【格差・貧困についての論文を読む#1】

noteを通して私が実現したいこと2で書いた通り、毎週1本くらいは論文を読んで、その内容についてまとめる・自分の見解を述べるということをしていきたいと思います。

とはいえ、論文を読むなんて学生の頃以来なので、そもそも何を読めばいいかから探し回りました。

明確に”これ”と対象を絞ることはしませんが、まずは日本の論文データベースとして最も有名なCiNii Articlesから、”貧困”や”格差”をキーワードに論文を探っていきたいと思います。
その中でも、可能な限り”いま”の状況をベースにしていきたいので、最新の論文から探していきたいと考えています。

今回は、まず現状の格差を数値で知ろうということを目的に、この論文を読みました。

所得のジニ係数の最近の動向について(室谷 心)

「ジニ係数」という言葉は、格差を表す指標として使われるので、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
私は「ジニ係数が高いほど、格差が大きい」というくらいに理解していましたが、どの様に求められるのかは、正確には理解できていませんでした。

そこで、まずはジニ係数について調べてみました。

2つの累積相対度数を用いて描かれたローレンツ曲線を使うと、「偏り=不均等さ」を確認できます。(中略)
ジニ係数は0から1までの値をとり、1に近いほど偏りが大きく、0に近いほど偏りが小さいことを表します。

ということで、0〜1の間で計算されて、1に近いほど格差が大きいとみなしていいようです。ただ、平均がどの程度なのかは、統計にもよるようなので、0.5を超えたら高い・低いというものではないみたいです。

この論文ではタイトルの通り、この”ジニ係数”の推移を見ていくことを主目的にしています。

所得再分配調査報告書によるジニ係数

まずは、全体でのジニ係数から。
”図6.所得再配分調査によるジニ係数の変化”を見ていただくと分かる様に、”当初所得”のジニ係数は平成11年以降上昇傾向で、"格差が広がって”います。一方、累進課税制度によって、税金を納め・再分配した後の”再分配所得”は、ほぼ一定です。その結果から、次のような結論が導き出されています。

全体としては、等価所得で見ても平成8年から平成26年にかけて当初所得の不平等度は増加し、税と社会保険による再分配によって、不平等度の増加が抑えられているといえる。(P.97)

この様に、日本全国のジニ係数で見ると、”再分配制度によって、格差は拡大せずに抑えることができている”と言えるようです。

年齢階層別のジニ係数

続いて、年代別のジニ係数を見ています。

平成24年度報告で指摘されている40歳から44歳でのジニ係数の増加は、図9を見る限り、平成20年で40歳から44歳、平成23年で20歳から30歳、平成26年で20歳から24歳、平成29年には15歳から19歳という風に徐々に低年齢側にシフトしているように見える。平成29年だけを見ると、55歳以上の直線的なジニ係数の増加と15~19歳と40~44歳の2つの年齢階層にジニ係数のピークがみられるというのが特徴である。(P.97)

この様に、当初所得については、段々と若者に格差が広がっていっているようです。確かに、大企業であれば新入社員でも一定以上の金額が給与として支払われていますが、そうでない場合はかなりギリギリまで絞り込まれている様にも思えます。

ただ、これも再分配所得となると、不平等は緩和されているようです。

これらの振る舞いは、等価再配分所得では見られなくなっているので、ここでも社会保障による所得の再配分は不平等状態の緩和に寄与していると見て良いであろう。(P.99)

全国消費実態調査による地域別ジニ係数

地域別でジニ係数を見た場合ではどうでしょう。

比較的目立つのは、よい方では長野県のジニ係数が小さいままであったこと、沖縄県、岩手県、新潟県が大きく改善したしたことである。悪いほうでは、東京が高いジニ係数のままであること、青森県、大分県、島根県が悪化したことぐらいである。(P.105)

こちらは、”当初所得”のジニ係数のみの様ですが、よく言われる”沖縄”は格差が大きいというのは、段々と改善されてきている一方で、”東京”は格差が拡大し続けている。
また、何が原因かは分かりませんが、青森・大分・島根の地理的に大きく離れた県でも格差は広がっているようです。(例えば、岩手や鳥取といった上記に地理的に近い県では、ジニ係数は逆に改善されている(図23より)ので、何が影響しているのかは、もっとミクロな問題になるのかもしれません)

まとめ

本論文での結論としては、次のとおりでした。

最近のジニ係数の振る舞いをまとめてきたが、本稿の結論としては、この10年間のジニ係数の振る舞いは、当初所得に関してはほぼ直線的な増加を続けてきたが、再配分所得や可処分所得でみるとほぼ一定の値で推移しており。社会保障による再配分が効果的に働き、ジニ係数でみる限り格差の拡大はみられない。(P.112)

個人的には、とても意外な結果でした。
もちろん、当初所得の格差が広がっているということは、想定通りでしたが、”子どもの貧困”や、”ワーキングプア”などが叫ばれている中なので、再配分後の所得も格差が広がっているのではないかと想定していました。

もちろん、この論文で出されている数値にウソは無いと思います。

しかし、それでは我々が様々な場面で接している”貧困・格差”は、なぜ減っていない(むしろ増えている?)のでしょうか。

統計値では表されない何か課題があるのでしょうか。

今後、他の論文を読みながら、今回感じた疑問についても考えていきたいと思います。

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