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海外進出の夢を叶えるために…MakuakeからIndiegogoまで。刃物で見えたクラウドファンディングの勝ち筋とは

刃物の町、岐阜県関市で50年以上続くメーカー、丸章工業。3代目が新しい取り組みに挑戦している。先代が取り組んだ生産改革を活かし、商品で特色を出すべく動き出している。具体的には海外も含めたクラウドファンディングによる販売手法だ。3月には、ものづくり企業のDX化を支援するニューワールドとともに、海外のクラウドファンディングに挑戦。31カ国から390万円の受注を獲得した。どのような想いで取り組んでいるのか。丸章工業の長谷川智広社長と雅宣専務に、ニューワールドの井手康博社長と執行役員八木創平氏が話を聞いた。

3代目アトツギ兄弟の挑戦

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ーー丸章工業さんは1966年創業で、先進的な動きをなさってきています。アタラシイものや体験の応援・購入サイト「Makuake(マクアケ)」で挑戦したクラウドファンディングの動画、すごくきれいですね。1970年頃には、はさみのブランド「BENSER(ベンサー)」を立ち上げられ、2000年頃からは社内の製造能力を高められる内製化が進めてこられました。まずは御社の商品や特徴などをお話し頂けますでしょうか。

長谷川:私達は岐阜県関市に本社を置く、刃物メーカーです。刃物といっても全国各地で特徴があります。新潟の燕三条市や福井県、大阪府なども盛んです。
私たち関市は量産が得意な街です。世界では「西の(ドイツ)ゾーリンゲン」、「東の関」と言われるぐらい刃物の生産量と輸出量はトップを誇っています。特にはさみ、ナイフ、包丁、カミソリは日本でもトップです。関市は外注先を回ると、商品が出来上がる便利な街です。ただ少しずつ高齢化で職人が減っている状況にあります。

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そのなかで当社は55年目を迎え、私たち兄弟が3代目となります。2000年頃から他社に先駆けて内製化で機械を導入したり、手作業の工程も社内に取り込むなどして7〜8割は内製化できるようになりました。

内製化と同時に商品展開の位置づけも変えてきました。量産品から高付加価値品への移行に取り組みだしたのです。今回クラウドファンディングに挑戦した商品「ZANMAI」もダマスカス鋼と言って、海外でも人気のある素材を採用しました。「はさみ」で1万円は高いイメージがあります。高級鋼材を使うことで、はさみの価値を上げることに挑戦したいという考えで取り組んだ経緯があります。

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ーーなるほど。2000年頃から生産改革に取り組むとともに商品力も高めてこられたのですね。3代目のおふたりの時代には、2代目を引き継ぐだけでなく新しいイノベーションを起こそうとしているというのが今の段階でしょうか。

長谷川:そうですね。現会長の父が現在の生産体制の基盤を作ってくれました。引き継いだ我々3代目は、その価値を最大化できるように努力している段階です。

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ーーニューワールドとの出会いは?
八木:2020年8月に国内向けにMakuakeを活用した「まるでハサミの形をした包丁。 高級包丁の技術を注ぎ込んだダマスカス鋼キッチン鋏」でご支援させて頂いたのがきっかけです。

ーー:取り組んでみていかがでしたか。
長谷川:じつはニューワールドさんと取り組む前に、クラウドファンディングを自社だけで取り組みました。そこそこの成功でした。2回目をやるときに、ニューワールドさんの存在を聞き「もっと成功できるかもしれない」と考えお付き合いが始まりました。

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ニューワールドさんの印象として、若くてセンスのある方が多いなと。私たちにはない感覚やイメージで、面白いことができるのかなという期待感を持てました。実際にお越し頂きましたが、手際も良かったです。事前の打ち合わせどおりに、パッパっとそつなくこなされていました。仕上がりも、自分たちのイメージ通りで完成度が高かった。これはひょっとすると上手くいくなという感覚はもてましたね。

メーカーが消費者と直接つながる「Makuake」

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ーーよく井手さんからものづくり企業の悩みとして「お客様の声をなかなか拾いづらい」〜と聞いているのですが、丸章さんは今回の新しいキッチンバサミを作る中でお客様の声はどのように得ていましたか。

長谷川:小売店から伺うことが多いです。これでも消費者に近づいたほうです。それこそ20〜30年前は、問屋からしか情報がありませんでした。本当にその情報が正しいのか。問屋の営業戦略かもしれないし、都合がいいことだけ教えられている可能性もありました。やはり消費者と直接やり取りする方がいいなと考え、クラウドファンディングに力を入れるようになりました。

ーーより顧客の声が近くなってきていることによって、ものづくりの表現の仕方が変わってきているということですよね。

長谷川:同業者でもYouTubeやSNSを活用する人も増えてきました。従来の問屋経由の流通も大切ですが、新しいかたちを模索する動きも出ていますね。

「クラファンって何だ?」から「やってみよう」と思うまでの距離を縮めたもの

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ーー大手の流通で扱われることは、物量が確保できるのでメリットも大きいかと思われます。ただ機能や性能は定量的に測れる商品には適していますが、付加価値が高い商品には向きません。尖った人に対して届けるために、クラウドファンディングを試してみようと?

長谷川:そうですね。クラウドファンディングは本当に便利というか、なるべくリスクを抑えられます。ただクラウドファンディングって最初は全くちんぷんかんぷんでした。「何だそれは?」という感じでした。

ーー「何だそれは?」から「やってみよう」と思うまでの距離をどう埋められたのですか。

長谷川:ふたつあります。まず銀行の紹介です。もうひとつは、当時新開発した靴べらの売り方を迷っていたころでした。紹介されたクラウドファンディングの担当者の方に根掘り葉掘り聞いて少しずつ理解していきました。それでやってみようかとなったんです。

ーー素晴らしいですね。元々、クラウドファンディングをされるときの不安などはありましたか。

長谷川:めちゃめちゃ不安でしたね。どうやって作るの?という。

ーーしかも支援してくれるかは蓋を開けてみないと分からないですもんね。

長谷川:同業の先輩がやっていて、何とかいけるだろうという思いでした。商品は全然違いましたが、全くゼロではないだろうとは思っていました。

ーーオープンするまではドキドキですよね。

長谷川:もう上手くいかなかったらどうしようという気持ちで、毎日見ていました。1回目で狙っていた数字は達成でき、多少の自信ができました。

ーー1回目の靴べらで体験されたことで、いよいよ主力製品の刃物の方へ展開できると思われたのですか。

長谷川:そうですね。

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ーーニューワールド八木さんと井手さんに伺います。丸章さんがプロジェクトを成功させるために、心がけていたポイントを教えてください。

八木:1番気をつけたのは、メーカーである丸章さんにリスクを負わせないことです。ニューワールドにとっても初の海外案件でしたので、さまざまなクラウドファンディングのプラットフォーム企業とお話しました。今回挑戦した「Indiegogo」に関してはアジアを統括する責任者と議論でき、我々が手掛けた100以上の案件のなかから「丸章さんのダマスカス鋼のキッチン鋏でやろう」となったのです。

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「Indiegogo」でもダマスカス鋼の包丁は売れた実績があったそうです。今回は「はさみ」で新規性もあり、丸章さんにお声がけさせて頂きました。目標は国内の取り組みを超えることです。

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井手:コンテンツを見るだけで性能や技術が伝わるかが大きなポイントのひとつになると思っています。今回映像で使ったロブスターをはさみで切るシーンをみれば、言語が要りません。文章だと翻訳しますが、言い回しが難しいのです。あとは、多くの方々に知っていただけるようにマーケティングに力を入れることこそが、貢献できるポイントだと思っています。

「世界に挑戦したい」という夢を叶える

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ーー丸章さんに伺いたかったのが、海外に挑戦しようと思ったきっかけは何ですか。

長谷川: ひとつは世界に挑戦したいという夢です。細かいところで言えば、高付加価値商品をつくっていきたいのです。ふたつの狙いは重なるのですが、ニッチな付加価値商品で生産量を確保しようとすれば国内だけでは足りません。総需要の1〜2割程度の人に向けて訴えるとなれば、国内だけではどうしてもパイが小さくなってしまいます。世界中には変わったものが欲しい人や刃物マニアがいますので、色々な国で販売することにより、商品化できるだけの需要を確保できるのです。どうしても海外に活路を求めていくことにつながってしまいます。

ーー:国内のクラウドファンディングがひとつ上手くいったことで、海外にも広げたのか。もしくはそもそも海外を強化したいという考えがあって、国内が上手くいったから海外にも行ってみよう、このどちらの流れが強いですか。

長谷川:正直言うと、海外というのが最初です。その後にクラウドファンディングに行きついたのですが、ただ私たちは小売店で販売するというのをベースにやっているので、SNSやネットを使った販売が苦手です。ニューワールドさんとやらせてもらうことで克服してきました。

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もちろん海外の販売網は強化していきますが、クラウドファンディングは効率がいいです。新しい売り方を自分でやることって簡単ではありません。なるべくリスクをかけないようにやってもらえてすごくありがたい。このパターンがうまくいったので、ほかの商品でもどんどんやっていきたいです。

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海外のお客様からこの前「Indiegogoに出ていたね」という返事がカナダから来たり、スイスから来たり。お客様で友達のようです。反響がある、皆が見ているなというのを感じています。そういう風に知ってもらえることは大きいなと感じています。すごい宣伝だなと。クラウドファンディングは短期集中型ですが、24時間営業していてくれる。土日も問わず宣伝し続けてくれるわけですから、これほど優秀な営業マンはいないです。

ーーだからこそ次のステップを考えるにあたって、まずは試金石としてクラウドファンディングがいい海外進出におけるやり方だということですね。

長谷川:そうですね。誰でも挑戦できるところがあると思っています。

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ーーニューワールドさん側に伺いたいのは、先ほどロブスターの見え方、映像で見せることが大事とおっしゃっていました。国内で売るときと海外で売るときの差、伝え方に違いはあるのですか。

井手:見せ方でいうと、私はやはり差のない方がいいと思っています。国内外の消費者に対し、非言語的なコンテンツを流すことで受けるリアクションに国境はないと思うのです。コンテンツにあまり差のない方が理想的だと考えています。

ーーそうなると、丸章さんをはじめさまざまな企業は海外に出やすいということですよね。

井手:出やすいと思います。ただやはりクラウドファンディングは、ひとつの販路や流通の種でしかありません。お客様の元にお届けするには物流や通関をはじめとしたバックヤードの課題があります。その部分は我々が貢献できる価値提供のひとつになるかなと思って、今取り組んでいます。

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ーー丸章さんは作ることに専念なさって、お客様の声を聞いて新しいものを出していく。ニューワールドはバックヤードを担うという役割分担ですね。

井手:今回1ヶ月ほどの取り組みで、260名ぐらい購入して頂きました。海外のECサイトを活用し、260個を販売できたのはそこそこのスタートダッシュだと思います。海外の難しいところは260個を送り届けなければならないことです。かなりハードルが高く、コストもかかります。我々がしっかりとEコマースをやっている事業者のオペレーションを、事業領域にも活かしていきたいなと思います。

ーー確かにそうですね。260か所に送らないといけないですものね。

井手:そうなんです。国数も31カ国の方々に買って頂いています。アメリカだけに260個を届けるのであればまだいいのですが、カナダ・ドイツなどばらばらに260個送るのは大変なことなんです。そのあたりをしっかりとこの事業でできれば、つくり手の皆さんに貢献できると思っています。

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ーー双璧を成しているとおっしゃっていたので、ドイツ側はどういった売り方をする人たちが増えているのでしょうか。

長谷川:量産型の企業が多いです。日本は手づくりで作るイメージがあり、人気が出ています。職人の顔が出るというのでこの職人さんはこういうテイストがあるなとわかる。

ドイツの方は逆に既成化して、あまり人の顔が見えないような……。レベルはそこそこに高いが、オートメーション化して、その代わり流通も大きいという状態なので、日本とは対照的だと思います。

ーーそういう意味では、丸章さんが輝く領域というのは大きくなりそうですね。

長谷川:私だけではありませんが、中小の刃物屋は独自のオリジナリティで勝負するというやり方になっていますし、だから、付加価値をねらっている全国の刃物屋さんで変な競争になっているところはありませんね。

我が道を行くというような、それがいい意味での相乗効果にはなっているのですが。とにかく、次に自分たちが何を作るのかにだけ集中しておけばよいですし、量産のところに勝負しようとも思っていない。

長谷川:やはりひとつのかたちとして作ることに専念する。売る方はお任せする。その中で今の新しいやり方、SNSを使ったりするのはニューワールドさんが詳しいしプロなので、私たちに考えがつかないような新たな売り方をお互いが提案していく。そういった風にタッグを組んで進められれば面白いかなと思います。

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ーーおふたりはいかがですか。

八木:まさにおっしゃる通りで海外進出への第一歩で、すごく良かった点もあれば、反省すべき点もすごくあると思っています。次のクラウドファンディングもそうですし、宣伝など違った出し方もあると思うのでそういったところに一緒にチャレンジできればと思っています。

はさみもそうですし、それ以外も海外の人の心に刺さる技術や製品をお持ちなので、色々な製品でチャレンジしていく。そうすればどこかの国で製品がとても売れることもあるのかなと。そういった取り組みができればと思っています。

井手:先ほどからお話頂いているように、ものづくりに集中していただくこと。我われが職人さんに貢献できるように、ものづくり以外のマーケティングや、物販に関わる物流などをサポートさせて頂けるようなポジションでやっていきたい。

 今回もそうですが、たった1回の取り組みで上手くいくことは確率論から言っても難しいことだと思います。数を打つことが大事だと思っているので、PDCA(計画・実行・検証・行動)を回し、どこで何が当たるのかというテストマーケティングしていきたい。これは国内よりも海外の方で、意義がしっかり出ると思います。

やはり海外でどの国に当たるか分かるのがテストマーケティングとしての価値だと思うのです。どの地域を攻めるべきかエリアを絞れれば、次の展開ができると思うので、結果を出しながら数に挑戦していきたいと考えています。

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ーー国内で試されて海外へというと、心の準備と言いますか、ステップを踏んでいくのは挑戦として面白いかもしれませんね。

井手:まず、オンラインで何かすることがまずハードルである企業も多いのです。そういうときに「弊社のECサイトであるCRAFT STOREと何かやりませんか?」というお話ができます。

丸章さんのように国内で数回やって、クラウドファンディングを分かってきた次の展開で海外だとベストです。その結果、日本と同じようにどこかの国で流通が生まれます。そういったことが現実になると、夢があるなと思います。

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ーー最後に、丸章さん。クラウドファンディングに挑戦されて1年少しのプロジェクトだと思うのですが、それを実現するのは20年前から付加価値を作るための、先代も含めてずっと脈々と受け継がれて皆さんの代で変えようとしている。同じように売り方も変えていく会社は増えていくと思います。一歩踏み出す勇気はどこから湧き出てこられましたか。

長谷川:結局私たちもできる範囲からしかできないので、大きく変えようというものではありません。

伝統産業、地場産業の範囲でしかやっていないんです。売り方に限界があると思っています。それは今までの売り方だけをやっていても絶対に詰まってしまうから、変えていかないといけない。そのためにアンテナを張っていなければいけません。

クラウドファンディングは、ひとつの時代の売り方だと思っています。最初はハードルが高いと思っていましたが、ニューワールドさんのようなパートナーとやっていけば、意外とやっていけるものです。

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ただ、商品の選定が1番難しいと思います。商品の選定と差別化はしっかりと押さえておかないと、なかなかいい結果にはならないと思います。

正直、なぜこの商品が売れるのかというものがあるじゃないですか。だから海外も自分たちではどうなのかなと思っていたもの、日本では認知されなかったものが、海外に行ったら意外とありがたいと思われる商品もある。

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それは自分たちの中で売れないと決めるのは間違っているのかもしれないこれまでは安くしろの値下げ競争の中で、散々痛め付けられてきました。そうすると私たちも商品の価値を忘れてしまっている

海外の方は、日本人が「あれ?」と思うものを買ってくれることもある。それが何かと言われると、ちょっと忘れちゃいましたが(笑)

やはり、まずは挑戦してみることと、ニューワールドさんに投げかけてみることですかね。

丸章工業のプロジェクトページはこちら

取材・文:西雄大
構成:木山美波



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