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手を取り合って世界へ。作り手とクリエイター、そして使う人がつながる「bud brand」【一般社団法人日本DESIGN BANK理事就任のお知らせ】

ニューワールド株式会社 代表井手康博は2021年2月、一般社団法人日本 DESIGN BANKの理事に就任いたしました。「日本 DESIGN BANK」は才能あふれる次世代クリエイター達が集い、日本のデザインを世界へ発信する場「bud brand(バッドブランド)」を運営。クリエイターの登竜門を目指しています。一方ニューワールドは「日本ブランドを世界No.1にする」ことをビジョンに掲げ、職人のマーケティング支援を手掛けています。作り手とクリエイターが組み合わさることでどのような相乗効果を狙うのか。ニューワールドの井手康博社長と梶原清悟代表理事、木谷勇也理事にお話を聞きました。


日本ブランドを世界へ届けるためにできること

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ーーまず井手さんに伺いたいのですが、ニューワールドが「日本 DESIGN BANK」に参加する狙いを教えてください。

井手:私たちは「日本ブランドを世界No.1へ」をミッションに事業を進めています。意欲あふれる若手の職人たちと、クラウドファンディングといったデジタルマーケティングのお手伝いをしています。150名以上の職人と仕事をしていますが、脈々と受け継いできた伝統ある商品を「リブランディング」「リデザイン」する成功事例が出てきました。

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お取引のある企業におけるリデザインの好事例としては、工具箱を130年以上に渡りつくり続けている株式会社リングスターが、アウトドア層に向け展開した「Starke-R(スタークアール)」シリーズ。そして熊野筆の化粧筆メーカー村岸産業株式会社が男性層に向けデザインを一新した、熊野筆ボディブラシ「ROTUNDA(ロタンダ)」などです。

 弊社内にもデザイナーは3名いますが、まだまだ足りません。クリエイターが職人と出会う機会を創出すれば、ものづくりに変化をもたらします。好影響を受けた商品が国内外に流通することで、世の中が変わっていくと思うのです。この流れを大きくしたい。そこで梶原さんにご相談したところ、このような運びとなりました。

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−−梶原さん、協会としてニューワールドにどのようなことを期待していますか。

梶原:単刀直入に言うと我々が苦手としているところが、ニューワールドさんの得意分野だったのです。我々はクリエイター、デザイナーとさまざまなアイデアをもとにオブジェクトやプロダクトを開発したり情報発信したりしています。やはりユーザーの手元に届くプロダクトとして商品化することが最も重要です。この点をEC(電子商取引)サイトを運営されているニューワールドさんに力になって頂きたい。

世界で勝負できる若手クリエイターの登竜門

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−−「日本 DESIGN BANK」といえば、クリエイターを育成するためのプロジェクト「bud brand(バッドブランド)」を展開されています。毎年4月に伊ミラノで開催される「ミラノ国際家具見本市」(以下、ミラノサローネ)にも出展されています。ニューワールドの入会により、どのような作品を送り込みたいといったお考えはございますか。

梶原:「bud brand」は世界で勝負できる若手クリエイターの登竜門となるような存在を目指しています。budはつぼみです。つぼみをきれいに咲かせるという意味でブランディングと掛けて”bud brand”と名付けました。

大学生や専門学校生などクリエイターの卵に、世界のデザインを肌で感じる機会をつくり、次なるクリエイティブに生かしていくことが狙いです。

ミラノサローネは手段のひとつであり、イギリス・アメリカ・中国・シンガポールといった各地にもデザインの祭典はあります。ミラノに限らず展開していきたいと考えています。

当たり前を見つめなおす。考え方も変化

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梶原:井手さんも”リデザイン”という言葉を使われていましたが、私も同感です。当たり前に存在してきた道具をいかにアップデートしていくかがあってもいい。

例えばスプーンやフォーク、ナイフといったありきたりの道具を日本なりに解釈してアップデートしたらどうなるのか。日本の良さを出しやすいのではないかと思っています。

日本は持って生まれた繊細な部分に気をかけながらものづくりをしてきました。海外だけで認められるだけでなく、日本人が日本人として見つめなおすものというか、そういうものづくりは必要ですね。

「bud brand」は、今後日本のデザイン業界を背負って立つようなクリエイターのたまごのような人たちが、踏み台にできる場づくりが目的であり、クリエイターの想いをカタチにするときに日本の職人の力は絶対的に必要です。多くのクリエイターとつながっている我々と職人がたくさんいるニューワールドで実現できると思うのです。

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−−気鋭の作り手とつながりがあるニューワールドと組めば何かできれば面白いことが生まれそうですね。

梶原:はい。具体的に言うと、我々は若手のクリエイターをなるべく集めています。なかでも大学や専門学校でデザインを専攻している学生たちにとって登竜門のような存在になりたい。若い人たちのチャンスメイクできるかどうかが1番意味のあることだと思っています。

有名で飯を食えている人たちというよりは、もっと若い人にとってチャレンジングの場として機能し、同時に次の未来につなげていくかが大事だと思っています。

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−−職人の皆さんは、若手クリエイターの方々とならどのようなコラボレーションができそうですか

井手:職人たちのものづくりは「作りたいものを作ってきた」時代が長く続いていました。この考え方にもリデザインが必要で、消費者のライフスタイルやニーズ、解決したいことをクリエイターがくみとり、職人の技術を活かして製品化していく流れをつくりたい。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、自宅で過ごす時間が増えました。ものづくりの大きな転換点がそろそろ迎えるのではないかとみています。

 家にいながら少し特別な気持ちになり、ライフスタイルを豊かに過ごせるようなアイテムとして、日本製の商品の存在が大きな価値になっていくのです。
消費者の深い欲求をカタチにすることは職人だけではできず、クリエイターの皆さんと一緒だからこそインパクトを与えられると感じています。

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−−職人の皆さんはプロダクトアウトになりがちなところを、クリエイターの方々とのコラボレーションにより、消費者が欲しいものづくりに近づくということでしょうか。

井手:そうですね。まさに私たちの事業のアプローチそのものです。私たちのECサイト「CRAFT STORE」で販売しながら、お客様のニーズをとらえ新しい商品やブランドに生かしていくというプロセスです。

日本のものづくりが目指すべき姿やビジョンからすると、我々だけではまだまだ遠く、距離感があります。外部のクリエイターの方々と一緒に取り組み我々の販路を活かすことで、シナジーが見込めるといいなと思います。

クリエイターと職人、そして使う人。距離感の最適解とは

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−−井手さんから「距離感」というキーワードが出てきました。梶原さんからみて、クリエイターと職人の方々との接点は少ないでしょうか。

梶原:そうですね。職人を作り手と言うなら、クリエイターは使い手の代弁者です。作り手と使い手の接点がなさすぎるのは、日本の課題だと思っています。我々クリエイターがしっかり作り手に寄り添いディレクション(演出)し、どう接点を増やせるかが大事です。

 井手さんの話にもあったように作り手は「何となくこういうものが流行っているかな」という想像で作っています。本来なら、売れるはずの商品が売れず、作り手は焦りラインナップを増やしたり、カタログを厚くしたりするといった悪循環に陥りがちです。環境にも優しくない。ECサイトで消費者とダイレクトにつながることで風通しの理想的なものづくりを目指していきたいですね。

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−−新型コロナウイルスの感染拡大で自宅に過ごす時間が増えると、使い手と作り手の距離が離れてしまう懸念もあります。コロナ禍におけるディレクションはこれまでと違うアプローチが求められると思います。どういったことがポイントになりますか。

梶原:たしかに直接的な接点は減りますが、その代わりバーチャルの接点は増えています。この点は「bud brand」を運営する木谷勇也理事の意見も聞きたいです。

木谷:たしかに直接会う機会は減り、この状況下で何もしないと距離は遠くなってしまいます。使い手である消費者とはウェブを使った接点が増えてきました。

作り手の皆さんは変わらず工房というリアルで働いています。我々クリエイターが、ネットとリアルをどう結びつけ、架け橋となれるかがポイントになります。ものを進めるときの距離は遠くなっていないというのが感じているところです。

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−− 一方で作り手の皆さんは高齢化が進んでいるといわれています。若いクリエイターの方々とのコラボレーションにあたり懸念はありますか。

井手:たしかに業界全体では高齢化が進んでいます。しかし我々がお付き合いしている職人は跡継ぎが多く、40〜50歳代の経営者がメーンです。さらに社長の息子が20歳代で現場の先頭に立って入り込んでいるケースが目立ちます。そういった職人の皆さんと働いているので、クリエイターの方々との世代は同じですね。

−−職人の皆さんは今回ミラノサローネに出展できるチャンスがあります。職人の皆さんはこの経験を通じてどう変わって欲しいという思いはありますか。

井手:やはり視座や目線が上がる話だと思います。自分で作ったものが世界の舞台に出せるというチャレンジを、同世代の若手クリエイターと一緒にできる経験はモチベーション向上にもつながりますよね。

クリエイターから「こういう風にしたらいまの生活習慣にあうのではないか」という気付きは作り手にも好影響をもたらします。プロジェクトを取り組むうえでミラノサローネという舞台は視座があがりますね。

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−−梶原さん、他のカテゴリでも構いませんが、ミラノサローネに出ることによって、今まで作り手の方にはどのような変化がありましたか。

梶原:ミラノサローネに何かを出展することは、とてもハードルが高く、学生にとっては夢のまた夢というような話です。それが「bud brand」によって学生のときにチャンスに恵まれ、難関を勝ち抜いて現地へ作品を持って行き、自らも参加できる経験を提供できています。

 自分のデザインが異国の地でどういう反応をされるのか。英語も話せないのに身振り手振りで接客をするような場面もあります。そこでの時間、現地の反応はよい勉強になるのです。

またトップデザイナーの作品やプロダクトがまわりにたくさんあるので、インプットできます。インプットしながら、自分の作品もアウトプットできる。そういう2週間を経験できるので、次のステージに対してのいい踏み台や気づきがたくさんあると思います。

−−井手さん、楽しみですね。

井手:私自身がミラノサローネに行ったことがありません。これが大問題なんです(笑)。私としても現場に行ってインプットし、その学びをニューワールドの経営にも生かせたらいいなと思います。もちろん、作り手の皆さんに還元できることがベストです。楽しみにしています。

梶原:あとは、ミラノサローネでの経験を日本でどうフィードバックするのか。逆に日本発のそういったものがあってもよいと思いまっています。

−−双方向のやり取りが進むと面白そうですね。

梶原:そうですね、そのようなムーブメントが起こればいいですね。

現場で気づくことを増やし、日本のものづくりを豊かに

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−−最後に、おふたりともに聞きたいのが目指している未来です。両者が組むことによって実現できる未来について教えて下さい。

梶原:プロダクトデザインという分野が、自動車やアニメといった日本が強い産業と同じぐらいに柱になったらいいなと考えています。それを成し遂げるためには、これからを担う人たちが早い段階で、どうやって世界を意識してものづくりに取り組むかを考えることが大変重要だなと思っています。

−−さまざまな展示会に出たりして肌感覚で養って欲しいと。

梶原:養うというよりは、現場で気づくこと。そこでしか気づけないことなんですよね。

−−その気づきを与えられるような場が「bud brand」である、と

梶原:そうですね。それをまた次に生かしてほしいですよね。
木谷:世界へ発信できるチャンスは広がり、感覚的には近くなってきています。世界に対して壁を感じない人材が増えて国際感覚が一般的になれば、さらに販路も含めて感覚やセンスも日本のものづくりが、もう少しステップアップできるのではないかと思っています。

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−−「壁を感じさせない」という、ボーダーレスは物流といった分野では加速しているが、デザインはそこまで追いついてきていない。

木谷:そうですね。「日本のプロダクトはガラパゴス化している」とか言われますが一概には言えないと思うのです。どの部分がガラパゴスで、どこがスタンダードなのか。国内におけるスタンダードもとても大事ですが、海外とも壁を設けなければガラパゴス化なんて言われないと思います。高い技術やセンスの中で、新しいスタンダードを産めると感じています。すでに日本のレベルは高いものの、基準が日本という枠組みでしかやっていないのが、もったいないところです。

−−交流、他流試合をやっていくとより改善されていく、と。

木谷:そうですね。他流試合でお互いを知っていくことです。

−−ありがとうございます。井手社長はいかがですか。

井手:日本のものづくりの生態系というかエコシステムづくりでベンチマークしているのが、ヨーロッパです。

仮に日本とヨーロッパで職人の技術に差がないとしましょう。ヨーロッパが抜きん出いるのは、リデザインやブランディングといったマーケティングを担う会社が存在するからです。

日本の商流は分断されていることに対し、水平分業が機能しています。日本にはまだなく、我々ニューワールドがその立ち位置を担いたい。
 この立ち位置になるには、職人とクリエイターの距離が縮まらないと変わりません。それが大前提です。

ブランドをどういったマーケティングでお客様へ売っていくのかが手法や戦術となります。根本的にものづくりが変わらないと、大きなイノベーションはないと思っています。そういう意味では、職人とクリエイターの方がつながっていくハブはかなり重要です。

その役割を「bud brand」を通してもやっていけると、ものづくりが未来へとつながり、業界自体のステータスの変化にもつながります。そうなると後継者の問題や、若者が地方から出て行ってしまうことにもいい影響を与えられるかもしれません。それぐらいの目線で、このプロジェクトもやっていきたいです。


取材・文:西雄大
構成:木山美波

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