月夜の砂漠とワイン〜わたしの好きな器その1
以前、ご家庭に揃えておくと便利な器選びや、料理と合わせやすい器の色についてお話しさせてもらいましたが、
今回から、かなり個人的な、自分好みの器についての話をしてみようと思います。
ふだんの食卓の一隅に在ると、他の器を優しく引き立てまとめてくれる器が好きで、何客もあるのにまたほしくなってしまう、と前述しましたが、
棚に並んでいるのを見るだけで、幸せに。
読んでいただけたら有り難いです。
(馬上杯)
写真は益子焼.月兎窯の作品です。
酒器を下から支える高台が握りやすいように高く作られているもので、もともとは中国やモンゴルの騎馬民族が使っていた酒器だそうです。
馬の手綱を持っていないほうの手でこの高台をつかみ、馬に乗りながら酒を飲んだり、首からぶら下げ携帯されていることもあったとか。
その後、上杉謙信など戦国時代の武将たちも、戦に持っていき勝利の美酒を愉しんだようです。
すっくと頼もしく立っている姿のせいか、なんとなく縁起のよさそうな姿形にも映りましたが…
どんなお酒を飲んでいたのだろうと話していたら、
家人から、王翰という人の涼州詞という漢詩を教わりました。
ぶどうで作ったうまい酒を、夜中も光る杯(さかづき)に注ぐ(そそぐ)。
飲もうとすると、(誰かが)馬上で琵琶を弾いていて、酒興(しゅきょう)をそそる。
(たとえ私が)酔っぱらって、この砂漠(さばく)(=戦場)に倒れ伏しても、君(きみ、(二人称))よ、(私を)笑わないでくれ。
昔から、この辺境の地に遠征して、いったい何人が(生きて)帰ってこれただろうか。(私は生きては戻れないかもしれない。)
という意味だそうです。
勝利の美酒、とは少し違う戦場の光景が浮かんできます。
西域の広大な月夜の砂漠のまんなかで馬に乗り、
酒興に任せて呑むのは葡萄酒。
杯の中には、まぁるい月が映っていたり。
美しいのにどこか胸をえぐられるような詩でした。
うつわ同士の組み合わせをするときに、高低差で変化を持たせることがあります。
かたちが様々でも、全部同じ高さなのと、さまざまな高さがあるのとでは、その景色や奥行きにかなりの違いがあり、奥に高い器があると全体が落ち着きます。
酒器の他にも、少し大きめで、高台がやや低めの茶碗を骨董店などで目にすることがありますが、これは、茶道で使われる馬上杯です。
初午(2月の茶事)に使われるようです。
自分の器になったなら、そうした小難しいことは横に置き、使い方は自分のお好きに。
お酒で楽しむほかに、ちびちびと頂きたい貴重な珍味を盛ってみたり、
ビーツのスープやジュンサイの酢のものなど、ちゅるんと飲み干せるような料理を各々に供するのも、食卓にメリハリがつくので、お勧めしたいです。
スイーツもデザートグラスのように楽しく使えます。
馬上杯に盛りたい料理
2色オリーブとマイクロトマトのマリネ
ウニ、いくら、あわびと海藻を盛り、魚貝のスープジュレをかけて頂く
魚卵添えのひとくち素麺
生姜のグラニテ(ざらざらしたシャーベット)
まだ一つ目で、こんなに延々と独りよがりを書き連ねてしまいました。
まずはその1。次はまた後日綴ろうと思います。
最後まで読んで頂き、ありがたく存じます。
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