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超常現象研究倶楽部 百物語①

 高校2年の夏、僕と守が創った超常現象研究倶楽部も2年目となりたまには本格的な活動もしようということで夏休みを利用して合宿することになった。
歴史研究という名目で昼間は史跡を巡ったり図書館で資料を漁ったりしたがそれは仮の活動。
僕らの本来の目的はその夜旅館で行われる百物語の会である。
僕と守、裕美、由紀恵、麗奈の5人。それに顧問の前川先生入れて6人ではとても百話なんて難しいけれどやってみる価値はある。
なにせ超常現象研究倶楽部なのだから。
さすがに百本のろうそくは消防法に引っ掛かるので一本にして部屋に二ヵ所赤外線カメラと普通のデジタルカメラを設置し万が一人ならざる者が現れた場合ちゃんと証拠に撮っておこうと極めて科学的な態度で望むことにする。
さて夕飯を済ませ時は19時30分。お風呂は夕飯前に済ませておいて一番広い桔梗の間に全員集合。
しかし誰も口火を切ろうとしない。
こうなったら言い出しっぺの僕が言おうと思ったら先に守が口を開いた。
「エヘン。僭越ながらこの高橋守が先陣を切らせてもらいます。と言っても私話はド素人。某怪談師みたいに緩急自在山在谷在りの話術を期待してもらっちゃ困りますぜ。」
「誰も期待なんかしてねえよ。」と前川先生。
「では始めます。知っての通りうちの母さんは看護士として働いてます。母さんが休みの日夜中の1時頃玄関のチャイムが鳴ったんですよ。悪戯かと思ったんですけど次の日親しくしていた患者さんが亡くなったと電話がありましてね。きっと挨拶に来たんだねって言ってました」
ろうそくが少し揺れたようだった。
「では次は私笑島彪人(えみしまひょうと)が。昔ある旅番組を見てました。多分パリの繁華街だとおもいます。カフェテラスの白いテーブルがずらり並んでいて。そこに一瞬映ったんです。ズボンを履いた下半身だけが歩いているのを」
「なんじゃそりゃ~」と一同。
じゃ次は私ね。と麗奈
「この前うちのおばあさんが亡くなったんだけどね。仏間でお坊さんにお経を唱えてもらってるときふと上を見たの。するとね、前に亡くなってたおじいさんの遺影から涙が流れてた。おじいさんとおばあさんはオシドリ夫婦で有名だったの」
「うむ。それはいい話だね。怖い話というより感動する話だ」と守。
さてじゃ次は私ね。と裕美。
「色々あるんだけどさあ。百物語だからひとつずつだね。」
「1話ずつでもまとめてでもどっちでもいいよ」と僕。
「うん、じゃあ話すね。私の家の近所にさ。この前人魂が出たんだよ。夜の7時頃かな。隣のおばさんが大騒ぎして知らせてくるからさ。母さんと一緒に見に行ったのよ。古い木造の家の屋根の上を青白い光が生き物みたいに動いてた。」
「それは不気味だね。一応聞いとくけどその日雷鳴らなかった?」
「んーん。晴れてたもん」
「じゃプラズマじゃないか。ごめん、それから」
「それからね。猫みたいに屋根のはじっこまで来るとすっと隣の家の方に飛んで行って見えなくなっちゃった。その次の日よ。その人魂が飛んで行った方に住んでるおじいさんが亡くなったって聞いたのは」
心なしかまたろうそくが揺らめいた気がする。
よし、じゃ次は俺の番だ、と前川先生。
「まあ似たような話が2つあるんだが百話に足りないから2つにカウントしてもらおう。まず大学生の頃。俺はパソコンの部品などの精密機械を作る会社で働いてたことがある。まあ短期のバイトだ。そのころ忙しくて丸1日働いてたんだがお昼休みのとき、休憩所まで行くのが億劫でな。狭いし大勢いるのが苦手だったから明かりを落として暗くなった工場の長椅子で昼寝してたのさ。誰も居なくて気楽におもってな。疲れてぐっすり寝てたんだけどなんだか変な気配がして耳許で『おいっ』ておじさんの声が聞こえたのさ…」
みんな神妙に聞いている。
「それで思わずはいって返事して飛び起きると…誰もいなかったんだよ」
なんとなくろうそくが揺れた気がした。
「先生~。それ夢なんじゃないの?」
「うーん、夢にしちゃあまりにはっきり聞こえたなぁ。俺はてっきり工場で寝てたのを誰かに怒られたのかと思ったのさ。そして後で聞いたらその工場古くて出るって有名だったらしい」
なるほど。次もお願いします。と僕。
「まあ次も似たようなもんなんだけどね。これはまあ親戚が田舎の工場でしいたけ栽培やっててね。夏休み手伝ってたんだけどさ。エアコンが故障して。しいたけってのは気温が高いとあっという間に成長して。夜は冷やさなきゃダメらしい。それで大き過ぎて売り物ならなくなるから深夜と朝方採ってくれってたのまれたのよ。それで深夜誰もいない工場で黙々としいたけ採ってたんだけど。夜食のあと30分ぐらい仮眠取ろうと横になってたらさ。どこからか女の人の話声が聞こえてさ。金縛りになったんだ。しかもそんはことが3日ぐらいあったぞ。ある日は事務所をトントン叩く音がして出てみりゃ誰もいなかったなんてこともあった。後で聞くとそのしいたけハウスは元々工場だったらしく廊下を人影が通ったりするのをよく見られたらしい。なんでも従業員の女性が怪しい健康器具だかダイエット用品だかの会社とトラブルになって自殺したらしい」
「おお怖っ。背筋がぞくっとしました」と裕美。
「本格的ですねえ」と守。
「何せ実話だからな」
最後に残ったおっとり天然系の由紀恵さん。
「あ、私の番?私はねえ。幽霊の話はないのよ。むしろ宇宙人?」
「全然問題ないっす」
「うんとねえ。友達のお兄さんがねえ。深夜の2時ごろ玄関のチャイムが鳴ったんだって。それでびっくりして玄関開けるとねえ。魚の頭をした宇宙人がこんばんはって」
「あの~。それ夢じゃない?」
「夢じゃないって言ってた」
「それからどうなった?」と守
「知らな~い」
「あ、後もうひとつあるよ。私の入ってた中学校の近くに紫苑っていう食堂あるんだけどね。ある日その真上にUFOが現れたんだって。それで食堂のマスタービデオカメラで撮ったんだって」
「おおすごっ」
「マスターそのビデオテープをさ。調べて貰おうとつくば大学に送ったんだって。でもそれ以来音沙汰ないって。7年も経つのに」
「それは残念だなあ」
なんとなくろうそくが揺れた気がした。


【続く】


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