買ってよかった漫画 2019 年版(第 1 回 15 作品!)

今年も残り僅か。相も変わらず、この一年も気がつけば漫画を読む日々だった。9 月には、海賊版サイト「漫画村」の運営者も逮捕され、漫画業界も少しは変化したようだ。

大きな被害を被った事件だったが、皮肉にも、それをキッカケに、電子コミックの認知が広がり、また、出版各社もユーザファーストを心掛け改善した結果、市場は大きく拡大したという。

許される事件ではないが、漫画業界の転機になってくれたのなら、長年の漫画読者としては嬉しいことだった。一話無料だけでなく、一巻無料というサービスも増え、ウェブ連載では最新話は期間限定で無料公開というのも凄く有り難い流れだ。

個人投稿からのプロ転向も増えているし、面白い漫画を見つけるのがより一層大変になってきた。ということで、少しでも情報提供できるように、去年に引き続き、「今年の買ってよかった漫画」を発表したいと思う。

去年と同じで、完結漫画も連載漫画も、今年発売になっている漫画が主だが、中には過去 1 年以上前に完結した漫画を大人買いしたものもある。

今回は、年末にかけて、何回かに渡って紹介していきたい。どれも胸を張ってお勧めできる漫画ばかりだ!

(1)岡本健太郎×さがら梨々『ソウナンですか?』

飛行機事故のせいで…。今日から青春、無人島っ……!! なんにもないから――、なんでも作る!! なんでも食べる!!!!(泣) 知恵と勇気の無人島 JK サバイバル。あたしたち、けっこう元気です!

表紙の絵柄から、女子高生が集まってキャッキャウフフする中身の無い男に都合が良いエロ系漫画かと思っていたのだが、『山賊ダイアリー』の作者である岡本健太郎が原作だと後から知って、納得の面白さだった。この漫画をサバイバルと読むかギャグと読むかは、人それぞれ結構分かれると思う。私が素晴らしいと思ったのは、それぞれのキャラを迫害しない、個性を受け入れていく空気が自然と描かれている点だ。人は集団になると特定の誰かの不得手な部分を非難し排除してしまうが、得意分野で役に立てばそれで良いことを気持ち良く肯定してくれる。学生時代に学ばなければならないのは、万能感でなはく、適材適所、お互いに手を取り合って、不得手な部分を補い合うことが当たり前だってことを認識する大切さ。一人が全てを平均的にできないとダメだという劣等感を与えるだけの教育は、本当に悪だと思う。

(2)ONE『REIGEN ~霊級値MAX131の男~』

心霊相談所を営む自称・【霊能力者】霊幻新隆のもとに新たな依頼が舞い込んだ! 事故物件の除霊、心霊スポットの悪霊退治 etc.オカルトマニアの女子高生バイトとともにインチキ度&危険度 100 %の除霊に挑む!!!

モブサイコ100』に登場するインチキ霊能力者・霊幻新隆を主人公としたスピンオフ作品。この漫画はインチキがギャグの柱なわけだが、この世の中、現実、インチキとの折り合いをつけていくことが、人間社会の本質ではないだろうか。霊感が皆無の霊幻新隆が、霊的事件を解決できてしまうのは、依頼者が騙されているからなのか、いや、決してそうではない。詭弁だらけのこの社会の上で、どうやって生きていくのか、霊能力や生まれ持った特別な力が全てなのか、違う、人間力こそが最も大事、何も持たない霊幻新隆の言動の全てが、それを骨身に染みるほど教えてくれる。

(3)桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』

学園カースト頂点の美少女・山田杏奈の殺害を妄想してはほくそ笑む、重度の中二病の陰キャ・市川京太郎。だが山田を観察する内に、京太郎が思う「底辺を見下す陽キャ」とは全然違うことに徐々に気づいていき…!?

思春期の真っ只中にいる主人公の少年が、鬱屈した感情から美少女をターゲットに物理的にも精神的にも傷つけてしまう暗く黒い漫画なのかと思っていたのだが、読んでみたら全く正反対の青春ラブコメだった。しかし、どの話を読んでいても、ホッコリしながらも、反面、山田杏奈がこの性格でなければ、この主人公の未来は全然違っただろうなと思ってしまう。山田杏奈の偏見の無さが、無垢な愛らしさが、一人の少年を救ってくれている。この出会いは本当に尊くて、学生時代に出会えなかった多くの読者のトラウマを、この漫画を読むことで、少し和らいでくれているじゃないかと思う。

(4)桜井のりお『ロロッロ』

友達のいない森繁ちとせ (12) のために、町一番の 変質者 天才であるちとせの父親は高性能ロボット・イチカを完成させる!! が、あまりに精巧に出来たポンコツのために、ちとせを始め、誰にもロボットだと信じてもらえず…。

いつか現実に、遠くない未来に、寸分違わず人間を再現できるロボットが、この世に登場することだろう。そのとき、人はきっと、笑いなんか皆無で、恐怖を抱くのだと思う。人間か、ロボットか、それは味方なのか、敵なのか、信じられる存在なのか。現代ではオーバーテクノロジーすぎて想像できず、冗談として、この漫画を、心から笑える。でも、イチカが本当のロボットだと証明されてしまったとき、森繁ちとせは変わらず友だちでいてくれるだろうか。ロボットの心は、単なるデータだ。ドタバタで若干ブラックな脱衣ギャグ漫画、ケラケラ笑って済ませばいいんだろうけど、そんな不安な気持ちを同時に抱いてしまう。この作品を知ったとき、桜井のりおを単なるギャグ漫画家だと思ったが、『僕の心のヤバイやつ』を知って、心に訴える何かを表現する作家なんだと感じるようになった。

(5)桜井のりお『みつどもえ』

とってもかわいくて、とってもおかしな小学 6 年生の丸井家三つ子三姉妹が大暴れ♡

僕の心のヤバイやつ』『ロロッロ』で桜井のりおワールドに完全に嵌ってしまって、ギャグを欲して本作に手を出した。初巻、デビュー間もない頃から連載が始まって、どんどん今のスタイルに洗練されていく。その過程を読むのも趣がある。この作者、『ロロッロ』も含め、乳首ギャグが好きだよなという印象が強かったのだが、女性だった。なるほど、確かに男性だったら、乳首はギャグでここまで弄らないだろう、乳首という字面だけでゴリゴリに性の対象だから、きっと描写がエロくなってしまう。笑えながらも、柔らかさに、心の繊細な機微が垣間見えて、この感じ、女性というので凄くしっくりきた。ギャグなのに読後、不思議と心温まる、なんとも貴重な作風だ。

(6)高野ひと深『私の少年』

この感情は、母性?それとも――。スポーツメーカーに勤める 30 歳、多和田聡子は、夜の公園で 12 歳の美しい少年、早見真修と出会う。元恋人からの残酷な仕打ち、家族の高圧と無関心。それぞれが抱える孤独に触れた二人は、互いを必要なものと感じていく――。

本当に気の迷いで、普段なら絶対に手を出さない「おねショタ」と呼ばれるジャンルを初めて読んだ。主人公の OL にも美少年にも共感できる要素はないし、ただ暇を潰す興味本位でしかなかった。後から知ったことだが、2017 年の「このマンガがすごい!」にランクインしていたらしく、私のようなモッサリとしたオッサンでも、考えさせられることが多い非常に衝撃的な作品だった。人は、トラウマを解消するには、どう足掻くだろうか。自分が欲しても得られなかったものを、自分以外の他人に与えて、疑似体験からトラウマを解消する。親が子供を想う心には、そうした暗黒面も含まれるのかもしれない、切り離せない当然の無意識として。見知らぬ子供に声を掛けて、善意から保護することが、否定される今の世の中、それは、子供だけでなく大人も救えなくなってしまったんだと、気付かされた。私はこの先、この漫画を忘れることはないと思う。

(7)泰三子『ハコヅメ~交番女子の逆襲~』

「もう辞めてやる!」辞表を握りしめた新米女性警察官・川合の交番に、なぜか刑事課から超美人の藤部長が配属されてきた。「岡島県警(の男性陣)を絶望におとしいれるコンビの誕生である。

県警に 10 年間勤めていたという元婦人警官の作者。警察モノのセオリーはきっと、派手な事件・陰謀、そしてそれを熱血・超人能力でギッタンバッコン解決する物語。そんなドラマチックな日々は、警察官の「リアル」には存在しない。普通の会社員よりも退屈で、理不尽で、ブラックなのかもしれない。犯罪を見て見ぬ振りしたり、仕事の手を抜いたり、サボりたい日だってある。警察官も同じ人間。「リアル」を知っているからこそ、警察官に対する読者の想像を凌駕する日常が、こんなにもギャグになって、笑える。

(8)小田扉『団地ともお』

単身赴任の父親がいる「ともお」は、今は母と姉の 3 人で団地に住んでいる。終業式の日、母に成績のことで叱られたともおは、夏休みの計画表を立てろといわれるが…。ちょっとおバカで微笑ましい小学 4 年生・ともおが繰り広げる毎日は、爆笑としみじみの連続!!

2019 年、遂に 16 年続いた連載が終了した。16 年間、ともおは小学 4 年生だった。それは、大人になってしまった読者を、ずっと子供でいさせてくれた。子供時代を終わらせたくない、子供の頃の大切な気持ちを忘れたくない。願っても願っても忘れてしまっていたことが、『団地ともお』を読むことで思い出せた。小田扉に嫉妬するくらい、永遠に続いて欲しかった。『ちょっと不思議な小宇宙』『フィッシュパークなかおち』など、他の作品と比べると、いつまでも小田扉小田扉なら、『団地ともお』である必要はないのかもしれない。他の作品にナチュラルに、ともお達が登場する期待を込めて。

(9)海野つなみ『逃げるは恥だが役に立つ』

森山みくり(25 歳)、彼氏なし。院卒だけど内定ゼロ、派遣社員になるも派遣切り、ただいま求職中。見かねた父親のはからいで、独身の会社員・津崎平匡(36 歳)の家事代行として週 1 で働き始める。両者ともに快適な関係を築いたふたりだが、みくりが実家の事情から辞めることに。現状を維持したい彼らが出した結論は、就職としての結婚――契約結婚だった!

感動の完結巻を迎えたはずなのに、なんと続刊が発売された。ドラマ化されたときは原作とのギャップが強くて落胆したが、公式に続きが見られるのは凄く嬉しい。契約結婚のときもそうだったが、出産、育児、男女関係の社会的な時事問題に切り込んで、独自の発想で問題提起もしてくれるのが本当に面白いし流石の一言。でも、この作品、前々から「井戸端会議」漫画だと思っている。誰にも届かない日常の小さな井戸端会議が、実は、かなり重要な的を射た問題提起になっているんじゃないかと。普通は誰にも届かないから、それらは解決しない。だからそれを、海野つなみが拾ってくれているような気がしている。

(10)まつもと泉『きまぐれオレンジ★ロード カラー版』

高陵学園中等部に転校してきた春日恭介は、家族全員が超能力者という特異体質。恭介はクラスメイトで不良で美少女の鮎川まどかを好きになり、彼女の気を引こうと奮闘する。しかし、まどかの妹分の檜山ひかるに猛烈なアタックをかけられて…。

この物語の世代じゃない、だからディスコとか、分からない文化の描写に戸惑うのに、こんなにも彼らの笑顔と涙が、胸を抉るのは何故なんだろう。時代は感じさせても、少年少女たちの恋愛模様は変わらない。青春は変わらない。超能力で好きな人は振り向かない。大人になってからこの作品を知って、OVA も全て観た。また、このフルカラー版で、新鮮な気持ちで青春の想いを、少しだけど与えてもらえた。絶対に取り戻すことなんてできないのに、学生当時はそれを実感できない。だから歳を重ねる毎に、読み返したときの切なさが増してくる。

(11)くろは『帰宅部活動記録』

放課後を楽しむために集まった帰宅部の少女達。たった一度の青春を棒に振る、ゆるくない系日常ギャグ登場!

読んでいて普通に「帰宅部」に入りたくなった。こんなに笑顔で過ごせるなら。学生時代に入りたかったし、作れば良かったと心から思った。帰宅部と揶揄されて、どこか青春に後ろめたさを感じていたけど、敢えて放課後を楽しむなんて、考えもしなかった。「帰ろっか!!」のシメの掛け声が凄く良い。なんだろう、凄く言いたい。無性に言いたい。この一体感、本当に羨ましい。たった一度の青春を棒に振る? この笑いこそが青春だ。時折アザラシの小ボケが見切れていて、そもそもアザラシの存在が何の脈略もないし、それらも個人的に凄くツボだった。

(12)くろは『有害指定同級生』

新学期。真面目なクラス委員、八橋みやこの隣の席になった都城玲華が、パンツを穿いていない事が発覚。みやこは玲華を健全な女子高生へと更生させる事ができるのか――!!

ほのぼのとした『帰宅部活動記録』を読んだ後だと衝撃な程に攻めている本作。作者に何かあったのかと度肝を抜く。艶めかしいノーパン姿だったり、ギリギリアウトな隠語を連発したり、ドシモネタギャグで笑いながらも、女子高生の卑猥な要素が全開だ。そしてこの作者、やはり学友との関係性を描くのが絶妙。八橋みやこと都城玲華、この二人の姿が当たり前になっていく様に、心からホッコリしてしまう。

(13)大武政夫『ヒナまつり』

芦川組の若手ホープ・新田の部屋に落ちてきた奇妙な楕円形の物体。それが全ての始まりだった!物体のなかに居たのは、無表情な少女・ヒナ。強力な念動力で新田を脅し、ヒナは新田家に住みつくことに。かくしてヤクザとサイキック少女の危険な共同生活が始まった!

本当に面白い漫画っていうのは、サブキャラたちも凄く魅力的で、新田とヒナの日常的なメチャクチャな掛け合いも本当に絶妙。どのネタも有り得ないんだけど、現実に有り得るかもしれないと僅かに思えてしまうところが、また凄く笑えて、それでたまに人情話を挟んできて涙を誘ってくるから、気を抜けない漫画だ。とにかく初めっからずっと笑いっ放しで、こんなに声を出して大笑いしたギャグ漫画も、最新刊ではついにストーリーが前に進んでいく。え、ストーリーなんてあったの、って感じだが、シリアスでミステリアス且つサスペンスな展開(?)が、今後も見逃せなくてワクワクしている。

(14)赤坂アカ×G3井田『かぐや様を語りたい』

ご存じの通り、超高校級の天才である四宮かぐやと白銀御行は、恋愛に関しては完全にアホになっている。そんな実態を何も知らずに、生徒会を崇拝し、妄信する乙女たちがマスメディア部にはいた!!

かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』のファンをターゲットにしたスピンオフ作品。本編ストーリーで起きていた裏話や、それらの後日談が語られているので、ファンには純粋に嬉しい内容だ。スピンオフでの懸念は、キャラ崩壊を起こしていたり、ストーリーとの矛盾が出来てしまう点だが、絵柄もキャラも原作に極めて近くて、再現性にリスペクトを感じるくらいだから、読んでも安心だ。

(15)殆ど死んでいる『異世界おじさん』

17 年間の昏睡状態から目覚めたおじさんは、異世界からの帰還者だった……。

手当り次第に異世界転生モノを読み漁っていたときに発掘した本作は、明らかに他と一線を画す珠玉の漫画だった。事故からの異世界転生というのはテンプレ通りなのだが、現実世界に帰ってきて、その異世界体験を現実の日常生活の中で思い出したらポツリポツリと甥っ子に語るという変化球なスタイル。読んでいて甥っ子と同じ気持ちで、早く聞かせて~~~~~と懇願してしまうのが、完全に作者の術中にハマっている。また、『ハイスコアガール』のように、主人公のおじさんが「ゲーム脳(SEGA 脳)」であるという点が、笑いの大きな柱になっている。嘗て『ゲームセンター CX』で「人生で大切なことは全てゲーム攻略本で教わった」という企画があったのだが、おじさんはまさに人生の全てがこれに該当するので、笑い過ぎてもう、顔面の筋肉がめちゃめちゃ痛い。

あとがき

気づけば、『私の少年』以外、殆どが笑える作品になってしまった。大人になり社会人になって日々働いていると、何の柵もない無邪気な笑いが欲しくなるのかもしれない。

これは無意識だったが、『REIGEN ~霊級値MAX131の男~』『かぐや様を語りたい』などのスピンオフや、『団地ともお』『逃げるは恥だが役に立つ』『ヒナまつり』などの中長期連載の漫画を選んで読んでしまっている。『異世界おじさん』などの新しい漫画を発掘するのは凄く大変で、人気になって自分の目に耳に否応なく入ってくるまで知り得ないというのが本当に悔しいし、マイナーな良作を見つけられない悔しさもある。

マンガ新聞の前身が元々「数多あるマンガの中から、そっと良書を救い出して紹介する」ことをコンセプトにしていたらしいのだが、今は普通にメジャーな漫画のレビューを掲載しているので、それが残念だ。

では続きはまた次回に。

買ってよかった漫画 2019 年版(第 2 回 16 作品!)


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