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「配信が生きる希望に」VTuber活動で脱生活保護 ファンの“投げ銭”と月額支援が支えに

「クリエイターエコノミー」という言葉が盛り上がっています。これは、個人が創作でお金を得られる経済圏のことです。

そんな中で、さまざまなジャンルのクリエイターさんの事例を集めている当メディアが今回お話を聞いたのは、バーチャルユーチューバー(VTuber)グループ・深層組に所属するVTuber・なまほしちゃん

”社会不適合者”を自称する彼女は、デビュー時から「生活保護受給VTuber」として活動し、社会や人間関係に対する考え方や、これまでの辛かったエピソードについての雑談配信をするという活動スタイルです。

雑談配信をするなまほしちゃん。動画はこちら

そんななまほしちゃんですが、昨年11月にはクリエイター支援サービスのpixivFANBOX(※)での売り上げが伸びたことが大きな要因となり、生活保護を抜けられたそうです。

※pixivFANBOXは、ファンがクリエイターを月額課金で支援し、その金額に応じて限定コンテンツを受け取れるサービスです。運営はピクシブ株式会社。

YouTubeのチャンネル登録者数は約2万人と、VTuberとしては決して多くはない数字ですが、ファンの支援によって活動で収入を得られているという彼女にお話を伺いました。

「VTuberなのに重たい話」のギャップがウケている

ーー普段はどういった動画を上げているんですか?

なまほしちゃん:雑談の生配信がメインです。

事前にテーマを用意して話すこともありますが、一人でいくらでも喋っていられるタイプなので、「今日も配信するか」と決めて10〜15分くらいで自分でサムネイルを作り、そのまま配信を始めるような気軽さでやっています。

内容としては、人生観のような話というか、自分が社会や世の中に対して思うことなどを話すことが多いです。少し前だと「自分の機嫌を他人に取らせるな」というタイトルで配信したりとか。

あとはたまにゲームの実況配信をちょっとするくらいですね。

ーーそういう雑談配信で、ネタが尽きないものなんですか?

なまほしちゃん:自分の場合、一般的な人があまり経験していないような暗いエピソードがたくさんあるんです。

“毒親”からのさまざまな虐待トーク、障害者手帳を持っているくらい身体が弱いこと、メンヘラネトストに粘着されて警察沙汰になったこと、社会不適合者なので毎月の通院さえヘルパーさんの送り出しがないとできないこと。

そういう自分の人生にとってマイナスでしかなかった話がエンタメになって、お金をいただくことに繋がるなら、こんなに良いことはないなと思っています。

10年くらい早く生まれていたら、スパチャなどもなくてお金も稼げず、生活保護を抜けられなかったと思います。この時代に生まれて良かったですね、本当に。

ーーそういった雑談は、どういう風に人気なんでしょうか?

なまほしちゃん:VTuberって、見た目も声も可愛い女の子がキャイキャイしているイメージがあると思うんです。

けれど、なまほしちゃんの場合は人生に苦労してきたゆえの重たい話とかが多くて、そのギャップを面白がってもらえている印象があります。

社会や人生に対してこういう風に思っていますみたいなことを話すと、達観しているとか、人生二周目っぽいとか言われてウケることが多いです。

視聴者さんは、ドキュメンタリーのように受け取って面白がっている人もいるし、なまほしちゃんに対して純粋に幸せになって欲しいみたいな人もいると思いますね。

配信活動が、生きる希望に

ーーVTuberとしての動画配信自体はどういうきっかけで始めたんですか?

なまほしちゃん:なまほしちゃんが所属しているVTuberグループ「深層組」の旧運営の一人と知り合いで、スカウトされたのがきっかけです。

当時、3年前くらいはイロモノの〇〇系VTuberが増えていた時代だったんですが、「生活保護VTuber」としていけるんじゃないか、みたいな感じでした。

元々YouTubeで活動をしたりはしていなかったんですが、おしゃべり自体は得意なほうでしたし、やってみようかなと。

生活保護で暮らしていくこと自体はできるので、お金稼ぎのためにやるというよりは、面白そうなことをやってついでにお金をもらえるならいいかという感じでした。

ーーじゃあ、最初は仕事にするつもりというわけでもなかったんですね。

なまほしちゃん:これは少し前の配信で初めて公開した、本当は墓まで持っていこうと思っていた話だったんですけど、生きていて良いことが何もないから、配信活動でお金を貯めて、外国に行って安楽死しようと考えていたんです。

ほごしゃさん(なまほしちゃんのファンネーム)たちがスパチャ(スーパーチャット。YouTubeにおける投げ銭機能)してくれたお金で、感謝しながら死ねたら楽しいんじゃないかと……。

ただ、純粋にほごしゃさんたちに応援してもらったり、なまほしちゃんの紹介で深層組に加入した息根とめるちゃんという子がVTuber活動を通じてい幸せになっていくのを見ていたりするうちに、そういうことをするのはやめようと思い直して。

だから、思い切って配信で喋っちゃったんですよね。

「やり残したことがまだいっぱいある」と話すなまほしちゃん。配信では、高額のスーパーチャット(YouTubeの“投げ銭”機能)が集まります。動画はこちら

ーーVTuber活動を通じて、人生に希望が生まれてきた?

なまほしちゃん:そうですね。今でもそうなんですが、あまり自分のために頑張ろうというモチベーションを保てないタイプなんです。

一方で、自分を大切にしてくれている人たちと一緒に幸せになるためなら頑張れるんだなと気づけました。

深層組にとめるちゃんが入ってから、その子がバズったりして、グループ自体に勢いが付いてやれることが増えたんですよね。

だから、みんなで頑張ろうという気持ちもあるし、良いグループに育てたいという気持ちも強まって。

ーー個人としてよりは、グループとして頑張りたいと。

なまほしちゃん:個人的な考え方ですが、クリエイターって結局、もちろんお金も大切なんですが、一番大切なのってやりがいがあることや、「この人のためならやりたい」という気持ちだと思うんです。

だから、ちゃんと深層組として盛り上がれることをやりたいんですよね。こう思えるのは、贅沢しなければ一人でそれなりに生活できるようになったからかもしれません。

お金がなくなっても死ぬわけじゃないし、VTuberとして大金持ちになりたいというモチベーションはあまりないです。

ほごしゃさんたちに応援してもらいながら、ささやかに配信をしつつ暮らしていけるのならそれで良いなと考えています。

ーーVTuber活動の収入で生活保護を抜けられたのは、いつ頃でしょう?

なまほしちゃん:昨年11月ですね。活動を始めてから大体3年くらいで生活保護を抜けられました。

と言っても、なまほしちゃんの活動はすごくまばらで、ほとんど何もやっていない時期もあったりしたんですが、去年4〜5月にとめるちゃんが入って深層組自体の勢いが付いて。

それまでも多少はお金を稼げていたんですけど、この半年くらいでpixivFANBOXの収入が増えたこともあって、生活保護を抜けられた感じです。

生活保護を受給していたおかげで、生き続けることができて、今は自分の力で国にお金を返せるようにもなれたし、「受給するくらいなら死んだほうがマシ」と考えている人もいたりしますが、まずは受給してなんとか生きてほしいと声を大にして言いたいです。

「ただ応援したい」というファンが多い

ーーFANBOXを始めたきっかけは?

なまほしちゃん:実はデビューしたときから、知人に存在を教えてもらって、細々とやっているんですよね。

実は、YouTubeの登録者数が伸びたタイミングで、配信で「FANBOXでこういうことをやっているから入ってみてね」という話をがっつり喋ったら、その翌月から入ってくれる人がものすごく増えて。

なまほしちゃんのFANBOXトップページ

なまほしちゃん:どういう話をしたかというと、YouTubeのスパチャよりFANBOXのほうが手数料が安いんですけど、ほごしゃさんからすれば、どうせお金を投げるならなまほしちゃんに届くお金が多い方が嬉しいじゃないですか。

その点、FANBOXのほうが手数料も安いし、スパチャなら読み上げてお礼を言うくらいしかできないけど、FANBOXだったら限定コンテンツも出している上に、日記にもらったコメントは「今月の遺書」へのものを除き、全部返信していると伝えたんですよ。

そうすると、翌月から支援金額が2〜3倍くらいに増えて、やっていることを紹介するのはすごく大事だなと改めて思いました。

ーーコンテンツはどういったものを上げているんでしょうか?

なまほしちゃん:基本的には日記やボイスですね。あとはメンタルが落ち込んだときに、「今月の遺書」というタイトルで暗い話を書いたりしています。

さっきも話しましたが、日記に付いたコメントは暇なタイミングで全部返信していますね。

今の規模の活動だからできている面もありますが、仮に自分がアイドルやVTuberのファンだったら、少しでも反応があったら嬉しいなと思うし、できるうちは続けたいですね。

これは義務感とかではなく、単純に喜んでもらえるのが嬉しいからやっています。

あと高額支援者さん向けにはオリジナルボイスを録って送るというプランもあって、そういったコンテンツを載せたりもしています。

コンテンツを出す側としても、YouTubeって誰でも見れますけど、FANBOXはわざわざお金を払ってまで見てくれているほごしゃさんたちしか見ないので、なんでも気楽に書きやすいし、発言もしやすいですね。

ーーどういった人に支援されているのでしょうか?

なまほしちゃん:コンテンツが見たいというよりは、単純になまほしちゃんに「生きていてほしい」「幸せになってほしい」といった気持ちを持ってくれている人が多い気がします。

一番入っている人が多いのが1,000円のプランなんですが、一つ下の500円のプランとの違いがそこまでないのに、入ってくれているんですよ。

10,000円などの高額プランに入っている支援者さんも、コメントなどを見る限りは、もらえるオリジナルボイスが欲しいというよりは、なまほしちゃんを応援したいから入ってくれている人が多いです。

ーーコンテンツを見たいというよりも、応援したいという気持ちが動機として強いと。

なまほしちゃん:例えば、イラストを載せているイラストレーターさんなんかは、更新が遅れると人が抜けちゃったりすることが多いそうですが、自分の場合はそうでもないんです。

「今月忙しくてあまり載せられなくてごめんね」と言ったりすると、許してくれる方が多い印象です。

これは、なまほしちゃんのファンが優しいこともあると思いますが、そもそもとしてVTuberのファン全体がそういう傾向なんじゃないかと思っています。

「この時代に生まれて良かった」

ーーお話をお聞きしていて、VTuber活動を始めて、人生に対する捉え方が大きく変わったのではないかと思います。

なまほしちゃん:今までは人生って完全にクソゲーだろと思っていて、さっきもお話しした通り、いつ死んでもいいやくらいの気持ちでなんとなく生きていたんです。

だったんですけど、VTuber活動をするうちに配信するのが楽しくなっちゃった部分があるし、ほごしゃさんたちや運営さんにも恩義を感じているから、少しずつでもそういう人たちに何か返していきたいという気持ちが生まれました。

自分ができることは多くはありませんが、なまほしちゃんの配信を見てちょっとでも面白いなと思ってもらえるように頑張りたいです。

ーー素敵な変化だと思います。

なまほしちゃん:喋ったりするのは得意だけど、一般的な社会活動は相変わらず苦手で、YouTubeやFANBOXのような場のおかげで自分のような人間がお金を得られていて、改めてこの時代に生まれて良かったです。

さっきも話した、活動を続ける上での一つの目標がなくなっちゃったから、今のところは自分が幸せになることに向き合っていこうと思います。

現状、「生きていて良かった!」と心から思えるほどではないんですが、そう思えるくらいになるというのが今後の目標です。

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なまほしちゃん|VTuberグループ「深層組」所属のバーチャルユーチューバー。2019年9月より「生活保護VTuber」としてYouTubeにて動画配信を開始し、2021年11月にYouTubeとpixivFANBOXの収入で脱生活保護を達成。主に雑談系の配信をしている。

なまほしちゃんの配信を見るにはこちらから。
https://www.youtube.com/channel/UCv5ndlKn_HNPySHP7mL1TTA

pixivFANBOXでなまほしちゃんを支援するにはこちらから。
https://namahoshichan.fanbox.cc/

運営:アル株式会社

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