鷺 行美(さぎゆきみ)

2022年7月2日に死別したパートナーとの思い出を綴ります。二人の過ごした時間はたった…

鷺 行美(さぎゆきみ)

2022年7月2日に死別したパートナーとの思い出を綴ります。二人の過ごした時間はたったの1年と2ヶ月間でした。 彼のたぐいまれな生き方と、彼が遺してくれたあたたかくまっすぐな愛のかたちを書き残したいと思います。 続きものですが、どうぞどこからでもお手に取り、触れていってください。

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  • 連載小説【知られざるアーティストの記憶】

    連載小説【知られざるアーティストの記憶】の本編を収録します。

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【知られざるアーティストの記憶】番外:アーティスト同士の会話 美しい友人と彼㊦

㊤はこちら⤵ 3. 一周忌に間に合わなかったnoteデビューをやっと8月18日に果たした私は、いつの頃か、エマちゃんに彼のイラストを描いてもらうことを着想した。それは、フォトグラファーの橋本永美子さんに撮ってもらった彼の写真作品がなければ抱くことのなかった願いかもしれない。 私が撮った写真よりもはるかに美しく男前に映っている永美子さんの作品の中の彼を、私は私の物語を読んでくださる皆様に観ていただきたい衝動にしばしば駆られた。しかし、私は物語の中で、彼の姿を浮かび上がらせ

    • 【知られざるアーティストの記憶】第81話 彼の選択

      Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第81話 彼の選択 2022年1月26日、T大学病院から帰ってきた彼は、マリの目の中を見つめながら穏やかに話し始めた。 「S医院に、いつ行ってみようかな。それをずっと考えているよ。」 それは、T大学病院に通院しながらの抗がん剤治療に6日間通い、一粒7000円の抗が

      • 【番外☕】第80話によせて

        1.第80話の解説のようなもの 本番外編は筆者による解説のような内容です。本来は、連載の途中で筆者による解説を挟まないほうがよいと思いますし、筆者の解説が正しいとも限りません。読みたくないかたはスルーされることをお勧めいたします。 (コメント欄ではいつも、解説のような内容も見境なく吐露しているのですが、今回はそれを自分から先にやっちゃおう!なわけです。) ◆◇◆ 第79~80話は、もしかすると読者によっては、主人公が取って変わるような展開、なのではないでしょうか。という

        • 【知られざるアーティストの記憶】第80話 様々な愛

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第80話 様々な愛 三畳の居間にキラキラと差し込むまだ淡い朝日が、砂壁の色とざらざらとした質感を最もありのままに跳ね返すので、マリは普段は居ることのない時間帯にこの部屋にいるのだということを知った。マリも彼も、先程のやり取りを経てやや放心状態で畳の上に座っていた。

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        【知られざるアーティストの記憶】番外:アーティスト同士の会話 美しい友人と彼㊦

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        • 連載小説【知られざるアーティストの記憶】
          81本

        記事

          【知られざるアーティストの記憶】第79話 真夜中の話し合いと、早朝の話し合い

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第79話 真夜中の話し合いと、早朝の話し合い マリはこのとき夫に伝えようとした唯一の言葉を、喉から解き放つことに苦心して、約30分間も逡巡した。 「え、なに?どうしたの?」 時々、しびれを切らせた夫が困り果てて優しい声をかける。普段は威張って怒鳴り散らす癖に、こうい

          【知られざるアーティストの記憶】第79話 真夜中の話し合いと、早朝の話し合い

          【知られざるアーティストの記憶】第78話 マリの自転車とシャンソン

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第78話 マリの自転車とシャンソン マリは自分の自転車を、普段はカバーをかけて自宅の壁際に沿わせて停めていた。しかしその日は、あとでまた使う予定があったのか、片づけるのを横着して塀の外側に停めたままにしていた。それが強風にあおられて倒れていたらしい。家の前の道路は車

          【知られざるアーティストの記憶】第78話 マリの自転車とシャンソン

          【こぼれ落ちた断片03】メモに遺された文字

          2021年12月9日から2022年1月14日までの彼の入院の荷の中に、マリは二つのものを持たせた。一つは、メイが足つぼの施術に使う「ネイチャーガード」という名前の乳液。もう一つは「シダーウッド」の精油である。 ネイチャーガードは小分けの容器に入れた。もともとは虫の嫌うアロマを用いた虫除け用の乳液なのだが、ハイブリッドのヒマワリ油が配合されているためとても優れたマッサージクリームなのだ。聖路加病院の日野原先生がこのクリームを使ったリンパマッサージを日課とされていたと小耳に挟ん

          【こぼれ落ちた断片03】メモに遺された文字

          【知られざるアーティストの記憶】第77話 違った感情

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第77話 違った感情 彼は深刻な不眠に悩んでいた。マリは三男の保育園に向かう途中にある漢方内科のF医院に彼を連れて行ったが、やはり抱えている病気が病気なだけに、かかっている血液内科の主治医の紹介状がないと勝手に漢方薬を出すことはできないと言われ、不発に終わった。(★

          【知られざるアーティストの記憶】第77話 違った感情

          【知られざるアーティストの記憶】第76話 『郭林新気功』の功罪

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第76話 『郭林新気功』の功罪 マリにとって見慣れない、伸び切った無精髭を蓄えたまま帰宅した彼は、帰るなりすぐにそれを剃り落とすことはせず、翌朝にやっと見慣れた姿に戻った。 入院している1カ月の間に髪の毛もだいぶ伸びていた。長髪だった頃の彼は、女性もうらやむほどの

          【知られざるアーティストの記憶】第76話 『郭林新気功』の功罪

          【番外☕】愛について。ご紹介:ダージャの愛のことば

          第75話でダージャの愛のことばを引用しましたが、当時の私のメモ帳に書き残されていたもののうち、どの部分を切り取ろうか悩ましかったです。そこで、ご本人にも許可をいただいたので、私のメモ帳にある限りの全文をここに置いておきたいと思います。 ダージャの言葉は詩とか文学ではありません。魂からのありのままの原石のようなストレートな言葉だと思います。これらはFacebookに投稿されたものなので、フォロワーへの問いかけでもあります。彼女は、いろいろな層の人たちに届くように、確信犯的にい

          【番外☕】愛について。ご紹介:ダージャの愛のことば

          【知られざるアーティストの記憶】第75話 ダージャの愛のことばと気功

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第11章 決断  第75話 ダージャの愛のことばと気功 彼の入院に時を同じくして連発されたダージャの愛のことばは、このときのマリの心に渇望されていたかのようにヒットし、染み込んでいった。それは、マリがそれまで彼に対する愛に向き合うときに、そうせざるを得なくてとってきた行動を、肯定して

          【知られざるアーティストの記憶】第75話 ダージャの愛のことばと気功

          【知られざるアーティストの記憶】第74話 テラクウォーツとケマンソウ

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第10章 5度目の入院  第74話 テラクウォーツとケマンソウ 2021年12月30日。マリはアマと名乗る友人の家にテラクウォーツを買いに行った。買うことを決意した理由の一つは、メイが施してくれたこの不思議な振動に魅せられ、これを持っていれば仙骨先生やタケイさんやメイなどの施術を定期

          【知られざるアーティストの記憶】第74話 テラクウォーツとケマンソウ

          おはようございます。 第70話に1パラグラフ、第73話に1センテンス加筆しました。 どうしても公開した後に思い出されることがあり、懲りずに加筆してすみません。 お読みくださったかたにご確認いただけると嬉しいです。コメ欄に加筆箇所あります。 いつもありがとうございます🫡

          おはようございます。 第70話に1パラグラフ、第73話に1センテンス加筆しました。 どうしても公開した後に思い出されることがあり、懲りずに加筆してすみません。 お読みくださったかたにご確認いただけると嬉しいです。コメ欄に加筆箇所あります。 いつもありがとうございます🫡

          【知られざるアーティストの記憶】第73話 彼の誕生日に届けたもの

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第10章 5度目の入院  第73話 彼の誕生日に届けたもの マリは、再発して入院中である彼の68歳の誕生日を祝う言葉をカードにしたためるのに、ずいぶんと迷ったに違いない。一切の不安や暗さを排して、前向きな言葉だけを連ねた。彼のほうは、自らの置かれた状況の中で、このカードに書かれている

          【知られざるアーティストの記憶】第73話 彼の誕生日に届けたもの

          【番外☕】生き方を示す登場人物たち

          半分くらいは無意識にしていることなんですけれど、本作に出てくる脇役のような登場人物たち――特に、彼と血の繋がりのない、病院のお医者さんでもない、マリとの関わりの中で登場してくる人たち――の生き方や有り様なんかを、ちょっと遠慮がちに描写したりしています。例えば、ダージャだったり、メイだったり、マホだったり、りーさんやせっちゃんを代表とするT山麓のネオヒッピーたちだったり、今回はPIKALE☆くんなどです。もっとがっつりと向き合って書いちゃえばいいようなものですが、遠慮がちになる

          【番外☕】生き方を示す登場人物たち

          【番外☕】創作大賞

          正直な話、2024創作大賞にはちっとも関心を向けられませんでした。 というのも、現在取り組んでいるノンフィクション長編をまとめることだけで精いっぱい。 脇目をふって集中力をゆるめたら、とたんにばらばらに分解してってしまいそう。 それに、今書いているやつは創作大賞の締め切りまでには書き終わらないし、とっくに総文字数を越えているし、「恋愛小説部門」なんてのに当てはまりそうな話でもないし……。 実は、昨年の創作大賞にはかなり関心が高かったんですよ。 このノンフィクションを書き始め

          【番外☕】創作大賞