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一行の言葉から始まった、クラフトビールとデザインの幸福な関係。

こんにちは。CRAFT BANKのクリエイティブを担当させていただいている、サン・アドの公庄(ぐじょう)です。

本日は、コンセプトづくりや地域の仕事、コピーライティングなどに興味のある方に向けて、僕たちがどのようにブランディング(という言葉は好きでないのですが……)に関わったか、実際の企画書なども交えながらお話をさせていただければと思います。

プロジェクトの概要ときっかけ

はじめに、この投稿から見始めた方のために、
プロジェクトの簡単な説明をしますと、

かつて銀行だったビルを、クラフトビールの醸造場とクリエイターが集うコワーキングスペースにリノベーションし奥京都・福知山の街を活性化するプロジェクト

というものです。CRAFT BANKとは、ビールの銘柄でもあり、クラフトマンが集う(予定の)ビルの名称でもあります。

僕が東京と京都(福知山)の2拠点で暮らしていた時期があり、そこでクライアントと偶然出会い、ブランディングの仕事が始まったのでした。

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↑福知山の街並

外観

↑絶賛リノベーション中の外観

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↑商品パッケージ

ブランディングは、
思いを言葉にするところから。

ふだん僕は、ブランディングの他、CM・グラフィックなど広告コピーをつくる仕事をしており、このプロジェクトでは、「ビール片手に、なんかやろう。」というスローガンなどをつくらせていただきました。

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ブランド立ち上げの段階で関わらせていただく幸運な仕事でしたので、パッケージもインテリアも何も決まっていない真っさらな状態。そこで、まずは、拠り所となる言葉をつくろうと思い、スローガンを書いたのでした。
起点になったのはファウンダーである庄田さんの、

クラフトビールとコワーキングオフィスを通じてクリエイティブ人材の集まる場(コミュニティ)をつくり地方都市福知山の次世代のチャレンジの芽を創出する。(オリエンシートより抜粋)

という理念です。

ビールづくりに取り組むまでは、行政とともに地域づくりに取り組んでいた庄田さんらしい思いで、僕自身も、とても共感しました。
ただ、実際の庄田さんは大阪出身らしいノリの良さを持った楽しい方ですし、共同経営者の羽星さんも、今時なセンスを持った20代の若者。そして何しろクラフトビールのブリュワリーですから、もう少しワクワクする感じ、やんちゃな感じが良いのでは? と考えました。

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↑クライアントの羽星さん(左)と庄田さん(右)

そうして、プロジェクトのかなり早い段階で、「ビール片手に、なんかやろう。」というスローガンを書き、第一回目のプレゼンの冒頭で、まずそれを提案しました。スローガンは一案だけ。説明もたった数行でした。
以下は、実際の企画書です。

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前述の通りこのスローガンは、僕の創作というよりあくまでクライアントの中にあった考えを翻訳したものです。ですが、この表現を掲げたことで、ポップなパッケージデザインや、後に登場することになる銀行強盗キャラのような、少しやんちゃなブランドの輪郭が少し形作られた気がします。

これがもし、「ビールで、地域を盛り上げよう」という言い回しであれば、言ってる内容は同じでも、アウトプットは変わってきたかもしれません。やや非科学的に聞こえるかもしれませんが、言葉は情報を伝える記号であると同時に、それ自体が感触や性格、意志を持った生きもののような気がいつもします。

ちなみに初回の提案では、「なんかやろう」の「なんか」を「クラフト」「コネクト」「ローカル」と規定していました(プロジェクトが進むにつれて理屈っぽい話がどんどん後退していった為、このnoteを書くまで忘れていました笑)。

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そして無邪気かつ無責任な「なんかやろう」マインドで、こんなことやりましょうよ、とどんどん例をあげていきました。
たとえば空間づくりに関しては、

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などといった具合です。

僕らは無責任にいろいろと挙げただけですが、実際に、福知山の伝統工芸である和紙を用いたカウンターや、同じく地域の天然藍で染めるタペストリー、地元のアイアン作家による椅子などが現在進行中です。

「なんか」に込めた思い。

ところで、通常、広告コピーや企業メッセージの仕事で、「なんかやろう」などという曖昧な言葉は、クライアントには提案しにくいと思います。昨今では、社内の企画打ち合わせでさえ、「なんかいいよね」という曖昧な物言いはあまり褒められたものではありません。

けれど実際には、「なんだかわからないけど、なんかやりたい」という衝動や、「なんだかわからないけど、なんかいい」という価値観が人間には確かにあると思うのです。右脳の働きを左脳は説明できない、と心理学の本で読んだことがありますが、ある音楽に心動いたり、誰かを好きになってしまう理由を自分でもうまく説明できない、ということは、誰しも思い当たるのではないでしょうか。

ですからこの小さなプロジェクトでは、何億円も動く広告ビジネスと違い、
人間らしいファジーさを許容し、フレンドリーな雰囲気で進めたい、と思っていました。「なんかやろう」という言葉を掲げることで、ブランドとしての性格だけでなく、プロジェクト自体の雰囲気が、風通しの良いものになったと思います。

先に見ていただいた通り、プレゼン資料も実にシンプルで、パワポな図形や小難しいブランド理論も出てきません。もちろん、言うまでもなくクライアントのお人柄や信頼関係あってこそですが、とにかくこのプロジェクトは本当に、ただただ楽しかったですね。

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なぜやるか。誰とやるか。

少し話が脱線しますが、そもそも、仕事においては、「なぜやるか」が明確であれば、「何をやるか」は実はそんなに大切ではないと思います。「何をやるか」は手段ですから、極論、なんだっていい。CRAFT BANKの「なぜやるか」には、「地域を元気にする」という目的がありました。そして地域活性化こそ、何をやってもいいと思うのです。

「なんか面白いことやりたいよね」と人が集まって、居酒屋でワイワイ話すだけでも、地域活性化になっている(たぶん)。そこに人々の交流が生まれ、少なくとも居酒屋での数千円や、帰りのタクシー代などの経済効果が生まれる。

街並み

↑CRAFT BANKビル屋上から見た街並

そして個人的には、なぜやるかと同じくらい、誰とやるか、を大切にしています。目的が正しくて、気の合う仲間がいれば、どんな仕事も良いものになる。そんなことを最近の自分がぼんやり考えていたことも、「ビール片手に、なんかやろう。」の「なんか」につながったのだと思います。


「やろう」に込めた思い。

「ビール片手に、なんかやろう。」の「なんか」という3文字についてだけでかなりの文字量になってしまいましたが(苦笑)、「なんかやろう」の「やろう」にも、もちろん込めた思いがあります。「やる」ではなく、あくまでも「やろう」。つまり、はじめから、誰かと一緒にやることを想定していました。

そもそもCRAFT BANKは、ファウンダーである庄田さんと羽星さんの二人が
クラフトビールをきっかけに出会い、一緒に始めたプロジェクトです。
経営者のお二人。ブルワリーとお客さん。バーに集まってくるお客さん同士……。それぞれがつながって、一緒になんかやろうよ、とご縁が広がっていく。CRAFT BANKがつくりたいのは、そういう場でした。

これは、クライアントや僕の価値観でもありますが、ビールというお酒が持つ特性も関係しているのかもしれません。バーカウンターで一人ウイスキーを味わったり、一対一でじっくりと日本酒を酌み交わすのと対照的に、どういうわけかビールはみんなでワイワイ飲みながら大風呂敷を広げるのに適している、気がします。

そして「やる」でも「やれ」でもなく、「やろうよ」という感覚は、僕らクリエイティブチームとクライアントの関係そのものでした。サークルのようなノリとも、友達のような感覚、とも言えますが、敬愛するアートディレクター葛西薫さんの言葉を借りれば、とても幸福な「共犯関係」があったように思います。打ち合わせも、プレゼンも、どこか一緒に企てている感じがあり、ワクワクして仕方ありませんでした。

工事風景

↑施工中の風景

お金がないからこそ、生まれるもの。

話はどんどん脱線していきますが、CRAFT BANKは、企業が事業として始めたものでなく2〜30代の二人の青年による、個人のチャレンジです。恐らくこれを読んでくださっている方と同じように、決して潤沢な資金に恵まれたわけではありません。

それでも、「ビールが好きだから協力するよ」と言ってくれる人がたくさん現れました。旧知の仲間がビルの解体作業を手伝ってくれたり、地元の大学生たちがペンキを塗ってくれたり。その傍で、「ありがとう。醸造場が完成したら、ビールで払うから」などという会話がしょっちゅう聞こえてくる。
まるでビールが通貨のようになっているのです(笑) なんだか、とても微笑ましい光景だなと思いました。

予算に余裕があれば、業者に発注して済むところを、お金を介在させすぎないことで、感謝や一体感や仲間意識が生まれたりする。なんだかとても今っぽいような、昔からの仕事の本質なような気もします(そういえば古代エジプトではピラミッド建設の報酬は、ビールだったそうですね)。
考えてみると、お金を取り扱う銀行を壊して、ビールの醸造所に作りかえたというのも奇妙な偶然というか、なんだか示唆的だなとも思います。


そもそも、なぜ最初に言葉が必要なのか?


ここで話を戻して、そもそもなぜ最初にスローガンをつくったのか? についても書いてみたいと思います。
繰り返しますが、このCRAFT BANKのプロジェクトは、

元銀行のビルをリノベーションして、
クラフトビールの醸造所やコワーキングスペースにする。

というものです。

普通に考えれば、建築やパッケージデザインに比べて言葉は後回しにしても良さそうなもの。実際、このようなプロジェクトでは建築家やアートディレクターが率先することはあっても、コピーライターは参加しないことさえ多いのではないでしょうか(自分がコピーライターなのかは微妙ですが…)。

けれど、実際に何かプロジェクトを立ち上げたことのある人であれば共感してくれると思うのですが、それがどんなプロジェクトであれ、指針や基準となる言葉はとても重要です。

小さなお店を開くにも、巨大な国家プロジェクトを進めるにも、人間が集まって何かを行おうと思えば、コンセプトであれ、ミッションであれ、パーパスであれ、どういうわけか言葉が必要になってくる。それを僕は日々の仕事で痛感していました。

この辺りはもしかすると、僕がサン・アドという組織に属していることも影響しているのかもしれません。

サン・アドロゴ

サン・アド / 1964年創業 東京北青山に本社を置くクリエイティブ集団
https://sun-ad.co.jp

開高健さんや山口瞳さんといった芥川賞・直木賞作家らが立ち上げたこの会社では、言葉を大切にするカルチャーが色濃く、ロゴマークのように言葉が介在しない仕事でさえ、コピーライターが入ることは、決して珍しくありません。

いつも不思議に思うのですが、コピーライターというものは単体では何の役にも立たないのに(デザインも、撮影も、映像編集もできやしない)、いろんな才能が集まる場に一人いると、プロジェクトが一気に動き出したりする、変な存在です。僕は若い頃、3日限定の短期バイトを2日目でクビになったことがあり、「いったい自分は何の仕事ならできるんだろう…」と悩んでいたことがあったのですが、このヘンテコな職業があって本当によかった、とときどき思います。

話がだいぶそれてしまった気がしますが、どんなプロジェクトでも、指針となる言葉は大切、という話でした。そして、言葉と同じかそれ以上に、重要になるのがシンボルです。簡単にロゴマークやキービジュアルと言っても構いません。次回は、このシンボルについて書いてみたいと思います。

「ビール片手に、なんかやろう。」

15文字足らずの言葉の説明に、5000文字以上費やした長文、
お付き合いいただき、ありがとうございました。

(公庄仁/コピーライターなど)

※4月末まで、クラウドファンディングを行なっています。残り少ないですが応援よろしくお願いいたします!
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