ベイカレントの戦略とキャリアについて考える①

Twitter上ではなにかと揶揄されることの多いベイカレントではあるが、私自身はベイカレントで学んだことは多く、在籍者の方に何か伝えられることがあればと思い本稿を書くことにした。

BIG4と比して高い給与レンジが話題になることが多いが、それがキャリア形成にどう影響するか、あなたはそれをどう活かすべきなのか、という点について、ベイカレントの成長の裏にあるビジネスインサイトも交えながら伝えたい。
本記事は三部作で、第一部はベイカレントの事業戦略について、第二部はより詳細なベイカレントの戦略的洞察とあなたのキャリアの未来について、第三部はベイカレントでのサバイブ・プロモーション・キャリアビルドについて、である。


想定読者

  • ベイカレント内定者の学生

  • ベイカレント入社1-3年目の新卒(An-C)

  • コンサル未経験ベイカレ中途の第二新卒(C-SC)

  • ベイカレントに入社するか迷っている方

  • ベイカレントに興味がある戦略コンサルタントや投資家の方

なぜ書くのか

一言で言うとベイカレントには人材輩出企業になってもらいたく、本稿の読者にはその人材として活躍してもらいたいと考えているからである。そう考える背景は全編を経て明らかにしていくが、本稿の読者が私の経験と視点にモチベートされることで、古巣の成長に繋がればよいと考えている。

なぜ高い価格設定にしたのか

  • 本稿は決してベイカレントのジュニア全員に読んでほしいわけではなく、一部の意欲のあるジュニアや、一部の追い込まれたジュニアだけに届いてほしいからである。

  • 高い価格で買うからこそ、クライアントは提言を通じて大きな意思決定ができるのである。つまり、想定読者であるベイカレントの意欲あるジュニアが全編を読み、自身の行動を意思決定することに必要な価格設定とした。

  • 本稿は筆者の在籍時の経験や社内の機密情報を持ち出して暴露的に書くわけでもなく、私が有識者調査を実施し、洞察したうえで書いているものであり、そこにはある程度の調査費用と時間をかけている。

  • ベイカレント入社3年ほどで800万円の年収になるのであれば、10,000円程度のnoteが非常に割安な投資価格であると考えた。

  • 私はベイカレントを経て現在マーケティングのコンサルティング会社を経営しており、pricingについて消費者(市場)からのFBをダイレクトに得たいからである。

想定目次

  • 本稿(無料)

    • 序章:マッキンゼーのミッションとコンサルティングビジネス

    • コンサル業界の概観:なぜコンサル業界が伸びているか?

    • ベイカレントの事業戦略:なぜベイカレは伸びているか?

  • 第二部(有料)

    • あなたのベイカレント戦略:ではどうすればいいのか?

    • 積極的にアサインを願うべき案件:どの案件で勝負するべきか?

    • 評価とアサインメント:何をすると評価されるか?実力がつくか?

  • 第三部(有料):ベイカレントでのキャリアを考える

    • 入社前・入社後2-3年でするべきこと

    • 今後のキャリアの選択肢

序章:マッキンゼーのミッションとコンサルティングビジネス

唐突ではあるがなぜマッキンゼーについて触れるかと言うと、ベイカレントは元々マッキンゼーのTMT閥のファームであり、一方で人材輩出企業としてのベイカレントのプレゼンスはコンサルティング業界の中ではまだ低い。本稿がベイカレントが人材輩出企業を生み出す潮流の一端になれれば、と思ったことが本稿を書く動機となったからである。

コンサルティングファームのミッションやバリューは様々な定義があるが「経営提言を通じてクライアントの成長・業界の発展に寄与する」旨の言説が多い。しかし、ミッションはもう一段深いところにあると私は考えている。

マッキンゼーは傍らか見ればコンサル会社であるが、EMのトレーニングに参加した時、当時のグローバルトップのDominic Bartonは、「我々のミッションはグローバルリーダーを育てる事である」と断言していた。つまり、マッキンゼーの本質(Why)は、グローバルリーダーを育てる事、であり、世界で最も難しい経営課題を解く事(How)がそれに有効であるがために、日常は経営コンサル業(What)をやっている、という組織がマッキンゼーなのだと理解している。(それが正しいかどうかは別として)少なくともこのように理解をすると、社内の制度がなぜそうなっているのか、を一貫性をもって非常によく説明できる事に気が付いたのである。

https://digitalbizpro.hatenablog.com/entry/2019/12/10/132305

上記の筆者の言う通り「経営課題の解決を通じて人材を育成し、輩出する」ことがマッキンゼーの本質的なミッションなのであるとすれば、マッキンゼーのビジネスモデルは少し異なった見方をすることができる。
マッキンゼーにとってのコンサルタントとは、①次世代のリーダーであり②将来のお客様であり③マッキンゼーの価値を世に伝えるプロモーターなのである。つまり、経営提言の活動を通じてコンサルタントにマッキンゼーの思想を植え付けることで、その思想の体現者たるコンサルタントが起業し、マッキンゼーの新たな顧客が生まれるのである。そして、マッキンゼーの思想はアラムナイを通じて書籍となり、マッキンゼーのバリューが世の見込みクライアントに広まる。アラムナイはマッキンゼーの優秀な広報として無料で活動し始めるのである。実際に「マッキンゼーのすごい●●」や「マッキンゼーで教わった●●」「マッキンゼー流●●」というアラムナイが出版する書籍はよく見かけるところである。

私はベイカレントを卒業し、現在は様々なご縁があって知人の会社を経営させていただいているが、ベイカレントではまだこのマッキンゼー的ビジネスサイクルを体現するアラムナイが少ないため、まず私自身が模範になってみよう、という意気込みを表明したい。

コンサル業界の概観:なぜコンサル業界が伸びているか?

「DXのニーズ」「変革のニーズが高まっている」だとか「欧米よりも企業のコンサルティング外注額が少ないからそれに近づく形で伸びる」、など様々なポジショントークが出回っているが、もっとシンプルに考えるべきである。①システム・インテグレーション(SI)市場の成長、およびその市場のパイをコンサルティングファームが侵食していること②大企業の若手がより高い報酬(給料)を望んでいることであると考えられる。

①コンサルティングにおいて最も伸びているセグメントはほぼ間違いなくPMO(Project Mangement Office)のサービスである。これは本来SI市場において計上されることの多いビジネスであるが、SIerとコンサルティングファームが競合する領域であり、SI市場からコンサルティング市場にPMOの売上の付け替えが起きている。また、昨今のDX(Digital Transformation)ブームの流れもあり、SI市場自体も好調であり、その一部をコンサルティングファームが奪うことでコンサルティング市場が成長しているのである。デジタル関連のニーズが市場を牽引しているという言説自体は間違いないが、市場が受ける便益の大部分はPMOによるものである。

②大企業の組織の硬直と国内の雇用規制に大きな変更がない一方で、内実は雇用の流動化が起きていることがコンサルティングファームの成長のエンジンになっている。かみ砕いて言うと、年収600万円の大手企業Xの若手がコンサルティングファームのジュニアになり、コンサルタントとして大手企業Xに常駐すると彼/彼女の年収は700-800万円ほどに上昇するのである。(このような出戻り常駐のケースは何件か耳にしたことがある)大企業が従業員の年収を上げるためには全社員の給与を一律で見直すことによる人件費向上や、市況リスクなどを検討する必要があり、制度変更することが簡単ではない。出戻り常駐のような不自然な形であっても、コンサルティングファームにタレントを有期雇用のように外注することは大企業のリスクヘッジになる。
(この点でコンサルティングファームとそのクライアントはwin-winではあったのだが、近頃クライアントは自社の人材流出に頭を悩ませる事態となっている)

コンサルティング市場が伸びている=戦略コンサルティングのセグメントも同様に伸びている、と考えている方がいるかもしれないのでもう少し深く考えてみたい。戦略コンサルタントは年々経験者が増えている=大企業の経営企画部にはMBB出身者が増えてきているし、コンサルティングファームに戦略策定を外注する必要性も一部のクライアントでは下がってきている。伝統的な戦略コンサルティングは形態が変化してきており、クライアント経営企画部のMBB出身者の戦略策定のサポートであったり、その戦略実行のサポート=PMOというケースが増えている。とすれば、伝統的な戦略コンサルティングの一部はこのように形を変えることで単価が落ちてきているはずである。(ただし、単価が落ちた分ケースの期間は長くなっている。)
旧来の伝統的なコンサルティングの案件は減り、形を変えたような案件は増えている、というのが筆者の主観である。なお、伝統的な戦略コンサルティングに分類されるであろうM&A戦略やBDDサービスのニーズは、近年PEファンドの数が増えていることから増しているように感じる。

なぜベイカレントは伸びているか?:事業戦略

成長の理由を概念的に言うと「クライアントむけ市場と人材市場という2つの市場で競争力があるから」となる。もう少し具体的に言うと「クライアントには競合他社より安い価格でコンサルティングサービスを提供でき、従業員には競合他社より高い給与を支払うことができるから」である。

まず、ビジネスにおける成長のエンジンが回っている状態を定義すると下記4つの指標が高い状態にある、ということになる。

  • ビジネス面(クライアント先市場)

    • 新規案件の獲得数

    • 既存顧客のリピート率

  • 採用面(人材市場)

    • 新規参画者数

    • 参画者のリテンション率(在籍年数)

ベイカレントは提案時の金額が競合するコンサルティングファームよりも安い。しかも「圧倒的に安い」と発注経験のある方から聞いたことある。一方で給与はBIG4の同ランクよりもベイカレントのコンサルタントは100万円ほど給料が高い。また、事業会社からベイカレントへ転職すると100-200万円ほど給料があがると思われる。

ここで疑問になるのは、なぜベイカレントはBIG4より安いフィー体系であるにも関わらずBIG4より高い給与を従業員に出せのるか?である。
もしあなたがBDDでベイカレントの現状分析をするコンサルタントであればこれは最も重要な論点の一つになるはずである。

この不思議な仕組みを説明する際によく巷で言われることは、
「外資系のファームはHQにブランドライセンスを支払う必要があるが、ベイカレントは国内の独立系であるため、それを支払うする必要がないためだ」というものである。OpenWorkなどでも一部でそういったコメントが見られる。

だが実際にそれだけでは説明がつかない部分があるのである。一般に、ブランドのロイヤリティの相場は2-3%であると言われている。成功したブランドでは10%を超えることもあり、コンサルティング業界においては後者に近いフィー相場なのではないかと思われる。それでも(詳細は割愛するが)この要素単体ではこの仕組みを説明しきることはできない。

とすると、視点を変えるべきなのである。この仕組みを考えたのは元マッキンゼーの戦略コンサルタントであるベイカレントの経営陣であり、そこにはより深い戦略的な意図がある、と考えた方が自然である。戦略とは「何かを捨てること」であり、ベイカレントは他の要素も捨てる選択をしているはずである。

そうするとベイカレントの事業戦略には下記の捨てた要素が垣間見えてくる。

  1. 高いコンサルタントの稼働率

  2. 低いパートナーの給与設定

  3. 最小限の設備投資(不要な投資の抑制)

  1. 一般的なファームのコンサルタントの稼働率は70-85%程度に設定されているが、ベイカレントはIR情報ベースで90%近くある。

  2. SMからPにあがっても給料はそこまで大きく変動しないようである。
    Pの年収は3,000万-数億円ほどのレンジがあるが、ベイカレントにおいてはそこまで高くなさそうである。

  3. 不要な投資をとにかく避けているようである。システム面やナレッジマネジメントを現在拡充しているが、近年まではかなり質素なものであった旨がOpenWorkなどのコメントで見受けられる。「創業者がアメーバ経営を崇拝している」とのコメントもあることからも、コスト意識はかなり厳しいのではないかと察することもできる。

ここまでコンサルタントに高い給料をオファーするために徹底したコストカットをしている、というのがベイカレントの戦略として理解いただけたかと思う。

しかし、これは戦略的なアクションのかなり表面的な一部である。実際にはより深く練られたインテリジェンスがあると筆者は考えており、その洞察は次回のnoteにて記載する予定。

次回はこちら

第3回(最終回)はこちら。あなたのキャリアについて




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