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2020年2月の記事一覧

茨の兎

遠い月を見て
何かを思い出す
追われた兎
茨の中だけが
この世で唯一
信じられる
場所だった
大鎌で刈られた
茨の盾は砕け
狩られてもなお
届かない月明かりに
手を伸ばし消えた

パインアップル

寂し過ぎるこの街で
パインアップルケーキを
カフェで頼むマーロウ
繊細な心を壊して
狂い出した知らない誰かが
凄惨な事件を起こして
ノワールの中に戻るまで
遠くを眺めていたい
何かに許されるならば

仮狩り

顔を隠した者達が
その姿を現す時
無防備な躯は狩られ
白昼に晒される
だから本当の事を
話してはいけない
人の振りをした何かに
喰われてしまうから
無垢な骨だけを残して

破れたタンバリン

稼げないと知っても
君はタンバリンを叩く
流星が落ちない夜に
素敵な夢を追いかけ
何れ老いさらばえ
僕の事を忘れるなら
叩けないタンバリンを
破いてあげるよ
そうすればきっと
僕も君を忘れられるから

ダダリオEJ

張り詰めた夜に
敷かれた戒厳令が
街から溢れ出して
皆、何かに手を合わす
もう全てが遅過ぎて
間に合わなかった
僕はダダリオの弦に触れ
懐かしい日々を
思い出す振りをする
まるで人みたいにさ

聞こえるか

ハローベイビー
聞こえるか
掠れた声の
ロックンローラーは
ヤマハのギターを
弾かない気がする
ハローベイビ―
知ってるか
ノイズが飛んでる
ブラウン管を
眺めていたら
サルビアが
話しかけて来て
大人に為るって
悲しいねと
言って消えた
砂嵐の向こうに
聞こえたか
ハローベイビ―

残酷なシティーポップ

管楽器を奏でる天使は
その翼で未来に向かう
穢れなき空に描いた
21色の虹を編み込んで
異常な博士は愛を込めた
この世界にミルクシェイクを
撒き散らして微笑んでいる
静かに傾く視界すら楽しみ
悪魔が歌うシティーポップは
全てを灰に帰して途切れた

ショータイム

惑星から盗んだミラーボール
さらさらと消える誰かの名前
抱き締めたガットギターは
眠れない夜に溶けてしまった
舞台袖に隠れたピエロに
与えられた役は幕を引く事
さあ始めようこの舞台は
皆が降りる為にあるのだから

ベルリネッタ

ヤンキーが乗り回す
右目が潰れたベルリネッタ
彼はまだ知らない
大人に為る自分を
生き続けて馬鹿になるより
この瞬間を楽しみたいだけ
だから今日も
揺れているのさ
二つとないこの
カマロの心臓を震わせて

窓の右に覗く赤い月を

義足の傭兵は
戦場でジャズを聴く
これが最後だと
何度も口遊む
故郷の部屋で
窓の向こうから
覗いた月の下
彼は争い続ける
ジャズのテープが
途切れるまで

エンジンチェーンソー

曖昧な午後に紅茶を
弱者の罪には罰を
何でも切り裂くチェーンソー
良ければ俺の憂鬱も
噛み砕いてくれないか
狂ってしまいそうな
この日々を忘れる為に
骨すら残らないとしても
其処に貴方がいなくても

シロップ

地面に零した
あの日の約束が
反故にされても
気にしないぜ
だけどパンケーキに
掛けるシロップが
偽物なのは
許せないから
償って貰う
その曖昧な命で

そんなに好きじゃなかった

貴方の事をすぐに忘れて
知らない人と幸せに為るの
そう言いながらあの人は
泣いたりしなかった
本当に強い人ならば
涙を見せ付けたりしないと
修羅であった父が言ってた
今ならその意味が分かる
そんなに好きじゃなかったと
自分を慰めたりしなければ
何処かですれ違っても貴方を
思い出したりはしないから

冷血

不安をかき立てて
記事を売る新聞屋
其処に血は通わない
偽物の中に本物を
僅かに必ず混ぜる事で
記事は飛ぶ様に売れ
名声も拡がっていった
幾ら有名になろうが
熱く為る事は出来ず
最後は事件を偽装した
安楽な欲望を求めて