鷺 行美(さぎゆきみ)

2022年7月2日に死別したパートナーとの思い出を綴ります。二人の過ごした時間はたった…

鷺 行美(さぎゆきみ)

2022年7月2日に死別したパートナーとの思い出を綴ります。二人の過ごした時間はたったの1年と2ヶ月間でした。 彼のたぐいまれな生き方と、彼が遺してくれたあたたかくまっすぐな愛のかたちを書き残したいと思います。 続きものですが、どうぞどこからでもお手に取り、触れていってください。

マガジン

  • 連載小説【知られざるアーティストの記憶】

    連載小説【知られざるアーティストの記憶】の本編を収録します。

最近の記事

【知られざるアーティストの記憶】第61話 弟との面会

Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第61話 弟との面会 マサちゃんが転院したO病院は、当時の感染症対策体制下にあっても入院患者との面会が全面禁止ではなく、医師の許可が下りれば月一度の面会予約を取ることができた。そのことを知るやマリは、 「すぐに医師の許可をもらって予約をしようよ。可能な限りマサさん

    • 【こぼれ落ちた断片01】ある日の遭遇

      何度も何度も何度も曲がる あなたの家の曲がり角 下手をすると1日に何回も 保育園の送り迎えや買い物のときは右折 次男の学校や駅の方面へゆくときは左折 この日も左折をしようと一時停止し ウインカーを出すと 道路の右側からあなたが歩いてきて わたしと目が合うと微笑み立ち止まる わたしはどうぞという手振りで道を譲る あなたはそれを見てゆっくりと歩み出す わたしは微笑みながらその様子を眺める あなたが渡り終えるのを見届けてから ゆっくりと左折し 今一度あなたのほうを向くと あなた

      • 【番外☕】そばにいる紫

        主のいなくなった家 そして家さえ影を失ったブラックシートを見て わたしはいつもため息を落とす ああ あの空間も陰影も手ざわりも もうそこにはないのだなと その度毎に理解する 形を失ったものは二度と元に戻らないのだ だけどそこには さいかちの風と共に 彼ののこしたきらめきが漂う さいかちがたくわえたサルノコシカケは 用が済むと同時に朽ち果てた 代わりに根元には キランソウの鮮やかな紫 わたしの健康を願ってくれているの 腫れ物に効くという薬効は 明日の長男の手術を成功に導

        • 【番外☕】キスのおもひで

          【知られざるアーティストの記憶】第60話で彼とのキスのことを書いた日の夜、詩人のげん(高細玄一)さんの「詩)燃えるようなキス」が目に飛び込んだ。 字数の限られた「つぶやき」でご紹介させていただいたが、なんだか言い足りないので改めて記事を書く。重複ご容赦ください。 (だったら初めから記事を書けばよかったのだが、短いとわかっているから見てもらいやすい「つぶやき」は、記事とはまた別の交流が生まれることに気づき、最近気に入っている。) げんさんの詩は、いつも私に気づきを与えてくれ

        【知られざるアーティストの記憶】第61話 弟との面会

        マガジン

        • 連載小説【知られざるアーティストの記憶】
          61本

        記事

          詩人による美しいキスの表現 げん(高細玄一)さん 詩)燃えるようなキス https://note.com/ginngakei/n/nd204575c43d7?sub_rt=share_pw 「どれだけ待っていたか  どれだけ切なく  生きてきたか  もう一度確かめあい  もう一度唇を交わす」 こんなキスをしてみたかった 体験も言葉も人を大人にする

          詩人による美しいキスの表現 げん(高細玄一)さん 詩)燃えるようなキス https://note.com/ginngakei/n/nd204575c43d7?sub_rt=share_pw 「どれだけ待っていたか  どれだけ切なく  生きてきたか  もう一度確かめあい  もう一度唇を交わす」 こんなキスをしてみたかった 体験も言葉も人を大人にする

          【知られざるアーティストの記憶】第60話 彼のキスと読書

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第60話 彼のキスと読書 医師からの許可までもらってきたにも関わらず、彼は一向にマリにキスをしようとはしなかったので、マリは拍子抜けした。 数日たったある日、布団の上で彼の上に被さり彼の目を覗き込むと、その目は「いいよ」と言っているようだったので、マリはその唇に

          【知られざるアーティストの記憶】第60話 彼のキスと読書

          自由に浮かび 言葉を捕まえる どのあたりを どんなふうに浮かんでいるか 高度と密度 眼差しの自由 余分な力が入っていないこと それは書くことにおいてだけでなく 日常の行動や生き方においても同じ どのあたりを どんなふうに浮かんでいるか なのだと思う

          自由に浮かび 言葉を捕まえる どのあたりを どんなふうに浮かんでいるか 高度と密度 眼差しの自由 余分な力が入っていないこと それは書くことにおいてだけでなく 日常の行動や生き方においても同じ どのあたりを どんなふうに浮かんでいるか なのだと思う

          【知られざるアーティストの記憶】第59話 女性とキスをしてもいいですか

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第59話 女性とキスをしてもいいですか 二人でImakokoカフェに行って来て、彼はマリにこんなことを言うのだった。 「私はまるで、キミの紐みてえだなあ?」 そして、さも楽しそうにニヤリと笑う。たかがジンジャエール1杯で何を言うのかとマリは思うが、思いのほか彼は気

          【知られざるアーティストの記憶】第59話 女性とキスをしてもいいですか

          【知られざるアーティストの記憶】第58話 Imakokoカフェに行く(下)

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第58話 Imakokoカフェに行く(下) 「それで、同級生の家は見つかったの?」 「それが、いくら探しても見当たらないんだよ。」 ワークショップをしているグループの中には、Imakokoカフェのすぐ近所に住むKさんがいた。Kさんはイトオテルミーの療術家で、マリ

          【知られざるアーティストの記憶】第58話 Imakokoカフェに行く(下)

          【知られざるアーティストの記憶】第57話 Imakokoカフェに行く(上)

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第57話 Imakokoカフェに行く(上) 2021年11月15日、マリは家業の商品を駅前のImakokoカフェに納品に行くことになっていた。カフェのコーナーの一角にそれはあり、コアなお客さんがポツリポツリと買っていき、在庫が残り少なくなると店主のせっちゃんがマリ

          【知られざるアーティストの記憶】第57話 Imakokoカフェに行く(上)

          【知られざるアーティストの記憶】第56話 母性の強い彼はマリの気功に興味を持った

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第56話 母性の強い彼はマリの気功に興味を持った マリは毎朝気功に出かけた。寒くなってくると、彼はマリの薄着であることを心配した。寒がりなマリは決して薄着ではなかったのだが、首周りの大きく開いた服をしばしば着たので、そのたびに彼に注意を受けた。 「寒くないの?私は

          【知られざるアーティストの記憶】第56話 母性の強い彼はマリの気功に興味を持った

          【番外】友へ

          友人が亡くなったと 知らせを受けたとき 体調が急に崩れた 彼女の名前の入った主語と 「亡くなった」という述語が どうにも結び付かなかった まだお若いし 少し前まで元気にしていた 活動的で 私たちのコミュニティの中心人物 明るいムードメーカーだった 笑っている顔やおどけている顔しか 思い出せない 動かなくなった彼女に会いに行くことを 体が躊躇っていた 会いたい気持ちはあるのに 今の自分にはそのエネルギーがない気がして また後日にさせてもらおうかとも思った 今朝になりふと

          【番外☕】マリが行っている“絶倫”気功💖について

          マリはこの物語を通して、毎朝気功をし続けています。それが、この物語の通奏低音となっています。物語の始まりも、マリが567禍に気功を公園でし始めたことが彼との出会いに繋がりました。 この第1話の中にさらりと答えを書いちゃっていますが、気功に出かけるようになったことで彼の家の前を毎朝通るようになったという物理的なきっかけだけではなく、この気功が運命を変える(生き方を変える)性質を持つ気功だったからこそ、気功を始めてからマリは彼に出会えたのではないか、と密かに仮定しています。

          【番外☕】マリが行っている“絶倫”気功💖について

          【知られざるアーティストの記憶】第55話 マサちゃんと指談と母親のお下がり

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第55 マサちゃんと指談と母親のお下がり あの秋、そういえばマサちゃんは落ち葉掃きをしていた。家の周りの道路をずいぶんと熱心に、家から遠く離れたところまで。マサちゃんが入院したのが10月12日だったから、桜や槐、その他の公園に植わっている落葉樹は10月初旬には葉を

          【知られざるアーティストの記憶】第55話 マサちゃんと指談と母親のお下がり

          【知られざるアーティストの記憶】第54話 マサちゃんの転院

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第54話 マサちゃんの転院 2021年11月2日、脳神経外科に特化したK病院に入院していたマサちゃんは、高齢者の認知症などを多く受け入れる精神科専門のO病院に転院することになった。 K病院への入院時には嫌がって暴れるマサちゃんを車で連れて行くのに苦心したことから

          【知られざるアーティストの記憶】第54話 マサちゃんの転院

          【知られざるアーティストの記憶】第53話 埋没するのは嫌いなんだ

          Illustration by 宮﨑英麻 *彼は何も遺さずにひっそりとこの世を去った。 知られざるアーティストが最後の1年2ヶ月で マリに遺した記憶の物語* →全編収録マガジン →前回 第8章 弟の入院  第53話 埋没するのは嫌いなんだ ある日、マリが彼の家を訪ねると、中から彼の話す声が聞こえた。彼は大きな音で掃除機をかけていたが、その音に時折紛れ込む彼の声もまた負けずに大きかった。 (あれ、マサちゃんはいないのだから、独り言?) 音と声のする二階へ階段を上がるに

          【知られざるアーティストの記憶】第53話 埋没するのは嫌いなんだ