見出し画像

マティスの色、スペインの味。


先日、東京都美術館のマティス展に行ってきました。

彼の人生の中盤以降の作品には、
殊に元気をもらえる色が溢れかえっていました。

風景自体の持つ色ではなく、
描く人の思いの中にある色選びのなせる、
この鮮やかさ。

絵から発せられている、
力のような光のようななにかを少しでも頂きたくなって、
目と心に残すだけではどうにも心許なく、
撮影可のフロアで、衝き動かされるようにシャッターを押してきました。

文筆家には文筆家の、
ビジネスマンにはビジネスマンの、
絵を見る人の心をゆったり癒すような肘掛け椅子のような絵。
マティスという画家の描く動機の中に、
そんな思いがあったことを初めて知りました。

常に実験的な創作を重ねていた彼が
難しい大腸癌の手術を乗り越え、体力の衰えと寄り添いながら見つけたのが、色鮮やかな紙を使って切っては貼る、切り絵だったそうです。
それが今もなお、まるで古ぼけることも色褪せることもなく、胸に迫ってきます。

また、晩年に手がけたヴァンスの小さな教会では、キリスト像からステンドグラスに壁画、法衣、何から何までを手がけられたそう。
まさに彼の最高傑作ではないかと思えてなりませんでした。
ときに座りながら、そうかと思えば脚立に昇りながら、壁にひたすらに絵を描く姿も、写真に残されていました。

朝から昼、そして晩へと移り変わる、教会の光と影。
黄色と青のステンドグラスを通した光の変化の美しさの中に我が身を置いてみることができたら…
そんな心持ちになるとともに、
差し込む光に包まれながら、このできたての教会の椅子に座ったとき、
作者はどれほどの多幸感に包まれたことだろう、
人生の締めくくりにこれほど相応しいキャンバスはきっとなかっただろう、と思いを巡らせていました。

自身の情熱を爆発させるより、
他者の幸せに役立ててもらいたいが故の創作、
という動機だからこそ、長く弛まずに続けられたのかもしれません。

衰えても、いつまでも若い頃の情熱を忘れなければ、いくらでも挑戦を続けていける。
…と、頭では分かっていても、
命の灯火尽きるまでそれを実践し続けるなんて。

人生の秋に差し掛かっている自分と比べては、
そんな彼にひたすら憧れるばかりでした。

挑戦し続ける情熱のほうはさておき
誰かのために役立ちたい気持ちのほうで、
なんとか彼を見習ってみるつもりです。


華やかな色にたくさん触れたあとは、
料理も元気なものを作りたくなりました。

食べ物の鮮度が心配になる頃でもあるけれど、
こんなときこそ、お酢やかんきつを使ってさっぱりと夏を先取り!です。

残っていたバゲットと野菜で、
今年初のガスパチョ。
作ったというか、ガーっと混ぜただけですが。

ものすごくカンタン。
きりっと冷やしたいけれど、
冷やす時間のない忙しいときには、
濃い目に仕立ててロックアイスを2~3個入れ
一緒に粉砕してしまいます。


*すぐに出来るガスパチョ レシピ

材料
完熟トマト3個、ピーマン1個、赤パプリカ1/2個、きゅうり1/2本、セロリ小1本、玉ねぎ小1/4個、にんにく1片、余ったバゲット 2センチ厚さ1枚、オリーブ油大さじ1、好みの酢小さじ1~2(お好みで)、塩胡椒各少々、氷
トッピング用パプリカ・玉ねぎ・きゅうり各少々

作り方
1、トマトは湯むきしてへたを取り、4つ割りにする。ピーマン、パプリカ、きゅうり、セロリ、玉ねぎも同様に粗く切っておく。バゲットも4つ割りに。これらを全てミキサーかフードプロセッサーに入れ、
オリーブ油、酢に、氷も入れて、全体を細かくなめらかになるまで粉砕する。

2、味をみて酢と塩胡椒で調味する。トッピング用の野菜をみじん切りにして添える。

こすと口当たりはなめらかですが、
そのままの方が、からだに嬉しい仕上がりに。

チリパウダーを少し振って、
冷たいうちに、急いで飲み干しました。

出来上がりはスプーンの上で山盛りになるくらいとろっとしていても、
味つけしているうちに溶けた氷の水気が増して
次第にさらりとしてきます。
それでも固い場合は、水を少々加えてください。


もう一つ。
とっても小さいけれど新しいブラウンマッシュルームの大袋に出会ったので、
ガスパチョにあわせて、
マッシュルームのセゴビア風も作り、ワインのお供に。

生ハムと、マッシュルームの軸、パセリをみじん切りにして、混ぜたものを
マッシュルームの中にきっちり詰める…には、
きのこのサイズが小さすぎたので
たこ焼きのたこの要領でぽんぽんとのせ、
オリーブ油と塩をかけて220度のオーブンで10分焼きました。
オーブンがなければ、アヒージョのように鍋で温めて作ることもできます。
お好みでレモンを絞るとさっぱり頂けますし、
バゲットなどのパンとともに供すれば
上にのせたり、底に残ったオイルをつけたりして楽しめる一品です。
ぜひ、豚肉と塩だけで作られた生ハムで。


もう一品は、
冷凍の茹で牛すじを使って、じゃがいもと一緒にパプリカ風味にしました。

スパニッシュ肉じゃがと勝手に名付けています。

牛すじは時間のあるときにゆでて冷凍しておいたもの。
時間がなくても煮込み料理を気楽にやろうと思えます。

しっかりゆでてあるので、
見た目よりさっぱりといただけます。


作り方はこんな感じです。

1、にんにく、玉ねぎと茹で牛すじを一緒に炒め、赤ワインをふって、強火でアルコール分を飛ばしたら、
ブイヨンをそそぎ、中火にしてあくをとりながら煮ます。

2、あくの出が落ち着いたら、大きめに切ったじゃがいもを入れ、パプリカ(スパイス)を小さじ1/2ほど加えて、ローリエを浮かべて煮ます。
(この日は生のローリエなので、多めに3枚入れました。乾燥なら1~2枚で大丈夫。)
マッシュルームの料理で余ったみじん切りの生ハムと、マッシュルームの軸も入れてしまいました。

3、煮汁が少なくなり、とろみがついてきたら
全体を大きく混ぜて塩胡椒で調味し、仕上げに少しのバルサミコ酢、パセリのみじん切りを混ぜて。


牛すじのかわりに、豚のスペアリブで作るとぐっと豪華に、ソーセージならぐんとお気楽に。

ジャガイモの他に、豆やトマトを一緒に煮込んでもこっくりと美味しくなります。


銀行でも官公庁でも、
誰もが昼寝の時間をきちんととり、
夜更けまで飲んで食べて語り合っていたスペインの人たち。

30年以上前、働きづめでやっと取った数日間の休みを使って初めてスペインを訪れた私の目には、
スペインの人のほうが人生を何倍も楽しんでいるように映りました。

けれどここへ来て、スペインは意外に深刻な財政破綻をきたしているそう。
EU統合で、シエスタ(昼寝)廃止を議論され、
勤勉な人が勝つ風潮に変わりつつある今に失望して、人々の就労意欲がさらに薄れたのかも、
なんてつらつら考えたりしています。


ガスパチョに、懐かしい皿を久しぶりに使ったせいか
ふしぎと昔の色んなことが思い出されて、
なんだかいい夜になったようです。

音楽はしばしば心を大きく動かしてくれますが、
それに負けないくらい、
絵やうつわなど、暮らしの周りにあるモノ達の力はあなどれない、と
マティスの絵を改めて思い返した夜でした。


この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?