1/1000秒の世界に潜むブランド化するシズルを探せ!!
鰻重、寿司、焼肉、ラーメン… あぁ、やっぱり美味いものを食べるって幸せだぁ〜!
でも、人間ドックの結果もちょっと気になる50代…。
こんにちは。
ADK CREATIVE MALLの中で「EFFECTIVE CONTENT/長くお茶の間の定番となるようなコンテンツの開発」というコンセプトを掲げるチームに所属する、CMプランナーの高橋信人と申します。CMの監督もやっています。
さて、冒頭に最近食べたご馳走を羅列しましたが、かといってとりわけ凄いグルメでもなかった私は、お弁当屋さんだったり、回転寿司屋さんだったり、コンビニエンスストアだったり、なぜか「食」の仕事に近年数多く携わりました。
この一見コンテンツとは縁遠そうに見える「食」が、実はとっても密接だった。いや、むしろどストライクだったという話を、食品CMにおける自分なりの撮影極意と共に語っていきたいと思います。
「食」は人類共通の そして永遠の「定番コンテンツ」!
人間の生きるための三大要素「衣食住」の一つでもあり、三大欲求の一つでもある「食」。
それを実証するかのようにテレビでは毎日多種多様なグルメ番組が溢れ、確実に高視聴率を稼いでいます。そう、「食」はお茶の間に無くてはならない超ど定番。
さらに近年、SNS上でも食べ物ネタは最強。料理のレシピから映えるメニュー紹介まで、いつの世も生活者の興味は常に「食」に注がれていると言っても大げさではありません。
まさに、「食」は生活者との繋がりが一番太い最強の定番コンテンツ!
細かいマーケティングやターゲッティングを超えて有無を言わさず、万人が常にアンテナを張り、感情を揺さぶられるものが「食」なのです。
みんなが常に興味を持っているからこそ、
どうクリエイティブの力でクライアント様の商品を、無数に取り上げられる「食」の中から頭一つ抜け出させるか?
私の場合、CMの企画・演出で、その課題に挑戦させてもらっています。
それでは、
お茶の間の新たな定番を目指すべく日々奮闘している、食品CMの奥深い沼的世界をご紹介していきましょう。
シズル撮影って奥深くてエキサイティング!
みなさん「シズル」という言葉、聞いたことありますか?
肉を焼いた時のジュ〜ジュ〜という脂が弾ける音を表す「sizzle」という意味の英語で、見ている人のうまそ〜!食べてみたい〜!のスイッチが入るような刺激的な音やビジュアルで、脳や胃袋に訴える効果を言います。
私はスイーツ、揚げ物、中華、寿司、鍋などなど多くのシズル撮影を経験しましたが、その現場の魅力を一言で言うと、「奥深くてエキサイティング」だと思います。実に楽しいです。
……ですが、あのよだれが垂れそうなシズル映像の裏では、同時に我々スタッフの大量の汗も流れているのです…。
たった1秒の映像を撮るために4時間?!
そう、とにかくシズル撮影は時間がかかります。食材の選別、下準備、鮮やかに見せるための照明、動きをつけるための仕掛け、そしてそれらが全て同時に機能するかのテスト。などなど、ワンテイク撮るためのこのような準備に数時間…。
全て整い、さぁ本番!
となったら食材によってはどんどん劣化していくために今度はいきなり秒を争う時間との勝負であたふた!…なんてことも。
それを何度も繰り返す。
物を言わない物体に翻弄され続け、それでもただひたすら向き合う…とってもどMな撮影。4時間かけてようやく1カット…そんなペースも多々あります。タレントさんの撮影だったら終わって花束を渡している頃かもしれません。
苦行…なのになぜ私は魅了された?!
さて、そんな苦行とも思えるシズル撮影に、なぜ私は楽しさを感じるのか?
私のルーツを遡ってみると思い当たる節が…。
もともと私は「物」を観察するのが大好きで、美大に入るために美術系の予備校で3年間(訳あって3浪もしてしまいました…)石膏デッサンや静物デッサンを朝から夕方まで毎日描きまくっていました。
一つのものを6時間近く見つめ、その構造、ディテール、質感を観察し、とことん向き合い1枚の作品として仕上げる。
そんな日々を3年間過ごしているうちに、シズル表現において大切な、物に対する細やかな観察力と焦らずじっくり粘る執着心がかなり体に染みつき備わってしまったようです。
おかげでこの普通ならしんどく感じるであろうシズル撮影も案外平気で、やってやろうじゃないかという前向きな気持ちで毎回挑めています。
あの3年間の下積みはこのためだったのか!
2種類のシズルで攻めろ!
シズルには、誰が見ても美味しそうに思える瞬間を「再現して見せるシズル」と、食べた時に口の中と脳内に広がる感覚を、想像力を生かしてファンタジックに描く「イメージさせるシズル」とがあります。
前者は誰もが共感する「あぁ〜この瞬間って一番美味しそうだよね!」のシズルです。
例えば七輪で焼いた魚が脂でパチパチしてパリッと焼けた皮が膨らむ瞬間。(なぜかこれが一番美味そうに感じるんですよねぇ〜。)
そんなこの食材ならここがまさにハイライト!となるシーンを徹底的に追い求めます。
さらにこの場合、画面上のサイズも大切で、とことんズームアップがいいでしょう。中途半端に引いた客観的なサイズより、小人となった自分の目の前でドドーンと起こっているような臨場感こそ「うまそ〜!」を加速させます。
後者のファンタジックなシズルは、現実には起こりえない現象ですが「あぁ、その気分わかる!」のシズルです。
例えばフルーツジュースのCMで果物がスパーン!と一瞬で細かくカットされ果汁と共にスパークする、とかがわかりやすいかもしれませんね。
以前、唐揚げのシズル撮影をしたのですが、現実に目撃する唐揚げの美味しそうな瞬間は、ジュワーと油の中から勢いよくあがる「揚げたてシーン」を普通想像しますよね?
でも大切なのはもう一つ上のレイヤー。さらなる想像力とイマジネーションの世界でした。
この唐揚げを口の中に入れた瞬間に口の中で起こるであろう刺激、うまーい!を、ビジュアル化するのです。
この商品、実食してみると噛んだ瞬間、想像以上の肉感と溢れ出る肉汁に驚きました。
なのでその時私が選んだシズルは、
「唐揚げを包丁で切った瞬間その断面から溢れ出る肉汁」を徹底的にフォーカスして描くことでした。
唐揚げを包丁で切って食べる人なんていませんよね?
普通一口で口に入れてしまいます。肉汁は見ていません。でもだからこそ、口に入れた瞬間、口の中と脳で感じる肉汁感をビジュアル化させてあげるのも大事なシズルの役目。
「うわ!こんな肉汁が口の中で溢れたら絶対うまいじゃん!」と、脳に妄想させてあげるのです。
ピクサーのアニメ映画「レミーのおいしいレストラン」で主人公のネズミが食べ物を食べた瞬間、脳内で感じた美味しさがなんとも言えないカラフルな光となってファンタジックに踊り弾けるという面白い表現がありましたがそんな感覚です。
このように、「再現してみせるシズル」と「イメージさせるシズル」どちらのシズルも最終目的は一緒ですが、
その商品のどんな瞬間を描くと視聴者の脳内に「食べてみたい!」が芽生えるのか、商品によってシズルの攻め方が変わってくるのです。
大切なのはその商品にあった着眼点、攻め方の見極め。
見た人の想像力をいかに膨らませるかもシズルの大切な要素なのです。
シズル撮影はまるで特撮!超エンタテイメントの世界だった!
狙うシズルが違えば、その都度手段も変わります。
そんなシズルの追求は、時に案外手作りな仕掛けで、まるで特撮映画の撮影をしてるみたいに感じることも。特撮大好きの自分にこれまたピタリとハマる要素がシズル撮影には多いんです。
スターウォーズはもちろん、CGが到来する前の80年代ハリウッド特撮映画が私は大好きでして、もちろん見るのも好きですが、興味は割と裏側にありました。
メイキング本を読んでどんな撮影方法でこんな驚きに満ちた映像ができるのかと心ワクワクさせてた少年時代…。
最先端でもあり、その一方でアナログな手作りな部分もある特撮の現場を、楽しそうだなぁ、自分もやってみたいなぁなんて当時は思ってました。
そんな最先端と手づくりのアイデア仕掛けによって生まれるシズルには、
計算し尽くされたCG映像とは違う、予想外の動きや表情、質感が撮れたりすることが多々あります。
1/1000秒の世界に潜む奇跡!
シズル撮影ではファントムという特殊なカメラを使用することが多いのですが、これが通常1秒30コマのところ、1秒1000コマでの撮影が可能で、その分濃密な1秒を捉えることができる強者です。
野球中継などで打撃の瞬間を超スローで見せるあれです。
このカメラを使って例えば落下するお寿司を撮影すると、肉眼ではあまりに一瞬の出来事で全く何が起こっているかわからないものも、1秒1000コマの世界で見ると、落下の衝撃で踊るように跳ねる見たこともないネタの姿が撮れている!
そんな想像もしなかった未知の別世界が実はその瞬間には隠れていることをこのカメラは見せてくれる。そう、まるでマルチバースの異次元の世界を目撃するみたいな気分!(大袈裟ですね)
撮影時、こういう映像を狙って現場で準備を重ねていたはずのスタッフも、いざ実際に撮れた映像を見て「おぉ〜!!」と歓声をあげてしまう。
ワオ!なんか凄いの撮れちゃったよ!的な。笑
予測はするけど想像以上なことも起こる奥深いシズル撮影。
その魅力はまだまだ未知数で、やればやるほど発見があり実にエキサイティング!
誰にも見つかっていない、みんなを驚かせる1/1000秒の世界もまだまだきっとどこかに潜んでいるんだろうなぁと思うとワクワクするし、早く自分が見つけてあげたい!と思ってしまうのです。
シズルのポテンシャルは、計り知れません。
シズルのミッション それは人を虜にすること!
最近SNSなどで「飯テロ」という言葉を見かけます。
無差別に空腹感を抱かせて食欲をわかせる行為で、よく深夜の食べちゃいけない時間に美味しそうな映像を見た人が言ってますよね。「飯テロされた〜!」って。
シズルのミッションはまさにそういう感覚。
見ている人の脳と胃袋を刺激し、食べたい欲求を最大限に膨らませること。虜にすること。
そう、
「うまそう!」は「買ってみよう!」に直結する最強の武器なのです。
「食」の定番はきっとこの先の未来も、お腹をすかせた人類がいる限り変わらないはず。でも無差別な飯テロではなく、空腹がデバイスで認知され、そんな人に狙いすましたタイミングで広告投下!なんて、よりダイレクトに空腹へ訴える未来になっているかもしれませんね。
ブランド化するシズルへ!
最後にもう一つ大切なことは、最高のシズルが見つかった時、一発屋ではなく、しつこいくらい続ける事です。
継続は力なり。
それによってそのシズル自体が徐々にブランド化し、「あぁ、チーズがビヨーンとのびるあのピザのCMね。」「あぁ、ズバーン!てやたらほとばしるあのビールのCMね。」「あぁ、あの寿司が落ちて波打つCMね」としっかりお茶の間に刷り込まれ、定番の仲間入りを果たせるのだと思います。
シズルに限らず、同じCMソングをずっと使い続ける企業、同じコピーワークでメッセージし続ける企業は多々あります。
同じ表現を続けることは、きっと勇気もいることでしょう。でもその一点突破のワンパターンも、裏を返せば商品に対する絶対的な自信にも見え、そうした強い積み重ねこそが「約束された品質=定番」へと昇華できる気がするのです。
こんな時代だからこそ EFFECTIVE CONTENT!
改めてチームのコンセプト 「EFFECTIVE CONTENT/長くお茶の間の定番となるようなコンテンツの開発」 を振り返ってみます。
そもそも定番とは、流行にかかわりなく安定した売り上げが期待できる安心・信頼が約束されたもの。
だとしたら、この情報過多すぎる流行り廃りの激しい世の中で、あえて今、お茶の間の定番を生み出すというミッションは、何が本当に信頼できるものなのか不明瞭な時代だからこそ必要で、意義があることなんだと思います。
ここで語ってきた「食」こそ、常に人類みんながアンテナを張ってる超ど定番コンテンツ。ならば、その世界でみんなに「ぜひこれは食べたい!これを買っておけば確か!」と思ってもらえるような虜にさせるCMを、ブランド化さえなり得るシズルの極意を武器に目指していくことが、自分が今できるこのチームコンセプトに対するアクションなのだと思います。
目指せ!「あぁ、あのうまそうなシリーズCMね。」
定番すぎるコンテンツ故にむしろハードルは高いかもしれません。ですがこれからもいろんな食品とガッツリ丁寧に向かい合い、見つめ合って、人の心を動かす新たな世界を見つけていきたいと今日も美味しいご飯をもぐもぐと食べながら思うのでした…。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
今日はちょっと美味いもんでも喰うかって気分になっていただけたら嬉しいです。
私はこんなに自分の仕事のことを振り返ったことなかったので、もうお腹いっぱいです…ごちそうさまでした。