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破れたTシャツはいつ捨てればいいのか

Tシャツに穴が空いた。穴が空き始めたのはもう一年以上も前のことである。肩先にあったはずの小さな穴はどんどん広がっていき、今では首の根元までその空隙が侵蝕してきている。

お気に入りのTシャツだったのかと訊かれたら答えに窮してしまう。ただ、いつも着ていたから、何度も洗ってくたびれた生地が柔らかくて、寝巻きには丁度良かったから、私はそのTシャツをいつ捨てればいいのか分からなくなってしまった。Tシャツなら他にもあるはずなのに、何故かその破れた穴を眺めては、広がっていく暗い隙間に吸い込まれるかのように袖を通してしまう。

なら、どうして穴を塞ごうとしないのか。裁縫道具さえあれば、縫い合わせることができるのにと、誰もが思うだろう。しかし、私には針と糸を恣に操る術がない。小学校の家庭科の授業で習ったはずの裁縫は、未だに苦手なまま。

私の肩に空いた穴が、そこにあるはずのない重みを感じさせる。

そこには何もないのに、何かがある。それが穴なのだ。

破れたTシャツを今日も着る。この穴に身体が馴染んでいく日を待ちながら。

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