見出し画像

カスタマーサクセス的な業務を実践するコールセンター事例(2):チャーン抑止

前回に続いて、「カスタマーサクセス的業務を実施しているコールセンター事例」について。今回は離反(チャーン)抑止の事例です。

ただしこれ、顧客満足の観点では、成功事例より失敗事例の方が多いかもです^^;
典型的なのは、Webで簡単に入会・契約できるサービスで、退会のときの手続きがむっちゃ面倒というもの。顧客に退会をあきらめさせるやり方ですね。いわゆる「ダークパターン」というもの、あるいはそれに近いケースですが、正直、枚挙にいとまがありません。

ダークパターンの種類。オレンジ色のところが今回の

僕は、カスタマーサポート(コールセンター)やカスタマーサクセス部門は、こうしたCXが著しく低下するプロセスを内部告発、というほど大げさではないとしても、改善を主導すべきだと思っています。なにせ、「VOC(顧客の声)」という錦の御旗を持っている部署なのですから。

「オススメ」の科学

で、成功事例です。この手の取り組みは、定期購入のプロダクトやサービスが多いのは、BtoBのカスタマーサクセスに近いです。

特徴的だったのは、衛星放送コンテンツサービスの2社、W社とS社。まずW社は、入退会データを徹底的に分析して解約されやすい傾向を把握。リテンションカルテという個客ごとのデータを取りまとめたツールを開発し、ジャンル、加入月など膨大な種類のデータを掛け合わせて60以上のパターンを作成しています。解約の電話を受け付けた際、抑止トークのスクリプトがパターンに応じて自動表示される仕組みです。
また、「番組レコメンド支援システム」も自社開発しており、顧客ごとの趣向や、視聴したコンテンツから得た感情を電話の際にヒアリング、インプットすることで、今後オンエア予定の番組のなかからお勧めをオペレータの操作画面にやはり自動表示する仕組みを作っています。
これ、例えば「インディ・ジョーンズを視てたから冒険映画をお勧めする」みたいな単純なものではなく、「インディ・ジョーンズ視てた人はワクワク感だけではなく考古学に対するロマンも感じている」という分析結果のもと、遺跡案内番組をオススメする、みたいなレベルのモノです。これらをまだAIなんて話題にもなってなかった2010年代の半ばに開発して実践しています。

退会時の顧客体験向上と「再加入」

S社の取り組みは、「退会を抑止しない」というもの。これ、実はW社も同様の取り組みをしています。
例えばテニスの4大オープンや、毎年やっている大物アーティストの年越しライブなどがお目当てで加入する顧客は、どう頑張ってもなかなか抑止できるものではないんですね。ならば、退会時のカスタマーエクスペリエンスを向上することで、「また時期が来たら再加入しよう」という気持ちを促すという取り組みです。
ポイントは、「退会後も何らかのつながりを持つ」ということ。例えば、視聴はできなくなってもアプリは生きている状態を維持してもらうことで、「4大オープンはじまりますよ〜」「今年も●●さんのライブ、配信します!」などのレコメンドができる。
これはBtoBのサブスクでも応用できるのでは、と思っています。例えば、パブリッククラウドのサービスの場合、個別開発が難しくて「この機能があったら続けるのになー」みたいなニーズに即、対応できないことは多いかと思います。それで離れてしまった顧客と、何らかの繋がりを持ち続け、その足りなかった機能が実装された際にレコメンドする、みたいなやり方です。
チャーンレートに加え、「再加入率」もKPI化したほうがいいのではと思います。

転職先での利用をKPI化?

あと、日々取材して感じるのが、サクセス/サポートともにジョブホッパーがかなり多く、転職がひんぱんということ。それも前向きな転職です。
で、そうした人たちはとても優秀なので、転職先でもそれなりの発言権を持つことが多いと感じます。何が言いたいかというと、「転職先で同じITツールを使う、あるいは使いたがる傾向が強い」ということ。これ、トラッキングしてKPI化すれば、いわゆる「ファンの可視化」ができるのでは、と思います。
このケースはコールセンターでも取材したことあります。例えば、むっちゃ高額で入れ替えも面倒なプラットフォームで、A社のソリューションを使っていたマネージャーは、転職先でちょっと機能が追いつかないB社のプラットフォームに耐えられず、上層部に具申してA社にリプレースするとか。
担当者が転職した場合、「バイバイ」で終わらせるのではなく、「次」をちゃんと追っかけることのできる関係を築くのもサクセス/サポートのミッションになりそうな気がします。

2つのチャーン抑止を理解する

退会抑止には、「そもそも退会しようという気持ちを起こさせないようなカスタマーエクスペリエンスの提供」と、「退会時の申し出の際の抑止の水際作戦」の2つがあります。前者ができれば理想。ですが、なかなか難しいのも事実なので「退会時のCXと再加入率の向上」は今後、サブスク時代において大きなカギとなりそうですね。
ちなみに、水際一歩手前の施策として、MA(マーケティングオートメーション)ツールを利用して、「一定のしきい値を超えて利用率が低下したユーザーに自動的にメール配信する」という取り組みも取材したことあります。確か小売店向けのクラウドサービスを提供している会社で、一定の成果をあげていました。ポイントは「しきい値の設定」でしたね。

前回のアダプション事例もそうですが、やはり要諦は「顧客理解」。要はDBです。
次回のエクスパンションももちろん同じです。来週、アップ予定っす。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?