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みんなを笑顔に、カイザーシュマーン

みなさんはカイザーシュマーンをご存知でしょうか。

この名前を初めて聞いた人は、言葉の響きから何のことを指していると想像するだろうか。どこかの地名か、もしくはヒーロー戦隊の名前か、と想像された人もいるかも知れない。僕としてはなにやら強そうな印象を受ける。

でもこれは地名でもなく、ヒーロー戦隊でもなく、そして最強のラスボスの名前でもない。ドイツの一部の地域やオーストリアなど食べられる、食べ物の名前。

カイザーシュマーンとは

見た目はだいたいこんな感じ ↓

カイザーシュマーンはパンケーキの一種のようなもの。食感は結構フワッとしている。味はどう表現したらいいだろうか。粉砂糖がかかっていることもあって、ほんのり甘め。ただ、それほど明確な味があるわけではない。

デザートと言えばデザートなんだけど、食事として食べられることも多い。僕が働いていたドイツの会社では、会社の社員食堂で金曜日のお昼ご飯として提供されることもしばしばあった。

なぜ金曜日か?この風習にはちょっと解説がいる。

僕が働いていたドイツの会社が位置する地域は、伝統的に信仰心が篤いキリスト教・カトリックの地域。もともとカトリックの伝統の一つとして、金曜日は肉を食べないという風習がある。金曜日はキリストが磔にされた日なので、受難の曜日として節制するため。まあ現代では、厳密に意思を持ってその風習を守っている人なんて聞かないけれど。

ただ、そこはさすがに伝統を重んじる保守的なドイツ。昔からの伝統は、たとえ軽くなっても何らかのかたちで脈々と受け継がれているもの。そのため僕の住んでいた地域では、現代でも「金曜日はお昼ご飯に魚を食べる日」というイメージがある(注:魚は肉には分類されない)。そのため社員食堂では金曜日に魚が提供される割合が多いし、同じく「肉を食べることを避ける」という文脈で、このカイザーシュマーンが提供されることもあった。

って、日本人の僕からしたら、お昼ご飯に魚が出てくるのは極めて普通のことだし、パンケーキのような食べ物がお昼ご飯に出てきても、要はお菓子っぽいものを食べて浮かれ気分で週末に突入するのかしら、って程度にしか思っていなかった。そんな背景があるなんて、現地の人が解説してくれるまでは知るよしもなく。

作り方

さて、作り方。カイザーシュマーンは小麦粉・卵・砂糖・牛乳など混ぜたものを、バターを塗った巨大なフライパンに入れて焼く。この中にレーズンが入っていることも。

そして焼けてきたら、鍋の中で生地を細かく切ってしまう。そうやって砕かれた小さな塊をすくってお皿に盛る。もしくは、この写真のように、薄い鉄鍋に入れられて提供されることも多い。

ちゃんとしたお店で頼むと注文してから焼いてくれるんだけど、その場合は注文した時に「20分くらい時間がかかるから覚悟しろ」と言われる。

僕の個人的な印象によると、レストランで注文して「時間がかかるぞ」と言われるのは、パエリアかカイザーシュマーンか、この2つが二大巨頭。

食べ方

粉砂糖が掛かっていることが多いが、この粉砂糖はそんなに甘くない。

そして前述のように、カイザーシュマーン自体はそれほど明確な味がついているわけでもないので、基本形としてはリンゴムースを付けて食べる。上の写真にも、リンゴムースが付いている。またはそれに加えて、ベリーのコンポートがついてくることも。

食べる状況

これが重要。

家庭で作る人もいるんだろうけど、外でみんなで食べる状況も多い。レストランや社員食堂で食べたり、あと僕としては特に「山小屋で食べる」というイメージが強い。

①山小屋で

むかし記事で書いたように、ドイツ人たちは山小屋でビールを飲みながら甘いものを食べて平気な食習慣。その「甘いもの」はケーキだったりするけれど、時にはカイザーシュマーンだったりする。

下の写真も、息子と「登山&そり滑り」へ行ったときに、山頂の山小屋で食べたもの。

手前が僕のカイザーシュマーン、向こうのお皿は息子のクヌーデル

それだけではない。この下の写真は、会社帰りに同僚たちと夜のそり滑りに行った時に食べたもの。

夜の山頂の山小屋で

むかし記事で書いたように、会社帰りに同僚たちと車で山に行って、すっかり日が暮れた山道を、ヘッドランプを点けてそりを曳きながら山頂まで登る。ソリを山小屋の前に置いておいて山小屋へ入り、みんなでビールを飲みながら晩ご飯を食べて、デザートはカイザーシュマ~~ン。ふふふ。

お腹も膨れたところで、おもむろにヘッドランプを頭に装着。外へ出てソリに乗って、頂上からふもとまで滑り降りる。口の中でカイザーシュマーンの風味の余韻を楽しみながら。

②ビアガーデンやレストランで

カイザーシュマーンはビアガーデンでみんなでワイワイ食べることも。オープンエアの気持ちいい空気の中で、友だちと甘い食べ物を食べるって、心が満たされるよね。

ちなみに、街のレストランで提供されるカイザーシュマーンは、現代風にアレンジされたものに出会う可能性が高い。下の写真のように、イチゴやブルーベリー、ラズベリーなどが混ぜられているものも。さらには、リンゴムースにアイスクリームなんか載せちゃって。

本体の色が濃いからカラメルで焼かれているはず

まとめ

いかがだったでしょうか、オーストリアやドイツの一部の地域で食べられる、カイザーシュマーン。

ご覧のとおり、カイザーシュマーンは様々な状況で食べられる。幼いころに家族で山登りした楽しい記憶や、ビアガーデンで友だちと楽しく過ごした時間などと結びついている人も多い。

食べ物は、どういう状況で、どう味わうか、どう楽しむか、がカギを握っていて、それが食べ物に意味や物語を与える。つまりカイザーシュマーンは、味がどうこういう次元を超えて、人々の心の奥深い情緒と強く結びついている食べ物だと思う。

そして、そうやってみんなの情緒と強く結びついているからだろう。ドイツ人たちはカイザーシュマーンという言葉を聞くと、なんとなくみんな笑顔になる。そして「オー、カイザ~シュマ~~ン・・・」とか愛を込めてつぶやいてみたりする。こんなに強そうな雰囲気の名前にも関わらず。

ということで、みんなから愛される食べ物。

みんなを笑顔に、カイザーシュマーン

by 世界の人に聞いてみた

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