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029.未だ創造的能力を誇る能はず

 この後、日本はいまだ創造的な能力に欠けるところはあるが、良い点は積極的に取り入れていくとし、さらに、自らが1年ほど前に滞在したニューヨークでの体験を語り、これまで諸外国から学んだ多くのことは既に実行に移されていると紹介して、今回も学んだことは国に持ち帰って導入したいと述べています。

 

  日本は、猶ほ未だ創造的能力を誇る能はずと雖(いえど)も、経験を師範とせる文明諸国の歴史に鑑み、他の長を採り誤を避け、以て実際的良智を獲得せんと欲す。一年足らず以前に予は合衆国の財政制度を精細に調査したることありしが、その時華盛頓(ワシントン)滞在中貴国大蔵省高官より貴重なる援助を受けたり。而して予の学び得たる各種の事項は、誠実に我政府に報告せしが、その献策は大抵採用せられ、既に実行に移されたるもの少なからず。現に予の管轄下にある工部省に於ても、進歩の大いに見るべきものあり。鉄道は帝国東西両方面に敷設せられ、電線は我領土の数百哩(マイル)に亘(わた)って拡張せられ、数箇月中に殆ど一千哩に及ばんとす。燈台は今や我国の沿岸に設置せられ、我造船所も亦活動しつつあり。此等の施設は総て我文明を助成するものにして、我等は貴国及び他の諸外国に対し深く感銘する次第なり。

「伊藤博文伝 上」(明治百年叢書 原書房)

 

日本には、新しいものを生み出す力はないが、文明諸国から良いところを学び、学んだ結果は、即座に反映させていると、鉄道や電線の敷設、灯台の設置、造船所の建設など具体的な例を紹介し、こうしたことへの支援に感謝を述べています。

そしてさらに、今回も多くの情報を持ち帰り、みなさんが発展してきた成果を学び、短時日で通商を増進し、健全なる基礎をつくりたいと述べています。

 

使節としても個人としても、我等の最大の希望は、我国に有益にして、その物的及び智的状態の、永久的進歩に貢献すべき資料を齎(もた)らして帰国するに在り。我等は固(もと)より我人民の権利及び利益を保護するの義務を負ふと同時に、我通商を増進することを期し、且つこれに伴ふ我生産の増加を図り、その一層大なる活動を助長すべき健全なる基礎を作らんことを望むものなり。
  太平洋上に今将に展開せんとする新通商時代に参加し、大いに為す所あらんとする大通商国民として、日本は貴国に対し、熱心なる協力を捧げんとす。貴国の現代的発明及び累積知識の成果に依り、諸君はその祖先が数年を要せし事業を数日にて成就し得るならん。貴重なる機会の集中せる現時に於て、我等は寸陰をも惜まざるべからず。故に日本は急進を望むや切なり。

「伊藤博文伝 上」(明治百年叢書 原書房)

 

通商を増進し、生産の増加を図りたいというのではなく、「その一層大なる活動を助長すべき健全なる基礎を作らんことを望む」と言っているのですね。結果を求めるのではなく、結果が生まれる状態をつくりたい、と言う主張です。これは、すごいことですね。

普通であれば、結果を求めるでしょうが、伊藤はそうではありませんでした。言ってみれば、成績の悪い子供が、「成績をよくしたい」というのではなく、「成績をよくできるような習慣を身に着けたい」と言っているようなものです。こんな発想は日本人にもともとあったものでしょうか? 早急に成果を求めるのではなく、体質を変えたいという主張は、聴いていたアメリカ人を驚ろかせたのではないかと思います。

そして最後に、伊藤は以下のように続けます。

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