見出し画像

【こぼれ落ちた断片03】メモに遺された文字

2021年12月9日から2022年1月14日までの彼の入院の荷の中に、マリは二つのものを持たせた。一つは、メイが足つぼの施術に使う「ネイチャーガード」という名前の乳液。もう一つは「シダーウッド」の精油である。


ネイチャーガードは小分けの容器に入れた。もともとは虫の嫌うアロマを用いた虫除け用の乳液なのだが、ハイブリッドのヒマワリ油が配合されているためとても優れたマッサージクリームなのだ。聖路加病院の日野原先生がこのクリームを使ったリンパマッサージを日課とされていたと小耳に挟んだ。正確な情報かは知らない。

このクリームの、虫が嫌う香りの主成分であるゼラニウム油は、白血病の細胞の増殖を抑制する効果と、発症に必要な転写因子を阻害する効果が研究で認められたという情報をネットで見つけたマリは、大喜びで彼にプッシュしたのだった。彼はマリが勧めてくるものはだいたい素直に受け入れた。特にこのクリームは、乾燥する踵のお手入れ用に彼に大変気に入られた。

シダーウッドオイルは、「意思の力をサポートする効果がある」というのを知って、そのときの彼に必要だと直感して渡した。彼はこのガラス瓶(もともと香水用)のフォルムが気に入ったのか、たまには香りを嗅いだのかは分からないが、彼の作業用デスクにバックスキンの文鎮と並べ置かれていた。

マリはこれらの説明を書いたメモとともに、彼が唱えたほうがよいと思う「アファメーション」をメモして渡した。今から思うとなんという余計なお世話だろう。ダージャの愛の教えをもっかい読めよ、と思う。恥ずかしながら・・・


アファメーション:
私は、宇宙のエネルギーと計らいを信頼し、それに感謝し、過去の出来事に対するネガティブな感情を全て浄化します。家族や大切な人たちと愛で繋がり、共に豊かさに向かいます。

どうでしょう?(笑)後半の文はもちろん、彼が「家族との繋がり」が原因で自分も破滅に向かっていると思い込んでいる意識を変えてもらうためのアファメーション、のつもりである。

彼はこれにはノーコメントだったが、なんだか本のページ数が書き込まれている。マリのアファメーションなんかバカにして(?)、メモ用紙にしているのだ。この書き込みには、彼が亡くなった後に気がついた。

どの本のページなのだろう。
彼が唯一個別に感想を述べた日木流奈くんの本ではないかと思ってそのページを開いてみたが、特にぴんとくるようなページではなかった。
『郭林新気功』は太極拳の先生に返してしまったので、取り寄せない限り確認はできない。

「彼がマリと過ごしていた間に遺した文字」があまりにも少なくて貴重なだけに、このメモに遺されたページが気になってきた。

彼はマリに一度も手紙の返事をくれなかったばかりか、マリと過ごす日々においてはあまり文字を書かなかった。遺された貴重な文字のもう一つは、マリの携帯番号のメモで、入院するときには財布に入れていた。しかし、見ると名前の漢字が間違っていたので驚いた。(漢字の姓名を手紙に記していたと思うんだけどな。)それは指摘して書き直してもらった。

彼が唯一、自分の意思でマリに遺した文字は、彼の「遺言書」であったが、今はマリの手元にはない。

※ヘッダーは彼の入院中に見に行った金澤翔子さんの書道展での大作。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?