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札幌五輪で北海道滅亡?2030年冬季オリンピック招致で何が起きるのか

こんにちは、烏丸百九です。

先日21日に、北海道札幌市が現在招致を目指している「2030年冬季オリンピック」に反対するデモ行進が同市内で実施されました。

このデモ、実は私も参加していたのですが(写真には写っていません笑)、市民団体と言っても「活動家」的な色彩は薄く、主催は市民の大学生グループで、共産党議員やれいわ新選組のサポーターズなどが協力していたようでした。

「共産党ぐらいしか反対してないじゃんw」と笑うかも知れませんが、驚くべき事に、札幌の立憲維新党……じゃなかった立憲民主党は自民党とタッグで札幌五輪に賛成しているので(正確には市政与党である札幌市議会民主市民連合≒立憲民主党であるため、市議会では「与党」としての立場を打ち出している形)、当然反対デモには協力してくれず、れいわや共産党しか手を貸してくれないのです。「立憲共産党」というネトウヨの揶揄が如何に的外れか解りますね。

では、やはり私のような「左翼」や共産党ぐらいしか五輪招致には反対しておらず、市民の大多数は賛成派なのでしょうか? 
地元局の北海道テレビ(HTB)が取ったアンケートの結果がTwitterで拡散されていました。

今回は、全然市民に歓迎されてないどころか、積極的に反対されているのに「何故か」左右会派が一致して済し崩し的に招致が行われようとしている札幌オリンピックの問題点についてご紹介したいと思います。

1.本当に「コンパクト五輪」は実現可能なのか?

先の東京オリンピックが、「コンパクト五輪」なるお題目を掲げて、経費節減に見事に大失敗したことは皆さんの記憶にも新しいことと思います。

「コンパクト五輪」「アスリートファースト」「復興五輪」というスローガンも、内実が空虚な単なるプロパガンダにすぎなかった。
2021年12月現在、組織委員会が発表した経費総額の見通しは1兆4530億円。これに、会計検査院が発表している2018年度までの五輪関連支出約1兆600億円などを足し合わせると、総額は2兆5000億円を超える。これは、招致段階で示された約7400億円という当初の見積もりをはるかに上回る、夏季大会史上最高額となった。コンパクトとはほど遠く、もはや「蕩尽五輪」である。

「President Online - 「東京五輪の失敗を繰り返してはいけない」2030年札幌五輪を阻止するために今やるべきこと」より

もちろん、東京並の規模で開催できるはずもありませんし、そもそも夏季五輪と冬季五輪とでは参加選手の人数に四倍ほどの開きがあります。ということは、1兆4530億円の四分の一≒3600億円ほどの予算があれば、宣伝費用とか色々なよしなしごとはさておき「開催するだけ」は可能なように思えますが、札幌市はどれくらいの予算を見込んでいるのでしょうか?

札幌市は29日午後開かれた市議会の特別委員会で、2030年の冬のオリンピック・パラリンピックの招致に向けた新たな開催概要計画を示しました。
おととし公表した計画で、最大で3700億円と試算していた開催経費について、可能なかぎり既存の施設を活用し、運営に携わる要員を削減するなど見直しを進め、大会運営費を2000億円から2200億円、施設整備費を800億円の合わせて2800億円から3000億円とし、これまでの試算から最大でおよそ900億円削減しています。
計画では大会ビジョンとして「札幌らしい持続可能なオリンピック・パラリンピック」の開催を掲げ、大会のためだけの施設の新設は行わず、競技会場は市外を含めた13の既存施設を活用するとしています。
これら施設整備費について、市は現行制度に基づいた国の交付金などの活用を想定し、市の実質負担額は450億円と試算しています。

「NHK政治マガジン - 札幌市 冬の五輪・パラ招致
経費最大で900億円削減計画」より

安いわ!!

「最大の」予算規模でも私の予想する「必要最低額」とほぼ同値な辺り、東京五輪の有様から一体何を学んだのかとツッコミを入れざるを得ない、あまりに楽観的すぎる見通しです。

朝日新聞に掲載された鈴木知幸国士舘大客員教授(東京五輪招致にも関わったそうです)のコメントによれば、「(開催には)会場周辺の道路整備も必要となる場合が多いが、それも盛り込まれていない」とのこと。これは非常にクリティカルな指摘に思います。

何故そう思えるのか? 理由は簡単で、北海道札幌市が(道外在住の皆様のご想像に反して)無茶苦茶狭く、現状のまま五輪開催を強行した場合、一時的に都市機能が麻痺する可能性があるからです。

札幌の街情報」より、札幌市全図。

誤解なきように言っておくと、面積だけで見れば札幌市は大変広い街で、土地面積は1,121 km²に達し、これは東京都の全面積(2,194 km²)の半分を超えます。勿論人口密度も東京の比ではないため、一見すると東京五輪のような交通問題とは無縁に、北海道の広々とした土地でスポーツ観戦を楽しめる……ように思えます。

しかし、一般的な日本の市民にイメージされる「札幌市」、要するにさっぽろ雪まつり会場とか札幌駅とかすすきの歓楽街とかラーメンの名店とか時計台とか、そういった「名所」と呼ばれる場所の多くは札幌市中央区に集中しており、だだっ広い南区は大半が山林で占められています。ちなみに中央区の総面積は46.42 km²です。比較対象として、東京都江戸川区の面積が49.9km²なので、大体同じくらいです。

「でも札幌五輪と言うからには、南区などの広大な土地を活用するんでしょ?」と言われそうですが、市の計画を見ると、どうもそうではないようです。

札幌市が2026年度招致で公表した、具体的な五輪会場地図。

札幌市が2026年度招致を目指していたときに公表した資料(PDF)によりますと、中央の赤い○で示される札幌駅付近と、札幌ドーム(豊平区)を中心に、札幌市各所で競技を開催する計画だったようです。2030年も下の方にある真駒内公園(南区)や札幌ドームを利用するとのことなので、大きな計画変更は無いと思われます。
この地図を透過し、先程の札幌全図に重ねて見ると……

札幌全図と重ねた札幌五輪開催予定地(筆者作成・位置は割と適当です)

土地の三分の一も有効活用してないという意味では確かに「コンパクト五輪」と言えそうですが、東京と異なりしょせんは一地方都市である札幌市では、例えば札幌駅から札幌ドームに直接行ける地下鉄路線は一本しか走っておらず、住民の多くはバスや自家用車に頼っています。

想像してみて頂きたいのですが、ただでさえ都市機能の多くが中央区部分に集中している地方都市で、世界中から来た観光客が、唯一の交通ハブである札幌駅付近に集結し、そこから札幌各所の競技場に地下鉄やバスで移動するとしたらどうでしょうか? 五輪開催期間中、北区や西区に多くが居住しているサラリーマン達はどうやって職場に行くのでしょうか? テレワークはコロナ禍で出来る部分はとっくにやっていますし、そもそも田舎なので、どうしても人の手が必要な仕事(土木関係者とかね)も多いのです。

競技会場マップより、2020年東京オリンピックの各会場。

結局無観客開催となってしまいましたが、もし東京五輪が有観客で行われていたとしても、上記の地図を見ると、「ハブとなる交通要所が潰される」リスクを避けるため、会場を陸側と海側に分散していたことが解ります。最悪会場付近が通行不可に陥っても、あらゆる場所に電車やフェリーが走っている関係上、迂回ルートは多数確保出来たことでしょう。この辺は腐っても東京都というところでしょうか。

このように、明白な交通上の問題があっても札幌五輪を強行するとなると、地下鉄路線の増加や高速道を含む周辺道路の延伸・拡張など、極めて大規模な都市開発が必要となるのは確実です。そのお金はどこから出るのでしょうか?

2.札幌市の財政規模と五輪実施による財政負担度の検証

ここまで読んで、「寂しい地方都市にビッグビジネスのチャンスじゃないか!」と大阪府知事並みに前向きな考えを持つ人はあまりいないような気がしますが、しかし大規模開発によって雇用が促進されるのなら、悪いことばかりではないように思えます。

しかし、そうした希望的観測を打ち砕く現実があります。札幌市の財政規模です。

【北海道】札幌市は1日、2022年度予算案を発表した。一般会計は前年度比4・3%増の1兆1616億円と9年連続で過去最大となった。前年度に続き新型コロナウイルス対策やワクチン接種事業などで大きく膨らんでいる。同時に発表した21年度補正予算を含む「16カ月予算」の規模は1兆2483億円まで拡大する。
北海道新幹線の延伸計画には72億6500万円、札幌駅周辺の再開発事業には13億8900万円、札幌ドームの改修工事に10億400万円を計上した。

「朝日新聞デジタル - 札幌市22年度予算、9年連続で過去最大 コロナ対策膨らむ」より
同記事より、札幌市の財源グラフ。

百万歩譲って、札幌市の言い分通りに五輪開催費用が3000億円で収まったとしましょう。しかし、上のグラフを見れば一目瞭然ですが、札幌市の財政規模は一兆円ちょっとしかなく、しかも国庫支出金等を除く自主財源は4500億円程度。3000億円という金額は年間予算総額の約三分の一~四分の一に匹敵する巨額なのです。ちなみに東京都の今年の年間予算は7兆8千億円です。

最初のNHKの記事によれば、札幌市は「大会チケットなどで大会運営費を回収出来る」ので、市の負担額は3000億円中、450億円のみで済むと抗弁していますが、それでも一年間の教育費428億円を上回っており、450億円あれば札幌市全域の公立学校が一年運営出来るのです。一市民としては、そんな金があるなら素直に少子化対策でもした方が余程有意義だと思います。

仮に「ビッグビジネスのチャンス」により、本州のゼネコンが大挙して札幌に押し寄せたとしても、五輪関連費用が増大すればするほど支払いを請け負う市の負担額も増大するわけですから、そもそもこんなショボい財収では、数千億円の受注を回せる経済的体力が無いのです。

それでも無理矢理に財源を捻出し、開催を強行しようとするなら、借金≒公債費に頼るほか無いでしょう。そして、現状でさえ1兆6千億円を超えるとされる札幌市の公債残高が膨れ上がっていくと、別のリスクが浮上します。デフォルトです。

3.植民地的な、あまりに植民地的な

私の個人的な信念としては、二言目に「国の借金が~」と言い出す所謂財政緊縮派には反対の立場です。どんなに景気が悪かろうと、市民の生活を守るための福祉や教育への投資を恐れるべきでは無いと思います。

しかしながら、財政緩和派のれいわ新選組などが主張している国債発行による景気浮揚策は、あくまでも通貨発行権を持つ国家(日本国)が主体だから一定の説得力があるのであって、自主的な通貨製造能力を持たず、本質的に企業財政と変わらない地方都市会計で、「景気対策に公債をバンバン出すのは問題ない」という理屈は適用出来ません。そして、北海道経済の唯一にして無二の中心である札幌市のデフォルト・リスクの上昇は、そのまま北海道経済の破綻リスクの上昇を意味します。

札幌市民の多くが、特に地方財政の借金問題に関心が高いのは、言うまでも無く、札幌市が日本唯一の財政再生団体に物理的に近しいからです。

2010年の法改正で財政再生団体と名称は変わったが、予算編成にしても国の同意を得なければ、新たな予算を計上することも独自の事業を実施することもできない。「地方自治体」でありながら、「自治」が許されない。そんな自治体は、全国でも唯一夕張市だけだ。
夕張市の財政はいまも火の車だ。税収が8億円しかない夕張市が毎年26億円を返済するという計画は「ミッションインポッシブル」と揶揄され、毎年の予算編成も綱渡りが続く。

鈴木市長が就任した際に残されていた借金の総額は322億円。その2年後から利息に加え元金の償還が始まり、毎年26億円を14年間にわたって返済しなければならなくなった。一方、税収は年間8億円足らず。地方交付税の補填があるとは言え、市職員の給与カットや住民サービスの徹底的な切り下げを行わなければ返済不可能な金額だ。

鈴木市長は言う。
「家計にたとえれば、500万円の収入で、食費・光熱費などを出して、そのうえ260万円もの借金を返済する感覚です。住民サービスはすでに徹底的に切り下げており、これ以上削れる事業はありません。
財政再生計画は、夕張市の財政を建て直すことが最優先されており、夕張市民が負担に耐えられるかという観点が抜け落ちている。このままでは17年後(2027年)には財政再建できるかもしれないが、夕張市そのものが消滅してしまうかもしれないと思いました」

「NHKスペシャル取材班 - 夕張市破綻から10年「衝撃のその後」若者は去り、税金は上がり…」より

夕張市の超人口減少に対応した「コンパクトシティ」政策が評価された鈴木直道元夕張市長は、北海道知事に「栄転」したわけですが、「たとえ経済再建のためであっても、市民の負担を軽視してはならない」という(当時の)彼の思想と、北海道へのオリンピック招致は発想の根幹から対立しているような気がしてなりません。
自民党からバックアップを受ける現在の鈴木知事は、札幌市の「超積極姿勢」について、本心ではどう思っているのでしょうか。

上記記事より、2008年に廃止となった手稲山ロープウェー。

今回、実際に各競技施設を回ってみて驚いたのだが、札幌では雪上競技が行われる山々から市街地までが非常に近く、1日でほぼ半数の会場を訪れることができてしまった。招致推進する側はこれをメリットとして打ち出すのだろうが、万が一、札幌で大会が開催されるようなことになれば、人々の生活圏全体が五輪ムードと厳戒態勢に包み込まれてしまうということだ。貧困者の排除や、私権制限も各所で起こるだろう。
そして、72年大会時に建設された競技場や周辺インフラを目の当たりにすると、「改修」工事やそれに伴う自然破壊、オリンピック経費としてカウントされない周辺の整備や開発もかなり大規模になるように思われ、開発業者らの舌なめずりが聞こえてくるようだった。巨額の予算や資源は、大規模開発ではなく札幌の人々の暮らしのために使われるべきだ。
オリンピックは街を壊し、自然を壊し、人々の暮らしを壊す。

「NO OLYMPICS 2020> 反五輪の会 (Hangorin No Kai)>2022.7.19 札幌フィールドワーク報告」より

元々アイヌの人々の土地を強制的に奪った松前藩が勝手に作った街が現在の札幌市の原型であり、市民の大半も当時の和人植民者の子孫なわけですが、過去の民族浄化の反省やマイノリティの人権が唱えられるこの2022年になって、悪質な国内植民地化政策に全力で邁進するのは勘弁して頂きたいものです。

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