見出し画像

子どもと時事問題を語り合える本に~クリス・コルファー

「9・11」と20秒ごとの恐怖

著書『魔法ものがたり』の着想について、クリス・コルファーさんは、このように語られています。

日本語版上巻。下巻は、2022年春に発売予定。小学校高学年以上。
『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』を読んでいなくても大丈夫です。

クリス:「9・11同時多発テロ」が起こった時、僕は子どもでした。
毎日流れるニュースにどんなに怯(おび)えていたか、忘れられません。
そして、今の子どもたちのことを考えてみると、24時間くり返されるニュースでは、たえず新しい、恐ろしい見出しが20秒ごとに流れているのです。

ー クリス・コルファー 2019.9.30 TV番組 AMtoDM インタビューより
https://youtu.be/XVWYY53c7w4

画像2

「9・11」の当時、クリスさんは11歳でした。
そのときに大変な恐怖を味わった体験から、現在の子どもたちのことを気にかけていらっしゃるのです。


わからないゆえの混乱

そして、子どもが抱く恐怖感というものについて、このように述べられています。

画像4

クリス:(9・11のときの自分は)「何が起きているのか」理解するには十分な年齢でしたが、「なぜ、それが起きているのか」理解するには幼すぎたと記憶しています。

それに、子どもにとって、わけがわからない混乱ほど恐ろしいものはないと考えています。今の子たちがどんな恐怖を味わねばならないのか、想像もできません。

ー クリス・コルファー 2019.10.15  Advocate.com インタビューより

I remember I was old enough to understand what was happening, but I wasn’t old enough to understand why it was happening.
And I don’t think anything is scarier for a child than confusion. I can’t imagine how scared kids must feel nowadays.

「理由がわからない」ということが、子どもたちを余計に不安にさせる、と考えていらっしゃるようです。


児童書で時事問題を扱う

そこで、子どもリポーターによるインタビューに対して、

クリス:時事問題を扱うのは、とても大変だったんだ。
というのも、本当にたくさんの憎しみや争いがたった今も続いていて、現在のわが国(アメリカ)ですら、多くの圧迫があるからなんだよ。

僕は、本当は、君みたいな子たちが読んで癒されるような本を書きたかったんだけど、そこに、若い人たちが迫害を乗り越えていく物語を書き加えたんだ。

ー クリス・コルファー 2019.11.12 キッズプレス インタビューより

と、答えていらっしゃいます。
癒される物語にしたかったけれども、あえて時事問題を取り上げ、しかも、ただ客観的に解説するのではなく、「乗り越えていく物語」にされたということなのですね。


親子や学校で語り合う機会に

クリス:『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』シリーズに寄せられた中で最高のほめ言葉は、「この本を、子どもと一緒に読むのが大好きです」とお父さんたちやお母さんたちが言って下さることなんだ。

僕が子どものころは、ニュースで見るできごとが、いつもとても怖かったのを覚えてるよ。
そして、『ハリーポッター』シリーズがなかったら、どうやって世の中を渡っていけばいいのか、わからなかったんだ。

だから、子どもたちがお父さんやお母さんに、今起きていることについて質問できて、親御さんたちも、この本を使って説明できるように書きたかったんだ。

ー クリス・コルファー 2019.11.12 キッズプレス インタビューより
https://youtu.be/XehXXyXVsGQ

画像1

親子で社会問題について話し合うきっかけやガイドになる本をめざして、この作品を書かれ、また、下のコメントでは、学校の先生にも使っていただきたいと述べられています。

クリス:それゆえ、生徒や子どもたちがニュースで見るような問題について、先生方や親御さんたちが説明するのに、一つの参考として使っていただけるような本を書きたかったのです。

僕は、この本が、子どもたちを魔法のような冒険に連れ出すとともに、物事の考え方に何かを与えてくれることを望んでいます。

ー クリス・コルファー 2019.10.15  Advocate.com インタビューより

So I wanted to write a book that parents and teachers could use as a point of reference when they explain the troubling things their kids and students see on the news.
I hope it puts things into perspective while giving them a magical adventure at the same time. 

「魔法のような冒険に連れ出す」…
そんなわくわくするような物語から、世の中の問題を学べる作品は、クリスさんだから書けたのだと思います。


子どもたちの幸せと地球の未来のために

『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ』では、子どもたちを現実から逃避させてあげるのが一つの目的でした。

しかし、『魔法ものがたり』の出版発表のコメントで、クリスさんは、こうおっしゃっています。

クリス:この国には、旗というものは半旗(不幸があったときの旗の掲げ方)なのが普通だと思っている子どもたちがいます。そうです。言うまでもありませんが、児童書作家にとっては無視できない時代なのです。

僕は、若い読者たちを幻想的な冒険へ連れ出すだけではなく、この一筋縄ではいかない、たえまなく変化する現実の中でうまくやっていけるように、手助けできる本を書きたかった。

そしてさらに、一番大事なこととして、
「君の喜びや夢を、君の生きている時代なんかのために、決して奪われてはならない」
ということを、子どもたちに教える物語を書きたかったのです。

ー クリス・コルファー 2019 著書 『魔法ものがたり』発刊発表

There are children in this country who think the flag is supposed to be at half mast, so needless to say, it’s an interesting time to be a middle grade author.

I wanted to write a book that, not only takes my young readers on a whimsical adventure, but also helps them cope with our challenging and ever-changing reality.

 But most importantly, I wanted to tell a story that teaches children to ‘never surrender your joy or your ambition to the times you live in.

世相から目をそらすのではなく、逆に子どもたちに教え、手助けしていくのが、この作品の目的のようですね。
この、実際に助けたい、という子どもたちへの思いやりが、本当にクリスさんらしいと思います。

この発刊に先立ち、非営利教育機関 Destination Imagination の世界大会でのスピーチでも、「けっして、けっして、君の喜びや、君が挑戦したいことへの情熱を、手ばなしてはいけないよ!なぜなら、ぼくらには君が必要だからだ。」と、話されています。

▼ こちらのスピーチです。

画像4

混迷の時代であり、また立ち遅れた時代ではあるけれど、子どもたちに自分らしく幸せに生きて、地球の未来を切り拓いてほしい。

こうした願いをさらに多くの子どもたちに届けるのが、『魔法ものがたり』の使命なのでしょう。


▼ 次回は、この本がどのように書かれたのかをお伝えします。



この記事が参加している募集

#最近の学び

181,465件