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『旅のラゴス』 読書感想文

『旅のラゴス』 筒井康隆


今日も読書感想文を書きたい。今日読んだのは『旅のラゴス』という作品だ。全250ぺージの小説なのであるが、読破に5時間くらいかかった気がする。読むスピードが落ちたらしい。


❐概要

『旅のラゴス』はラゴスという男が一生をかけて世界を旅する話である。作品の世界観について軽く説明しよう。

ラゴスのいる世界は現代のように文明が発達していない。市街地の外には広大な砂漠や森林が広がっており、全体として荒涼とした雰囲気だ。交通手段はスカシウマという馬が一般的で、道中夜盗に出会うことも珍しくない、中世チックな世界観である。北と南の国では文明の差があり、ラゴスは比較的文明の発達した北の国出身である。

発達しているといっても学問に精力的に取り組んでいる程度だ。科学的進歩は一切みられない。文明は発達していないが、その代替として何かしらの能力を有している人間が多く、例えば遠隔地へのテレポート(転移)、他者の考えを感じとる感応力などがある。しかし、大昔この世界を作ったラゴスたちの先祖は高度な先端技術を有していたらしい。その先祖は環境汚染で居住が困難になった自分らの惑星を捨て、ラゴスの住む星に宇宙船を使い移住する。しかし、そこで祖先は各々が培った文明を失い、その代わりに特殊な能力を習得し現在に至る、といった流れだ。

ラゴスの旅の目的は何なのか、これが物語のメインテーマである。旅立った当初は学校を卒業したばかりの多少裕福な家柄の青年であった。当初の目的は先祖が残した高度な技術に関する資料を探し、研究するというものであったが最終的には旅先で出会った愛する女性と再会を果たすために雪山を放浪することになる。



❐感想

ラゴスがモテモテ。ラゴスは道中いくつか村や町に滞在するのだが、行く先々で女性に見初められる。作者の願望なのだろうか、正直冷める。まあでも同時にラゴスが魅力的な男性であることは否めない。様々な危機を冷静に切り抜け、頭も冴える。何より知的好奇心が高く、先祖の資料を何年間も読み漁る場面からはラゴスの物事へ捧げる情熱を強く感じ、こいつの人生楽しそうだなと思わせるものがある。

作中でラゴスが奴隷として扱われるシーンが二回ほどあるが、読んでいてムカムカする。別段むごい描写はないのだが、ラゴスや他の奴隷を下等な人間として扱う奴隷商人や奴隷を使役するやつらのセリフに、おいおいこいつらほんとに人間かと辟易する。


読み終えた後、ラゴスを見て少し寂しい気持ちになった。全体的に悲しいストーリーではない。笑いもあれば、恐怖でハラハラする展開もある。しかしどうしても、悲しみと寂しさが読破後にこみあげる。


それはラゴスが最後まで満たされていないように僕には感じられたからだ。


僻地において先人の高度な資料を頭にインプットし、帰国後はその知識を国中に広め一躍時の人となる。その功績がなくてもラゴスは元来人望の厚い男であった。なのに満たされていない。それはやはり彼が人生において最も希求していたであろう、とある女性(ダーダ)との再会を果たせたかどうかが物語で明かされていないからだ。

きっとラゴスの最大の願いはダーダと結ばれることだったに違いない。知識を追い求めることもかなり大きな目的だった。しかし、ダーダの存在がそれを上回っていたと推測する。

ラゴスの願いが叶えられていることを祈るばかりだ。


結局ラゴスがなぜ旅をするのか、その答えは判然としない。作中で「わたしは一か所に留まることができない」などと言っていたが、どういうことなのだろうか。彼には常に何かを追い求める気性があったとでもいうのだろうか。


❐初耳単語集

・手淫→マスターベーション、

・段平(だんぴら)→幅の広い刀

・驟雨(しゅうう)→にわか雨

・猩猩緋(しょうじょうひ)→緋の中でも強い黄みがかった朱色

・蠱惑的(こわくてき)→人の心をひきつけ、惑わす



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