『天国への道』 ショートショート
~地獄にて~
地獄に来て3年がたつ。
思い返せば僕は度を超えた悪人だった。
殺人、窃盗、恐喝、痴漢。
あらゆる犯罪に手を染め傍若無人な生活を現世では送ってきたのだ。
やりたいことをただやっただけ。
被害者への罪悪感はゼロではないが、実際そこまで悪いとも思っていない。
だから死後、地獄に転送されたのも当然といえば当然だろう。
そこに文句はないが地獄というのはやはりどうかしている。
身体的にも精神的にも厳しい世界だ。
地獄では刑罰を受け続けることが罪人の日課であり義務である。
贖罪レベルによって罪人は区別され、そのレベルごとに刑罰の種類が異なってくる。
贖罪レベルはA、B、C、の3つに分けられ現世で犯した悪事を参考に罪人は各々に見合ったレベルの地獄に配属される。
Aに近づくにつれ課される刑罰は重くなっていく。
僕なんかはA級罪人の筆頭で日夜惨憺たる刑罰に悶え苦しんでいる。
棺桶に入り小一時間業火に炙られ続けたり、極度の飢餓状態に長時間陥ったり、何度も鉄の壁に押しつぶされたりと色々ある。
身体的な痛みを伴うものが多くそれらは何度も死にたくなるほどの苦痛だが、生憎僕たちはもうすでに命を落としているのだから再度死んでこの世界からおさらばするなんてことはできない。
そんな苦痛ばかりの地獄だが以外にも罪人に希望を与える制度がここには存在する。
それは天国への昇格試験だ。
かなりの難関だが合格すれば極楽浄土で暮らすことができるという大変夢のある制度だ。
閻魔様にも慈愛の精神があるようで少しほっとした。
試験の内容は以下の通りである。
①筆記試験
心理学的な問いをいくつか用意して受験者の心の偏差値を問う。
②実技・プレゼン
地獄内で達成した善行についての詳細を試験官である鬼の前で発表する。
一次試験で①が行われ、そこを通過すれば②が実施される。
その次の最終試験においても②の試験が再度実施され、これを通過すれば晴れて受験者は極楽浄土への切符を手にする。
鬼どもに「こいつはいい奴だな」と思わせれば僕たちの勝ちだ。
しかし、この試験がかなりの難関で噓は試験管に見破られるし、地獄では活動範囲が限られているわけだから善行の内容の差別化も容易じゃない。
過去に天国へ昇って行ったものもわずか5人というから驚きだ。
しかし、難易度の高さにもかかわらず挑戦者は後を絶たない。
それだけ地獄での生活がつらいということか。
皆地獄から抜け出すのに必死である。
数十回、数百回と不合格を受け取ったものも数多くいるのだが、その大半が未だに天国を諦めきれていない。
加えて天国がいかに快適で過ごしやすいところなのかを紹介する映像が地獄の至るところにあるスクリーンから常時流れている。
そりゃ憧れるにきまってる。
僕もその輩の一人だ。
いつか極楽浄土に行ける日を夢見て日々試験対策に勤しんでいる。
~試験官の休憩室~
鬼A「試験官を務めて1年が経つが、罪人ってのはほんとに愚かだよ。」
鬼B「まったくだ。天国に行ける可能性なんてこれぽっちもねぇのにな」
鬼A「そうさ、だってやつらはこれが刑罰の一環だってことに気づいていない。これほど愚かなことはないよ。」
鬼B「ああ、必死こいて頑張っても最終試験で必ず難癖をつけられて落とされるっていうルールだからな。」
鬼A「だな。しかも最終試験で告げられるんだろ?初めから天国に行かせる気なんてさらさらないってことをさ。」
鬼B「そうなんだよ、閻魔様も下衆なことをお考えなさる。でもなんであいつらは何度も受験しにくるんだ?」
鬼A「それはお前、記憶を書き換えてんのさ。不合格と理不尽な試験の詳細を告げられ落胆した3日後にその受験者の記憶は書き換えられる。君はあと一歩だった、またチャレンジしてほしい、みたいに美化された記憶にな。」
鬼B「そりゃあ、えげつねえ」
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