の前にある姿見の鏡に目がいった。そこには僕のスウェットを着てスマホを見ている女の子がいて、その女の子の髪を立ち膝で後ろから乾かす僕がいた。いったい、僕は何をやっているんだろう。
 髪はまだ湿っていたが、三分ほどしたところで彼女は「もう大丈夫」と言った。そしておもむろに立ち上がると僕のベッドに潜り込んだ。
 僕はしばらく盛り上がる布団を見つめていたが、それはかすかに上下するだけだった。僕はニコに餌をやり、しかたなく床に座ってテレビをつけた。しばらくすると、布団の中からうんうんとうめき声のようなものが聞こえてきた。僕は、彼女が悪夢にうなされているのだろうと考えて、しばらくそのままにしておいた。ところがうめき声はいつまでもやむ気配がない。僕は布団に近づき「大丈夫?」と訊いた。するとそのすき間からすごい速さで手が飛び出してきて、僕の腕を掴んで引っ張った。不意をつかれた僕は、ほとんど何の抵抗もできずに布団の中へと引きこまれた。

 翌朝になって目覚めると、女の子は体育座りをしてテレビで情報番組を眺めていた。ニコも、女の子の隣にちょこんと座ってテレビを眺めていた。昨夜の不可思議な出来事は、紛れもなく現実だったのだ。僕はベッドの下に落ちたTシャツとトランクスを拾い身につけて、洗面所に行って顔を洗い、それからニコの皿にキャットフードを入れた。ニコはその音を聞きつけ僕のところへやって来た。彼女は相変わらずテレビを眺めていた。僕は目玉焼きを二つ焼き、食パンをトースターで二つ焼き、インスタントコーヒーを二つのマグカップに入れた。それから折りたたみ式の座卓を居間のまん中に設置して、朝食一式を運んで来て置いた。
 彼女はテレビから振り返って座卓につくと、当たり前のようにパンを手にして頬張った。僕も目玉焼きを箸で切り分け口にした。彼女は黙々と食べ進んでいた。彼女からは、何かを話しだそうとする気配が全く感じられなかった。彼女は、完全に食事に意識を集中しているようだった。
「昨日さ」と僕は彼女に話しかけてみた。
「公園で何してたの?」
「人を待ってたの」と、彼女は手元から視線を外さずそう言った。
「そうなんだ」
 僕はコーヒーを一口のんだ。
「じゃあ、来なかったんだ」
 彼女はやっと僕を見た。
「来たよ」
「え?」
「私、埼玉の方から家出してきたの。でもね、お金が全然無いからとりあえず一番近い都会の池袋に来て、あの公園で泊めてくれる人を待ってたの。あらかじめSNSで募集して。何人か来てくれたんだけど、おじさんとか、露骨に下心がある感じの人しかいなくて無理だった。そのうちスマホの充電切れちゃって、寒くて動けなくなったところにあなたがおでんを持って来てくれた」
 僕は、彼女を連れて帰るつもりなんてこれっぽっちもなかったし、彼女についてくるのを認めた覚えもない。だから、厳密には僕は彼女が待ち受けていた人ではない。
 けれど、僕はわざわざそれを否定しなかった。
「どうして家出したの」と僕が訊くと、彼女は少し首をかしげて、うーんと言った。
「月並みな理由。貧困とか虐待とか」
 僕は胸が鈍く痛む感覚がした。僕は、久しぶりに両親の顔が思い浮かんだ。
 気がつくと、彼女はいつの間にかじっと僕を見つめていた。
「ミコ」
「え?」
「私の名前。よろしくね」

 その日はバイトが早上がりだったので、僕は15時くらいに家に帰ってきた。玄関ではニコが出迎えてくれた。ミコのブーツはなくなっていた。部屋に入ると彼女のスマホの充電コードもリュックもなくなっていた。彼女は、僕が出かけているあいだにいなくなったのだ。
 僕はベッドに腰かけ部屋のなかを見まわした。何の変哲もない、いつも僕の部屋だった。ニコが僕の前に座って「ニャ」と言った。僕はなんだかものすごくほっとして、体からちからが抜ける感覚がした。
 久しぶりに湯船にお湯をためてゆっくりつかり、ジャージに着替えて扉をあけるといつの間にかテレビがついていた。ミコとニコが、床におしりを並べてそれを眺めていた。
 立ちつくしていると、ミコが僕の気配に気づいて振り向いた。
 ミコは「ただいま」と言ってまたテレビの方を見た。

 ミコはそれからも僕の家にいた。彼女は基本的に昼近くまで寝ているようだった。僕がバイトに出かけるときにはたいていまだ布団の中にいた。僕が帰ってきた時にはテレビを観ていたりとかベッドに転がりスマホをいじっていたりした。出かけていて僕よりも遅く帰って来る日もあった。どこに行っているかは聞いていない。もっと言えば、僕がバイトで家を空けているあいだに彼女が何をしているかも知らない。
 夜は僕の用意した夕飯を食べ、シャワーを浴び、それからまたテレビを観たりとかスマホをいじりながら過ごして0時近くになったら布団に入る。
 狭い部屋に突然同居人ができたのだ。当然、煩わしいことも多かった。彼女には遠慮がない。冷蔵庫のハムとかバナナとかソーセージとか、僕が留守のあいだにどんどん減っていく。それに彼女が来てからというもの、ニコはベッドで眠ろうとしない。ニコはミコにも体を触らせるし、一見、受け容れているようにも見えるのだが、それでも同じ布団で寝るのは嫌らしい。だからニコは今、ひとり床に丸まり眠っている。
 それでも彼女を追い出す気になれなかったのは、彼女が家出をしているからだった。僕も数年前、台東区の家から何も言わずに飛び出してきた。貧困やら虐待、その理由は彼女と同じで僕はそれ以来両親とは連絡をとっていない。最初の頃は、友だちの家とか漫画喫茶の個室を転々として、時には公園や川沿いで野宿した。今のファストフードで働き始めてやっと収入が安定し、このアパートに住み始めたのは家出から三カ月くらい経ったころだった。
 ひとところに落ち着けるまでの生活は、本当に辛いものだった。ここで追い出したら彼女はきっと僕と同じかそれ以上辛い目にあうだろう。今は冬なのだ。せめて仕事を見つけるとか他に頼れる人が現れるまで、同じ家出してきた先輩として、彼女を支えてあげてもいいんじゃないかと僕は考えていた。
 それにもう一つ。彼女はけっこうかわいかったのだ。純粋に、同じ家にかわいい子がいるのは悪い気がしなかった。それに夜は同じ布団で寝てくれて、言い方は少しアレだが、基本、僕の好きにさせてくれるのだ。
 そういう生活を、手放すのは少し惜しかった。


 夏になってもミコはまだ僕の家にいた。
 鏡を見ると、僕の頬はごっそりこけていた。それもそのはず、体重が五キロも減っていた。原因ははっきりしていてそれはミコのせいだった。食費と光熱費、水道代が信じられないほど増えたのだ。それに僕は彼女に時おりお小遣いをあげていた。彼女は着替えを持っていなかった。服も下着もスカートも、全部一着ずつだったのだ。はじめは僕のシャツとかトレーナーを貸してあげていたのだが、家ではそれでよくても外に行くにはみすぼらしい。それに下着はどうにもならないので、洗濯するたび、彼女はドライヤーで乾かして使っていた。さすがにちょっとかわいそうだったので、僕は五千円ほど渡してそれで服とか下着を買ってくるよう彼女に言った。彼女は喜び、服とか下着とかを買ってきた。ところが彼女に足りないのはそれだけではなかったのだ。彼女はとても言いづらそうに、「生理用品がない」「ちょっとでいいからお化粧もしたい」と言った。たしかにそれらも我慢しろとは言いづらい。僕はしかたなく五千円をまたあげた。
 化粧品も生理用品も減っていく。服だって季節が変わればまた新しいものが必要になる。だからそういう出費は定期的に発生する。一度助けてしまうとそれはなし崩しになり、気がついたら僕は定期的にミコにお金をあげていた。ミコも、それを当然のように受け取っていた。
 僕はバイトのシフトを可能な限り増やしたが、そういう増えた出費を補うには程遠かった。収入をこれ以上増やせないなら、出費を削るしか道はない。僕は朝食はパン一枚にして、昼食は抜き、夜も発泡酒を控えるようにした。僕は歩くとすぐ息が切れるようになり、バイト中にも時おりめまいに襲われた。
 そして僕だけではなくニコもどんどんやせていた。背中を触るとごつごつと背骨の感触がした。僕はニコの餌を減らしたりはしていない。切り詰めたのはあくまで僕にまつわる出費だけだった。
 ミコが来て以来、ニコは日に日に食欲を失い、餌をほとんど残すようになっていた。元気もなくなり、歩くときもふらふらとした。このままでは死んでしまうのではないかと心配した僕は、ニコを近くの動物病院に連れていった。ニコは摂食障害が原因で、すでに肝臓が悪くなっていた。ちょっと大がかりな治療が必要とのことで、ニコはそのまま入院した。医者の話では、ニコの食欲がなくなったのは、やはりストレスが原因じゃないかということだった。じゅうぶん思いたるところがあった。ミコが来て、ニコはそれまでの生活を変えることを余儀なくされた。いつも夜は同じ布団で僕と寝ていたのに、そこはミコに奪われた。ミコが来たぶん、僕はどうしてもニコに構う時間が減っていた。最近ではバイトの時間がさらに長くなり、僕とニコだけの時間はほとんどなくなっていた。
 僕は、ニコに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 窓のそとから秋の虫の美しい声が聴こえてくるようになったころ、僕はついに消費者金融に手を出した。ただでさえぎりぎりだった生活に、ニコの医療費という新たな負担が加わったのだ。バイトはもうこれ以上増やせない。僕の出費も限界まで切り詰めていた。だから僕は最終手段に手を染めた。
 ニコは少し容態が安定したので退院してうちに戻っていた。けれどそれはあくまで少し安定したというだけだった。改善は特に見られない。相変わらず自力では食べられないので、液状の餌をチューブで鼻から流し込んでいた。
 そしてもう一点、僕の部屋の一角で、とある変化が起きていた。僕の部屋の四隅の一角は、いつからかミコのスペースになっていた。ミコはそこでスマホを充電し、座り込んで姿見を見ながら化粧した。そこの壁に、いつからか写真が貼られるようになっていた。写真は普通の写真よりも小さい、いわゆるチェキとかのインスタントカメラで撮られたものだった。写真は一枚、また一枚と増えていき、いつの間にか五十センチ四方がびっしりモザイク模様に埋められた。全ての写真で、中性的な、中分けの端正な顔立ちをしている若い男性と、ミコが頬を寄せ合っていた。
「この人だれ?」
 ある日僕は訊いてみた。
「推し」とミコは言った。
「アイドルなの?」と僕は訊いた。
 ミコはうーんと首をかしげて「少し違うかな」と言った。彼はコンカフェのキャストだということだった。「コンカフェ?」と今度は僕が首をかしげると、メイド喫茶もそれの一種だと彼女は言った。
 ミコは埼玉にいる頃からその彼を推していたらしい。インスタで偶然彼のライブイベントを観て、それ以来すっかり虜になったのだ。ミコはお金と時間ができると一時間ほど電車に乗り彼のいるお店に行っていた。彼のお店は新宿にある。前よりもずっと近くなって行きやすくなったとミコは屈託なく言った。チェキ撮影は一回千円で、それはまるまるではないがキャストの収入になる。だからファンは推しを応援するため撮影をする。
 つまりミコは、少なくとも壁に貼られた写真の数×千円を、推しにつぎこんだということになる。
 僕は心がざわついた。そして顔が熱くなってきた。ミコに推しがいるのは仕方ない。それについては僕がとやかく言うことではない。問題なのは、僕が彼女に生活費として渡したお金が見ず知らずの男に流れていることだった。僕は、そんなことのためにお金を渡したつもりはない。
「そんなお店に行くお金、ミコはどこから出してるの?」
 僕は訊いた。
「どこから?」
 ミコは不思議そうな顔をした。
「もちろん私のお金だよ」
 僕はため息をついた。
「いや、僕が聞いてるのはそのお金は」
「バイトのお給料」
 僕は頭が痛くなってきた。
「その通り」と僕は少しやけになってうなずいた。
「じゃあそのバイトをしているのは」
「あたしだよ」
「その通り」とうなずいてから僕は「え」と言った。ミコは吹き出した。
「あたしのバイトのお給料」
 僕は頭を整理した。
「ミコ、バイトしているの?」
「うん。ずいぶん前から。言ってなかったっけ?」

 よくよく考えたらそうだった。ミコはずっとスマホを使っている。途中で止められたりもしていない。つまりスマホの料金は、ちゃんと払えているということだ。僕の渡しているお金だけではそもそも足りるはずがない。
 僕はほとんど毎日八時間以上、バイトで家を空けている。その間に、ミコがどこで何をしているかを僕は知らない。訊こうともしていない。僕にとっての彼女は、やはり得体の知れない人だった。そのうち出て行く予定の人だった。だから頭のどこかで、気持ちの部分で彼女に深入りするのを避けていた。
 けれどもう、今までどおりではいけない。消費者金融からの借り入れは、減るどころか日増しに増えている。僕の体も、もはや限界を迎えている。
 道は二つしかない。ミコに出て行ってもらうか、逆に生活費をおさめてもらうかだ。できれば、ミコにはもういなくなって欲しかった。かなり前からそう思っていた。そこへ推し活やらバイトの話を明かされたのだから、もう叩き出したいくらいの気持ちになっていた。でも、そうするのは得策ではない。ミコは十七歳だった。僕は二十歳だ。理由はどうあれ、たぶん今の僕たちの状態には問題がある。もし無理矢理追い出してミコが気分を害したら、腹いせに、警察に色々と言われてしまう可能性がある。監禁されたとか、性被害を受けたと訴えられたら僕には反論する手立てがない。それが違うという客観的証拠が何もない。僕たちには、ニコ以外の第三者が誰も介在していないのだ。だからそうされたら僕はもう終わる。
 それは生活費を払わせるのも同じことだった。どんなに正論でもミコが気分を害したら、やはり同じことをされるリスクがあるだろう。
 だからいずれにしても、ミコが気分を害さぬよう、慎重に、言葉を選びながら伝える必要がある。
 僕はものすごく口下手で、相手にちゃんと意図を伝えられたことがない。それは、とても気の重いことだった。

 バイトから帰って来ると、ミコがテレビの前に座っていた。画面にはバラエティ番組が映っていたが、彼女は全く観ていなかった。手もとでスマホをいじっていた。ニコは窓際で丸まり目を閉じていた。おなかが不規則に上下して、とても呼吸が辛そうだった。僕の近づく気配を感じると、何とか首を持ち上げ「ニャ」と言った。
 手洗いうがいを済ませると、僕はすぐに夕飯を準備した。チャーハンを二つの平たい皿に盛り、テレビ前の座卓に運ぶとミコはスマホを床に置いていただきますも言わずに手をつけた。
 僕たちはしばらく何も言わずに食べていた。テレビでは、少し先のハロウィンのことが話題になっていた。ミコが「はやいね」とつぶやいた。僕も「はやいね」と言った。
「もう十ヶ月になるんだね」
「え」とミコが言った。
「君が来てからさ」
「もうそんなになるんだね」
 再び沈黙が流れかけたので、僕は「そろそろ」と言いたいことを切り出そうとした。
「そろそろ」
 ミコがほぼ同時にそう言った。
「え」
「え」
「何?」
「なんか言おうとしていなかった?」
「そっちこそ」
 僕はそちらからどうぞと言った。ミコはスプーンを置いて少しのあいだうつむいてから、顔を上げて僕を見た。
「そろそろきちんとしなきゃだね」
「何を?」と僕は言った。
「わたしたちのこと。だってもう十ヶ月になるんだよ?こんな状態不自然だと思わない?」
 不自然、と僕はつぶやいた。そして「確かに」と言った。
「だよね」とミコは言った。「だから結婚しよう」
 僕はチャーハンを吹き出した。
「大丈夫?」とミコが訊いてきた。
 僕は咳き込みながらうなずいて、呼吸を落ち着けてから「なんで?」と疑問を口にした。
「だからさ、」とちょっとミコは苛ついた。「おかしいでしょ?何でもない男女が十ヶ月も同じ家で暮らして、一緒にごはんを食べたり同じ布団で寝たりして」
「それは確かにそうなんだけど、」
「だからあるべき姿にちゃんとなろうという話」
 僕は「ちょっと飛躍しているよ」と言った。
「不自然な状態を解消する方法は、他にだってあるじゃない。例えば、一緒に住むのをやめるとか」
 ミコはきょとんとした顔をした。それから、「ああ、ごめんごめん。言い忘れてたんだけど、」と言った。
「私妊娠してるんだよね」
 僕は思考が停止した。
「だからね、もう出て行くのは無理なんだ」
 僕はしばらく何も言えずに中空を見つめていた。僕が何も言おうとしないので、ミコは再びスマホをいじり始めていた。
「こんな聞き方はあれだけど」と、僕はやっとの思いで口を開いた。
「僕の子で間違いないんだよね」
 ミコは「うん」と肯いた。
 僕は立ち上がり、「ちょっとコンビニ行ってくる」と言った。ミコは「綿棒お願い」と言った。僕は「わかった」と言った。

 僕は、コンビニなんかに用事はない。ほとんど衝動的に、あの場から、あの部屋から逃げたくなったのだ。歩いて二分くらい、いつも僕が立ち寄るコンビ二は、なんだかいつものコンビニには感じられなかった。店内の蛍光灯が、妙に白々しくて異様に明るく思われた。目の前に並んでいるカップラーメンや、総菜パンとか食器用洗剤とか整髪料が、果たして本当にそこに存在しているのかよくわからなかった。壁一面にある、飲料冷蔵庫の大きな扉の開閉音、レジに立つ店員の、「画面をタッチお願いします」という話し声、きちんと聞こえているのに、現実感がまるでない。
 僕はロング缶の発泡酒を三本、円筒形のケース入りの綿棒を買って店を出た。
 僕は何だかふらふらとした。足が、ちゃんと地面を踏みしめている感覚がない。自分の体をきちんと所有している自信がない。
 僕はアパートを通りすぎ、その脇のニコと出会った真っ暗な細道を抜け、ほとんど手入れのされていない、雑草の高く茂った児童公園に辿りつき、そこのベンチに腰掛け発泡酒を開けた。
 僕は何も考えようとはしなかった。考えることなど何もない。考えてどうにかなる段階は、いつの間にか終わってしまっていた。
 僕が発泡酒を買ったのは、酔って頭が麻痺させて、一時的にでもこの現実から距離を置きたかったからだった。そうでもしないと、もはや今夜を乗り切る自信もない。
 僕は発泡酒を一本、一気にのんだ。味はほとんどしなかった。僕は、続け様にもう一本のんだ。体の内側が熱くなり、世界が回る感覚がした。けれど頭のなかにある黒いかたまりは、けっしてぼやけたりはしなかった。むしろその輪郭を明確にした。僕は三本目の発泡酒を開けて、無理矢理のどに流し込もうとした。けれど僕はそれを飲み下せずに、口の端から流れ落ちた。
 僕は、残った発泡酒を地面に捨てた。

 家に帰るとベッドの布団が膨らんでいた。ミコは、すでに寝ているようだった。部屋のまん中に座りこむと、ニコがふらふらと近寄ってきた。そして僕の目の前に座って「ニャ」と言った。僕はニコの頭を撫でた。
「僕はどうしたらいいんだろう」
 僕は思わずつぶやいた。するとニコは、あぐらをかく僕の太ももに乗ってきた。
「ニコ」
 僕はまたニコの頭を撫でようとした。けれどニコは顔をそむけてそれを拒んだ。ニコは太ももの上で二本足で立ち、僕の鎖骨のあたりに手をかけた。そして、顔を触れそうなほど近づけてきた。ニコの瞳は異様に輝いていた。
「どうしたんだニコ」
 僕はニコの脇に手を入れ抱きかかえようとした。けれどニコは爪をしっかり僕のニットに引っかけていて、その体は離れなかった。ニットが伸びるだけだった。何度引き離そうとしても、ニコは僕から離れなかった。落ち着かせようとして、頭や体を撫でてもダメだった。爪はますます食い込み痛いほどだった。やせ細った体の一体どこに、そんなちからがあるのだろう。
 そうこうするうちに、ニコは毛を逆立てよだれを垂らし、がくがくと痙攣しはじめた。ニコは、憎悪をこめた瞳で僕を見て、「シャー」と牙をむき出しにした。僕は反射的にニコの首に手をかけた。すると、ニコは驚くほど落ち着いた。痙攣をやめ、爪のちからを抜いた。そして、あごを上げて目を閉じた。
 信じ難いことだがニコは明らかに首を差し出していた。
 苦しいから、楽にしてくれということなのか。それとも、自分が消えればそのとんでもない治療費をもう払う必要がなくなって、僕が楽になると考えたのか。
 僕は首を横にふった。そんなことがあるはずはない。そんなことを考えてはいけない。
 僕は再びニコを引き離そうとした。ニコを、病院に連れて行かなくてはならない。僕が首から手を離した瞬間、ニコは再び目を剥き痙攣した。それはますますひどくなっていた。ニコは打ち上げられた魚のように跳ねた。なのに爪はしっかり僕の鎖骨あたりにかけているので、その勢いで、僕は皮膚が裂けるような激痛がした。ニコの瞳は憎悪で輝き血が流れていた。
 僕はたまらずニコの首に手をかけた。ニコはみるみる落ち着き目を閉じた。そしてあごを上げて「ニャ」と言った。僕は気がついたら手にちからをこめていた。僕がちからをこめればこめるほど、ニコの体からはちからが抜けた。ニコは、まるで陽だまりで寝ているかのような穏やかな顔をした。そんな顔は、本当に久しぶりだった。
 そして、ニコの爪は僕の体からとれた。
 僕は、やっとのことニコを抱きしめた。ちからが抜けて弛緩したせいか、その小さな体は信じられないほど重かった。僕はなんとか立ち上がり、その岩のように重い亡骸を抱いて部屋のなかをうろうろとした。取り急ぎ、ニコをどこかに隠す必要がある。迷った末に、僕はニコをキッチンの流しの下にある収納に入れた。ちょっとした押し入れくらいある、観音開きの無駄に大きな収納だった。その先は考えていなかった。僕自身が、どうしていくかを含めて全てをだ。
 その時に僕にはもう、取り急ぎそうするのが限界だった。


 口もとに、一定間隔でざらざらとする感触がして、僕は目を開けた。目の前には美しい黄色い二つ目があった。ニコだった。ニコが、僕の顔を舐めていた。身を起こすと僕はベッドの上だった。カーテンからは、朝の白い光が差し込んでいた。
 僕は部屋のなかを見まわした。いつもと、何の変哲もない部屋だった。僕は、なんだかものすごく悪い夢を見た感覚がした。頭の奥がじんじんと、鈍く痛む感覚もした。胃の辺りもむかついていた。
 僕はニコの頭をひと撫でしてからベッドを降りて、キッチンに行って流しの蛇口をひねってコップに水を満たし、飲み干した。ふうと一息ついた時、太ももに何かが触れる感覚がした。下を見ると、流しの下の扉が少しだけ開いたままになっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?