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「焼き林檎」の思い出

我が家には小さなガスオーブンがあった。時代は60年代。
電子レンジなんかなくて、トースターとガス・オーブン。

その小さいオーブンで、母はハンバーグ、グラタン、パウンドケーキ、シュークリームなど色々と作ってくれた。
ハンバーグは最初にフライパンで焦げ目をつけてから、オーブンでじっくりと焼き上げるから肉汁が逃げずに、柔らかく出来上がっていた。
グラタンもクリームの焦げ具合が丁度良い感じだった。

その中でもよく登場したのが『焼き林檎』だった。
季節はいつだったのだろう?多分寒い季節だったかな。
かなり頻繁におやつに登場した。
皮が所々折れるようにくしゃっとしていて、あの固い林檎の形ではなく、不恰好になった『焼き林檎』

皮はかなり硬く、それをスプーンで破りながら(そう破くという表現なのだ)ぐにゃとなった中身をすくって食べる。

あのシャキシャキとした硬いリンゴのイメージからはかなり離れて「ぐにゃ、とろぉ」っとなってしまった『焼き林檎』はかなり甘かった。
今ではリンゴジャム、ピューレ等でお菓子作りには便利なものでもある。

でも実は、焼いてぐちゃ、とろぉ、と熱く焼かれてしまったこの『焼き林檎』が私は苦手だった。

それでも、姉と私に1個ずつお皿にのせられて登場する 『焼き林檎』を文句も言わずに食べていた。

栄養を考えて料理を作る母だったから「身体にいい」とか「焼くと美味しい」と聞いて作っていたんだと思う。

そしていつからか『焼き林檎』は姿を見せなくなり、林檎はそのまま切って食べるようになっていた。

少し前、姉とこの『焼き林檎』の話になった。

「小さい時よく焼き林檎食べたよね。          でもさ、実は私あんまり好きじゃなかったんだよね」と姉。
「え〜そうなの、私も!」と私。

なんと姉も「焼き林檎」が苦手だったのだ。
2人共「焼き林檎」が登場する度に思っていたのだ                      「またか・・あんまり好きじゃないんだけどな・・・」と。

これは姉妹して、多分せっかく作ってくれた母に「美味しくない」「好きじゃない」と言えない娘ながらの心遣いだったのか、母に無駄な抵抗はしない、と姉も私もそれぞれの心の中で思っていたからなのか、もうその頃の感情の記憶は残ってないからわからないけれど。    






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