【格差・貧困についての論文を読む#4】

これまで読んできた、格差・貧困についての論文は、如何にして”格差・貧困の度合いを測るか”が主眼になっていました。

ジニ係数だったり、相対的貧困率だったり、剥奪指標だったり。
(それぞれ、以前の記事にリンクします)

それでは、”貧困だ”となったあとに、どの様に対処していくべきなのか。
これまでも見てきた、”子どもの貧困”に対して、実際にアプローチを検討している論文について、見ていきたいと思います。

子どもの貧困に対する学習支援(三沢 徳枝)

やはり、子どもの貧困に対しての支援として、一番に挙げられるのは”学習”ですね。

貧しい家庭に生まれて、(子どもの頃から家の仕事を手伝い)学習する機会がなく、結局自分も貧しいまま。”貧困の連鎖”から抜け出せない。
この様なケースは、発展途上国の家庭ではよく聞く話のように思います。

それでは、(一応、中学までの最低9年間は義務教育がある)日本ではどうなのでしょうか。
本論文を読み解きながら、学習支援の必要性やそれに関しての課題などを見ていきます。

学習支援に関する課題

まず、子どもへの学習支援の体制として、

生活困窮世帯の子どもへの学習支援において、支援に関わる生活保護課ワーカーや教育支援員(P.89)

といった公的な支援者(本論文中では、生活保護課ワーカーと教育支援員と分けて記述されていますが、ここではまとめて”支援者”と表現させていただきます)が存在しているようです。
それじゃあ、安心ですね。と言えるかというと、残念ながらそうではなく、支援者の方々も適切な支援ができていないといった課題意識があるようです。

その原因として、ある自治体の支援者6名の方へのインタビューから読み解いていっています。そこから分かったそもそもの課題として

状況がつかめない(P.94)

ということ。もう少し具体的に言うと

生活に困窮し社会から孤立した家庭は、人との関係性がつくりにくくなっていることが考えられる。(P.94)

ワーカーは、保護者の要望は聴くが、子どもから要望を聴く機会は少ないと見られる。子どもの成長発達に関する問題や、子どもの希望や学校生活の様子が分からず、子どもにとって必要な情報提供等の対応が十分できな
い。(P.95)

と言った分析結果になっており、支援者という本来最も生活困窮世帯の状況を理解しているはずの人たちが、そもそも現状が分かっていないという非常に難しい状況のようです。
それでは、その改善のためにはどの様にアプローチしていくべきなのでしょうか。

課題に対するアプローチ

生活困窮家庭の状況が分からないという課題に対してのアプローチとして、次の4つを挙げられています。

・子どもと保護者の生活を肌で感じる(P.96)
・子どもと関係者からの情報と併せて方向を模索する(P.96)
・子どもの居場所をつくる(P.97)
・子どもや保護者の状況を聴く(P.98)

その後、支援内容の確定→精査へとつながっていきます。
ある意味、”当たり前”のアプローチです。しかし、それが改めてここで挙げられていることから見るに、現状ではそこまで出来ていないケースが大半なのではないかと想像されます。

それを、支援者の方々の怠慢と言ってしまうのは簡単だが、実際にはそんな容易な話ではないでしょう。
保護者からすれば、なぜそんな生活状況を詳らかにしないといけないのかといった精神的な反発もあります。また、後半にも出てくるが、支援者の数が足りない中で、いくつもの家庭を把握していかないといけないとなると、1つ1つの家庭に掛けられる時間は自ずと限られてきます。

それでは、具体的にどの様な支援が有効になるのでしょうか。

生活困窮家庭に対して必要となる支援

具体的な支援として、次の5つのキーワードが挙げられています。

・見せる(P.100)
・試させる(P.101)
・良い体験に転換させる(P.101)
・意思の言語化を促す(P.102)
・主体的な行動を促す(P.102)

やはり、保護者・子どもに”夢”をもたせるということが大事だということのようです。
どうしても、生活困窮世帯だと、保護者も自分や子どもにとって、”夢”を見せていくことができないのかもしれません。逆に、子どもも親を見ていると、「どうせ勉強しても・・・」となってしまっているのかもしれません。

現場の支援者の方から見ても、そのマインドを変えていくことが、まず重要であるということのようです。


まとめ

今回、論文を読む中で、改めて「貧困の状況を把握する」ことの難しさと、重要性を知ることができました。
そして、彼らの状況を把握して、最適な学習支援をするためには、「学習することでの、夢や成功体験をもってもらう」ということが大事。

非常によく分かる結論になっていました。

しかし、一方でどうしても”精神論的”な部分が多くなってしまっているのかもしれません。

論文中でも言及されていましたが、生活保護課ワーカー・教育支援員以外の支援者以外にも、学校やNPOなどの多くの関係者が出てきます。
その中には、保護者・子どもと信頼関係を築きやすい人・そうでない人もいるでしょう。保護者・子どもによっては、支援者よりもNPOの方が話しやすい(またはその逆)といった様々パターンがあると思います。

もちろん、本論文で指摘している通り、「学習することでの、夢や成功体験をもってもらう」ことは大事ですが、そもそも信頼関係がない人から、「学習するって大事です。こんな大人になれる」と言われても、納得できないでしょう。

それぞれの保護者・子どもが、誰相手であれば信頼を示せるのか。
その信頼関係に基づいて出てきた、保護者・子どもの”状況”を、如何にして保護者・子どもの不利にならないように、彼らを支援する人達の間で共有し、トータルでのサポートを行うことができるか。

そういう観点で、もっと”物理的”なアプローチも同時に考えていくことができないでしょうか。今後、そんなことを考えていけたらと思います。

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